中医内科



中医内科の成り立ちと分類

専門分野としての分科

中医学とは2,000年以上の歴史を持つ中国伝統医学のことです。

中医学とは、数千年以上の歴史の中で積み重ねられてきた臨床経験と、陰陽五行論とよばれる哲学理論に基づき発展してきた中国伝統医学のことです。
中国大陸最古の王朝である殷の時代、すでに頭痛や胃腸病などの内科疾患について記載され、煎じ薬や薬酒を用いて病気を治療したそうです。周の時代には医学の分科により内科医に相当する医師があらわれ、明の時代には初めて内科という名称が明記された医学書『内科摘要』が出版されました。その後も時代の流れとともに、理論の発展と医学の実践が行われて補完され、現代の中医内科学として形成されました。


症状の分類

中医内科には、一般的でよくある症状が分類されています。以下に分類を示します。

感冒かんぼう 風邪やインフルエンザなどによる悪寒・発熱・咳嗽・鼻閉・鼻汁・頭痛などの症状
咳嗽がいそう 咳や痰の症状
肺癰はいよう 肺に膿瘍を形成する病証
哮証こうしょう 哮証:発作的な痰と咳による呼吸困難の症状
喘証ぜんしょう 呼吸困難、肩をあげて呼吸をする、横になれないなどの症状
肺脹はいちょう 肺系疾患が反復して発作を起こし慢性化することによる、胸部膨満・痰が多い・咳・煩躁(不快な熱感やイライラがあり、じっとしていられない状態)・心慌(落ち着かない気持ち)などの症状
肺癆はいろう 伝染性の慢性虚損性疾患。結核。
痰飲たんいん 特定の部位に水が停滞した病証
自汗じかん 昼間に汗をかき、動くと汗が酷くなる症状
盗汗とうかん 眠っている時に汗をかき、目覚めると汗がとまる症状
血証けつしょう 出血の病証
心悸しんき 胸の動悸・驚きやすい・不安などの症状
胸痹きょうひ 胸のつまり・呼吸が苦しい・胸の痛みなどの症状
不寐ふみ 入眠困難・中途覚醒・眠りが浅い・一睡もできないなどの正常な睡眠がとれない症状
厥証けつしょう 突然倒れる・意識不明・四肢厥冷などの症状
鬱証うつしょう 情緒不安により引き起こされる鬱、怒りっぽい、喉に異物感がある、不眠などの様々な症状
癲狂てんきょう 精神障害の病証。無感情、話の辻褄が合わない、言語錯乱、わけもなく笑うなどの症状。
癇証かんしょう 発作的な精神の異常の病証。突然倒れる、意識不明、口から泡をふくなどの症状
胃痛いつう 上腹部・みぞおち付近の痛みの症状
噎膈いっかく ものを飲み込むときにのどにつかえたり、吐いてしまう症状
嘔吐おうと 物を吐き出してしまう症状
吃逆 しゃっくり
泄瀉せっしゃ 排便回数が増加、泥状、水状の便がでる症状
疾痢しつり 腹痛・膿血の下痢の症状
腹痛 胃より下の腹部の痛みの症状
便秘 排便間隔が長くなり、便意があってもスムーズに排泄できない症状
脇痛きょうつう 脇腹、肋骨あたりの痛みの症状
黄疸おうだん 体、目、小便が黄色くなる症状
積聚しゃくじゅ 腹腔内に塊ができ、痛みや張りを感じる病証
鼓脹こちょう 腹部が太鼓のように脹る症状
頭痛 単独もしくは急性や慢性疾患の症状として現れることもある症状
眩暈げんうん 目がくらみ、頭がふらふらする症状
中風 別名「卒中」ともいう。麻痺、失語、呂律が回らない、突然倒れるなどの症状
痙証けいしょう 背中や足の強張り、手足の痙攣などの症状
水腫すいしゅ 身体のある部位に浮腫が起きる病証
淋証りんしょう 排尿痛、残尿感、頻尿、腹痛、腰痛などの症状が見られる病証
腰痛 腰部の痛み
消渇しょうかち 多飲、多食、多尿、痩せる、尿濁などが見られる病証
痩証るいしょう 筋肉、骨、関節の痛み、しびれ、関節が動かないなどが見られる病証
痿証いしょう 筋肉が弛緩、軟弱、無力になり運動障害が見られる病証
内傷発熱ないしょうはつねつ 微熱、熱感の症状
虚労きょろう 慢性的な衰弱の総称


中医内科学の治療の特徴

1.全体の情報を収集していきます

1.全体の情報を収集していきます

お悩みになっている症状・病気に対して、これまでの経過・症状・病院での検査結果や治療歴・身体初見などの情報を総合的に確認します。それに加えて、その方の体質がお悩みの症状に影響するため、体質に関係する症状なども確認します。
体質は、病気の性質や経過・予後などに影響するため、治療方針をたてる上で重要になります。さらに中医学の基本の考えである「整体観」には「人間の臓腑経路は一つの整体であり、人間と自然界は一つの整体である」という理論があるので、季節、地理、気候などの影響も考慮していきます。


2.収集した情報から治療方針をたてます

2.収集した情報から治療方針をたてます

病気の状態や原因を探り、その特徴を把握するために、複数の弁証方法を組み合わせて分析します。
基本の弁証方法である八綱弁証はっこうべんしょうをはじめ、六経弁証、衛気営血弁証、三焦弁証、臓腑弁証を使い分けて治療方針を考えます。


3.中医学の体質と西洋医学の病名の両面から考えます

3.中医学の体質と西洋医学の病名の両面から考えます

体質と病気には深い関係があります。体質とは、病気が起こる原因であり、病気の経過における各段階の状態にあたるとも言えます。一方、病気からは病因・臨床的な特徴・経過・予後などが分かます。つまり病名は、病気全体を指します。
そのため、同じ病気であるにもかからず違う体質であると判断される「同病異証」、違う病気であるにもかかわらず同じ体質である「異病同証」があり、漢方薬や鍼灸治療では西洋医学の病名や安易な判断での治療は行わず、専門家に相談して治療を受ける重要性がここにあります。


4.治療方法の決定と、適宜修正します

4.治療方法の決定と、適宜修正します

治療方針に基づいて治療方法を決定します。その後は、病気や症状の経過とともに治療の効果を確認し、その都度、現状にあわせて体質や治療方法を修正していきます。
体質はずっと変わらないものではなく、変化するため、状態にあわせて調整していくため、定期的に相談していくことが大切です。


5.予防とケアを重視します

5.予防とケアを重視します

生活習慣や精神面の養生、食事、睡眠、リハビリなどが回復に影響します。そのため、体質や病気に適した養生方法をアドバイスします。
症状が緩解したのちも、体質に合わせた養生を続けることで病気の繰り返しや再発を防ぎ、健康を維持していくことが期待できます。



中医内科の
3つの基本の治療方針

標本緩急(ひょうほんかんきゅう)

標本緩急ひょうほんかんきゅう

標本緩急ひょうほんかんきゅう

「標」(表にあらわれている症状)と「本」(根本的な体質)を分けて捉え、どちらを優先に治療するか考えます。

「急則治療」急性症状を優先的に「標」から治療します
「緩則治本」慢性的な病気について根本の体質から治療します
「間者併行」複数の症状や体質を同時に治療します
「甚者独行」病気が重くて緊急の場合に、単独で効能の強い方法で治療します

扶正祛邪(ふせいきょじゃ)

扶正祛邪ふせいきょじゃ

扶正祛邪ふせいきょじゃ

扶正とは必要なものを補う方法「補法」であり身体に必要な栄養が不足している虚証に使います。祛邪とは不要なものを取り除く方法「瀉法」であり、余分なものが滞っている実証に使います。

補法:益気・養血・滋陰・助陽など
祛邪:発汗・攻下・滲湿・利水・消導・化瘀など

三因制宜(さんいんせいぎ)

三因制宜さんいんせいぎ

三因制宜さんいんせいぎ

因時(時期によって)、因地(地域によって)、因人(人によって)を示します。つまり、病気の治療をするときには、季節・場所・年齢や体質などの違いを考慮して適切な治療方法を選ぶ必要があるということです。

因時制宜:季節や気候の特徴に応じて用いる治療方法を考慮すること
因地制宜:住んでいる地域や発症した場所などを治療方法に考慮すること
因人制宜:性別・年齢・生まれつきの体質などの違いに応じて治療方法を考慮すること



中医内科学で
よく使われる治療法

解表げひょう 発汗することで病邪を取り除き、病を治す方法
生薬 麻黄・桂枝・防風・荊芥・葛根・柴胡・牛蒡子・薄荷・菊花など
漢方方剤 葛根湯・麻黄湯・銀翹散・麻杏甘石湯など
経穴 大椎・合谷・飛陽・風池・外関
清熱せいねつ 寒涼性の薬を用いて、体の内部の熱を冷ます方法
生薬 石膏・山梔子・牡丹皮・赤芍・黄連・黄柏・連翹・夏枯草など
漢方方剤 白虎加人参湯・黄連解毒湯・清上防風湯・三黄瀉心湯・竜胆瀉肝湯など
経穴 大椎・合谷・曲池・間使・行間・内庭・十二井穴
瀉下しゃげ 大便を排出することによって、胃腸の積滞や有害物質や病邪を取り除く方法
生薬 大黄・芒硝・麻子仁・番瀉葉など
漢方方剤 大黄甘草湯・大承気湯・麻子仁丸・潤腸湯など
経穴 天枢・支溝・足三里・内庭
和解わかい 胸郭や横隔膜周辺に入ってきた病邪と身体に備わった正気(抵抗力)の戦いを和解したり、肝と脾、脾と胃など臓腑同士の調和の乱れを正す方法
生薬 柴胡
漢方方剤 小柴胡湯・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蛎等・四逆散・逍遥散・柴胡疏肝散など
経穴 中渚・外関・足臨泣・大椎・間使
温裏おんり 寒さや冷えを取り除くのと、体を温める力を補い、体内の冷えをとる方法
生薬 附子・肉桂・乾姜・呉茱萸・小茴香・丁香など
漢方方剤 人参湯・呉茱萸湯・小建中湯・黄耆建中湯・大建中湯など
経穴 中かん・天枢・気海・内関・足三里

補益ほえき 体の陰陽気血の不足を補い、臓腑の虚損を補う方法
生薬 山薬・女貞子・旱蓮草・菟絲子・杜仲・淫羊藿・黄耆・人参・大棗・熟地黄・当帰・芍薬など
漢方方剤 六味地黄丸・八味地黄丸・牛車腎気丸・補中益気湯・十全大補湯・四物湯・六君子湯など
経穴 脾兪・腎兪・足三里・三陰交・太谿
消導しょうどう 脾臓や胃の働きを回復させて、飲食の積滞を取り除く方法
生薬 山楂子・麦芽・神麹・莱菔子・鶏内金など
漢方方剤 香砂養胃湯・保和丸など中湯など
経穴 中かん・下かん・足三里・内庭

理気りき 気を正常に巡らせて、臓腑の機能を回復させる方法
生薬 陳皮・枳実・香附子・木香・厚朴・縮砂・川楝子など
漢方方剤 平胃散・半夏厚朴湯・神秘湯・蘇子降気湯など
経穴 期門・支溝・陽陵泉・行間・天突・扶突・合谷・行間
理血りけつ 血を正常に巡らせて、臓腑の機能を回復させる方法
生薬 紅花・桃仁・五霊脂・莪朮・三棱・浦黄・地楡・田七人参など
漢方方剤 桂枝茯苓丸・折衝飲・温経湯・血府逐瘀湯・芎帰調血飲第一加減など
経穴 血海・地機・三陰交・膈兪

固渋こじゅう 慢性の汗・咳・下痢・帯下・遺精・出血などを止め、体の元気が失われるのを防ぐ方法
生薬 山茱萸・五味子・蓮肉・金桜子・肉豆蔲・芡実・烏梅など
漢方方剤 桂枝竜骨牡蛎湯・玉屏風散・生脈散など
経穴 合谷・復溜・気海・足三里・三陰交
開竅かいきょう 精神・意識を活き活きとさせる方法
生薬 牛黄・石菖蒲・麝香など
漢方方剤 牛黄清心丸など
経穴 合谷・太衝・心兪・神門・三陰交・間使

鎮痙熄風ちんけいそくふう 筋肉の強張りや痙攣を静めたり、体の中に風が吹いている状態(内風)を静める方法
生薬 釣藤鈎・蒺藜子・天麻・石決明・地竜など
漢方方剤 半夏白朮天麻湯・抑肝散・芍薬甘草湯・当帰飲子など
経穴 風池・内関・合谷・太衝・三陰交・太谿


これらの治療方法は、弁証論治をもとに単独で用いたり相互に配合して用いたりしながら、個々の病状に対処していくことになります。
誠心堂では、中医師(中国で中医学を専門とする医師)、国際中医専門員が多数在籍しており、国内でもトップクラスの中医治療をうけることが出来ます。