体質で考える「着床障害」
更新日:2023.11.13
着床障害とは?
体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合8割以上の方が妊娠されるといわれており、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を“反復着床不全”と呼んでいます(日本産婦人科学会ホームページより)。
着床障害に関しては、原因がまだ十分解明されていない分野であると同時に、研究がどんどん進んでおり、昨今様々な検査方法や治療法が出てきています。そのため、病院ごとに実施する検査内容が異なっているのが現状です。また、着床しても途中で発育が止まり流産を繰り返しているものを“不育症”と呼びますが、着床障害と不育症は重なる部分があるため、着床障害の検査の中には不育症と同様の検査内容が含まれることもあります。
着床障害の原因と治療
着床障害の原因として考えられるものは、大きく分けて3つの問題があるとされています。
①
受精卵側の問題
染色体に問題があったり、年齢により受精卵に問題があると受精卵が成長できないため、着床できなかったり着床してもその後の胎嚢確認や心拍確認までいかないことがあります。着床したとしても安定期に入るまでの流産の多くは染色体の問題だと考えられます。
“反復体外受精・胚移植(ART)不成功例、習慣流産例(反復流産を含む)、染色体構造異常例を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の有用性に関する多施設共同研究”の研究分担施設として承認されているクリニックが出てきています。検査には条件がありますが、いくつかの病院のホームページを詳しく読んでみるとよいでしょう。
②
子宮内の環境の問題
粘膜下筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮の奇形のほか、慢性子宮内膜炎など様々な子宮環境の問題があり、現在は検査の種類がどんどん増えています。
※(感染性)慢性子宮内膜炎
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慢性子宮内膜炎は全体の約1~3割といわれ、子宮内感染(細菌、クラミジアなど)、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫などが原因とされていますが、はっきりと特定されていません。感染の持続により免疫反応が刺激されると、子宮内膜内の免疫異常を引き起こしたり、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性が指摘されています。急性の子宮内膜炎は生理のときに細菌も一緒に排泄されて治ることもありますが、慢性子宮内膜炎は自覚症状が無いことも多く、子宮内膜の基底層にまで炎症が起こっているため自然には治ることはありません。そのため、抗生物質を2~4週間ほど服用して治療していきます。
慢性子宮内膜炎の診断には“BCE検査”や“ALICE検査”があります。
BCE検査とは、子宮内膜を少量採取し子宮内膜間質への形質細胞の浸潤(CD138陽性細胞)を免疫染色という方法により病理組織学的に診断することで、現在慢性子宮内膜炎になっているかを調べることができます。
ALICE検査とは、子宮内の細菌のDNAを検出して細菌の特定と割合を出す検査であり、細菌を特定することは可能ですが、現在慢性子宮内膜炎なのかどうか?の診断にはなりません。ただし、近い将来炎症を起こす可能性が高いのではないか?と推測することは可能であり、細菌を特定できるとピンポイントで必要な抗生剤を使用することができます。
※子宮内膜症性腹水や卵管留水腫の内溶液
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卵管に水がたまっていることを“卵管水腫(らんかんすいしゅ)”といい、この水が子宮内に流れ込むことで慢性子宮内膜炎を引き起こしたり、物理的に着床の邪魔をする可能性があります。卵管水腫がある場合は手術で対応したり、慢性子宮内膜炎が起こっている場合はそのものの治療も行います。
※子宮内膜の細菌叢(ラクトバチルス菌)の共生バランス
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子宮内膜には子宮内膜フローラといわれる細菌叢が存在し、その菌のバランスが崩れるとARTの治療成績が不良になることが分かってきています。特に子宮内膜の乳酸桿菌(ラクトバチルス菌)のレベルの変化が不妊の一因となっているといわれています。 “EMA検査(子宮内膜マイクロバイオーム検査)”とは、子宮の細菌叢が胚移植に最適な状態であるかどうかを判定する検査です。ラクトバチルス菌が90%以上あることがよいとされていますが、それだけはなく細菌叢としてのバランスが整っていることが大切です。細菌叢のバランスが悪い場合(ラクトバチルス菌が少ない場合)乳酸菌膣錠などを使って治療を行い、子宮内膜の細菌叢のバランスを整えていきます。
※インプランテーションウィンドウ(着床の窓)
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胚が着床できる時期は決まっていて、高温期ならいつでもいいというわけではありません。“ERA検査(子宮内膜着床能検査)”とは、移植する日の子宮内膜が着床可能状態にあるかどうか(着床の窓が開いているか)を遺伝子レベルで調べることができるもので、移植に最適な時期を判断することができます。ERA検査により、着床障害の2~3割が移殖の時期がずれていたことが分かっています。検査に問題がなければ今までと同じタイミングで移植を行い、胚移植のタイミングが早すぎた場合はプロゲステロン製剤投与から胚移植までの間を長く、胚移植のタイミングが遅すぎた場合はプロゲステロン製剤投与から胚移植までの間を短くすることで適切な時期に胚移植ができるように調整します。
※着床時期に子宮収縮が起こっていないか
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着床の時期に子宮が収縮をしていると受精卵の着床を妨げる原因となります。そのため、エコー動画検査では着床期にエコーを3分間撮影し10倍速で分析します。正常であれば着床期に子宮収縮は見られませんが、子宮収縮がある場合は着床期に薬を服用して子宮の動きを止めます。ちなみに生理中に子宮は上から下に動いて排出を助け、排卵期は下から上に動くことで精子の受け入れを助けています。
③免疫寛容(受精卵の受け入れ)の問題
※銅亜鉛検査
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銅と亜鉛の比率で、銅の比率が一定よりも高くなると着床に影響すると考えられています。銅には着床を妨げる働きがあるため、子宮内に挿入する避妊具にも銅が使われます。銅と亜鉛は打ち消し合うように働く性質があるため、銅より亜鉛が少し多いほうがよいとされています。治療には亜鉛サプリを服用します。
※ビタミンD検査
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ビタミンDの不足は、卵の数や質の低下、妊娠率の低下、不育症、妊娠合併症などと関連します。また、子宮内膜症や多嚢胞卵巣症候群などの方は、ビタミンDの値が低いともいわれています。逆にいうとビタミンDが十分にある方は、40歳以上の女性でもAMH(卵巣予備能)が高いとされ、体外受精の妊娠率の上昇や習慣性流産のリスクを下げるなどの良い面があります。治療にはビタミンDサプリを服用します。女性の方で日焼け止め対策を行いすぎて紫外線を全く浴びていないとビタミンDの不足にもなりやすいので気をつけましょう。
※甲状腺機能検査
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本病の方は、一般の妊婦に比べて流産や早産がわずかに多いとの報告があります。妊娠前はホルモン値が正常でも、妊娠すると甲状腺機能が低下しやすいことが原因と考えられています。妊娠初期の胎児は、自分で甲状腺ホルモンを作ることができないため、母体からの甲状腺ホルモンにより成長しますが、甲状腺ホルモンは胎児の発達に大切な働きをしています。妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量は3割程増えますので、妊娠前と妊娠後も病院で適切なホルモン値にコントロールすることが大切です。
※免疫異常 Th1/Th2比
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免疫異常による着床障害の原因の一つとして、1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)の比率異常があります。Th2が優位な状態では着床や妊娠を継続しやすいと考えられており、Th1が優位な状態では母体が胎児を異物として認識してしまい、拒絶反応により着床や妊娠が妨げられやすいと考えられています。採血によってTh1/Th2の比率を測定し、Th1高値の方はタクロリムスや漢方薬などで治療を行います。
※抗リン脂質抗体
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抗リン脂質抗体は、自己免疫異常の一つです。血液が固まり血栓ができやすくなるため、胎盤の細い血管に血栓ができると、胎児に十分な栄養と酸素を送ることができなくなり、流産や死産につながると考えられます。治療はアスピリンの内服やヘパリンの注射を行います。
※シート法
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胚は発育途中に子宮内膜に対して着床を助ける物質を分泌しますが、その物質は胚培養中の培養液にも存在するため、着床率を上げる目的で培養液を移植前の子宮内に注入します。
※2段階胚移植法
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子宮内膜を整える目的で受精後2~3日目に初期胚を移植し、5日目に胚盤胞を移植する方法です。
※アシステッドハッチング(AHA)
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胚の透明帯が厚かったり硬い場合は、受精卵がうまく孵化できず着床できないことがあります。アシステッドハッチングは、レーザー照射によって受精卵の殻(透明帯)に穴を開けたり、薄くすることで着床を促す方法です。
※エンブリオグルー【商品名】
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エンブリオグルーとは、胚移植の際に用いる特殊な培養液のことです。子宮内にはヒアルロン酸が存在して着床を助けていますが、エンブリオブルーはヒアルロン酸を多量に含んでおり着床をサポートします。
※子宮内膜スクラッチ
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検査器具や子宮鏡カメラの先端などで子宮内膜の表面を傷つけることで、胚移植した際の妊娠成績が向上する可能性があることが報告されています。胚移植周期の前の高温期中期あたりに行われます。
漢方で考える着床障害
中医学では、大切な受精卵を守るのは“気(エネルギー)”だと考えており、受精卵にしっかりと栄養を与えるのは“血(けつ)”だと考えています。この気や血が充実し、しっかり巡っていることが着床とその後の妊娠維持に不可欠であるため、着床時期の前からしっかりと気血を充実させておくことが大切です。また、血流が滞っていることを“瘀血(おけつ)”と呼び、着床を妨げます。
中医学体質別治療法
①
気血両虚(きけつりょうきょ)体質
良質な子宮内膜が育つのに必要な血(けつ)や血を運ぶための気(エネルギー)が不足している。
随伴症状:倦怠感、食欲不振、不眠、顔色が白い、めまい、眼精疲労、動悸、脱毛など。
子宮内膜の材料となる気血が不足すると、充分に栄養が行き渡らないため着床を維持しにくくなります。
漢方 |
十全大補湯、人参養栄湯など |
ツボ |
足三里、三陰交など |
食材 |
豆腐などの大豆製品、卵、いんげん豆、山芋、人参、ほうれん草など |
②
気滞血瘀(きたいけつお)体質
ストレスなどの精神刺激により、気の巡りが停滞して血行不良となる。
随伴症状:肩こり、頭痛、イライラ、憂うつ感、喉のつまり、便秘など。
血行不良になると、子宮の栄養状態が悪くなり着床を維持しにくくなります。
漢方 |
血府逐瘀湯、加味逍遙散など |
ツボ |
太衝、三陰交 |
食材 |
ミント、ジャスミン、春菊、三つ葉、みかんの皮、バラの花、玉ねぎなど |
③
肝腎不足(かんじんぶそく)体質
虚弱体質や加齢などにより、女性ホルモンの働きが低下している。
随伴症状:足腰のだるさ、倦怠感、目の疲れ、筋肉のつり、夜間尿、耳鳴り、めまいなど。
生命エネルギーの源である“腎(じん)”と血(けつ)を蓄える“肝(かん)”の働きが落ちると、女性ホルモンバランスが乱れるため、着床を維持しづらくなります。
漢方 |
杞菊地黄丸、二至丸合六味丸など |
ツボ |
腎兪、肝兪など |
食材 |
黒豆、黒きくらげ、ひじき、海苔、卵、松の実、クコの実、くるみ、栗など |
着床障害の鍼灸治療
妊娠のためには全身の血の巡りが良いことが大切ですが、着床のタイミングでは特に骨盤内血流(子宮内の血流)が豊富であることが大切で、妊活鍼灸 誠心堂式三焦調整法(さんしょうちょうせいほう)”により自律神経の調整や血流バランスを整えることで、子宮や卵巣への安定的な血流改善を行います。また、病院における高度生殖補助医療(ART)の際には胚移植前後での“着床鍼”の案内も行っています。お家でのツボ押しやお灸も、子宮を温めたり着床の助けになるため、積極的に取り入れるようにしましょう。
着床障害で使う代表的なツボ
三陰交(さんいんこう)、腎兪(じんゆ)、関元(かんげん)など。
暮らしのアドバイス
・規則正しい生活リズムを送りましょう
・睡眠不足に注意しましょう
・生ものや冷たいものの摂りすぎに注意しましょう
・ストレスをうまく発散しましょう
・適度な運動で全身の血行をよくしましょう
日本全国よりご相談を頂いております。
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