不妊で黄体機能不全と診断されました。おすすめの漢方薬はありますか?

「黄体機能不全の体質に合わせて、活血化瘀薬、補腎薬、安神薬の漢方薬があります。」

黄体機能不全



黄体機能不全とは

黄体からのホルモン分泌が正常に働かなくなる状態のことをいいます。

黄体とは、成熟卵胞が排卵した後に卵巣内に残された内分泌組織のことです。わかりやすくいうと卵子が排卵した後の卵胞の抜け殻です。黄体は黄体ホルモン(プロゲステロン、 P4)を分泌し、このプロゲステロンが子宮内膜に働きかけて内膜を厚くし、受精卵が着床するための準備をしてくれます。そのため黄体機能不全では、生理不順、着床障害、流産などの可能性があります。不妊症のうち、約10%がこの黄体機能不全によって起こると言われています。

卵巣
参考イメージ: 誠心堂グループ 妊活サポートノート
卵巣
出典元: 誠心堂グループ 妊活サポートノート






黄体機能不全の原因


主に以下のような原因が考えられます。

黄体機能を調節しているホルモンがうまく働かない: 視床下部~下垂体前葉ホルモン(卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体化ホルモン(LH))機能不全

卵巣がうまく働かない: 卵巣機能不全

子宮内膜の異常

また最近の報告として、子宮・卵巣の血流不全に伴う黄体組織の血管新生不全が提唱されています。



黄体機能不全と漢方薬

type1
骨盤内血流を改善する= 活血化瘀薬 かつけつかおやく

西洋医学でも原因として考えられている骨盤内血流を改善することはとても重要です。 中医学ではこの働きを持つ漢方薬のことを活血化瘀薬と呼んでいます。 体質によって違う漢方薬を選択します。よく用いられる漢方薬をご紹介します。

1. 桂枝茯苓丸 けいしぶくりょうがん

症状:冷えとのぼせがある、生理痛がある、経血に大きな塊がある、経血の色が暗いなど
体質:瘀血体質を持つ方に用います。
説明:桂枝茯苓丸の中に配合されている、桃仁・牡丹皮・芍薬は 活血薬 かっけつやく の代表的な生薬です。瘀血体質は、ストレスや冷え性や老化などによって発生するので、その原因によって漢方薬を変更したり、他の漢方薬と組み合わせたりして用います。
類似漢方薬:折衝飲、牛膝散など

2. 当帰芍薬散 とうきしゃくやくさん

症状:冷えと浮腫みと貧血がある場合に用います。
説明:当帰芍薬散の中に配合されている、当帰・川芎は 補血 ほけつ 作用と柔らかい血行促進(活血)作用があります。また白朮・茯苓・沢瀉は水分代謝を改善しながら胃腸機能も高めます。日本人女性は、胃腸機能が弱く、むくみやすい体質のため広く服用されている漢方薬です。
ただし、黄体形成不全が明らかな場合には、 補腎薬 ほじんやく や他の活血化瘀薬と組み合わせる必要があります。

3. 芎帰調血飲 きゅうきちょうけついん

説明:産後の一切の諸病や貧血や胃腸虚弱に用いられてきた漢方薬です。産後は2週間程度で子宮復古するため、骨盤内血流を改善することは、とても重要なことです。芎帰調血飲の中に配合されている、熟地黄は補血効果があり貧血にも有効です。また、益母草・牡丹皮などの活血化瘀薬に、烏薬・香附子・陳皮などの気分をリラックスさせる 理気薬 りきやく が配合されていて、ストレスがかかるタイプの方にも向いています。

4. 温経湯 うんけいとう

説明:温経湯は名前の通り、体に巡っている経絡を温めて血流を改善する漢方薬です。
経絡のうち 肝経 かんけい は足の親指から足首を通り鼠径部を経由して子宮や骨盤内をめぐる経絡です。足元の冷えによってこの経絡が冷やされると子宮や卵巣の血流が悪くなります。
体質:生理痛や経血に塊が出る、冷えることによって下腹部痛が増悪するタイプの方に向いています。

温経湯
写真出典元: https://harikyu-jinendo.jp/sozai01.html
温経湯
写真出典元: https://harikyu-jinendo.jp/sozai01.html
type2
卵巣機能を高める= 補腎薬 ほじんやく

成熟卵胞から卵子が排卵した後の抜け殻が黄体へと変化していきます。未成熟な卵胞では十分な黄体ホルモン分泌することはできません。このため黄体形成不全となることがあります。卵胞の発育を促すためには卵巣機能を元気にする補腎薬がおすすめです。
補腎薬は植物性と動物性に分かれます。効果としては動物性の補腎薬(血肉有情の漢方薬)の方が強く、不妊症のように年齢が関係している場合に向いています。

1. 亀鹿二仙膠 きろくにせんきょう

説明:補腎の働きには、 腎陰 じんいん 腎陽 じんよう の2つがあります。
腎陰は卵胞の発育や卵胞液の充実を助け、腎陽は黄体形成の助けをします。
亀鹿二仙膠の中には亀板膠と鹿角膠がメインで含まれています。亀板膠には腎陰を補う働き、鹿角膠には腎陽を補う働きがあります。生理周期では低温期に腎陰、高温期に腎陽が深くかかわるので亀鹿二仙膠はどの周期においても用いることができる漢方薬と言えます。

2. 参馬補腎丸 じんばほじんがん

説明:13種類の動物性・植物性生薬を配合し丸剤としたもので、虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症の場合の滋養強壮補腎薬です。
参馬補腎丸の中に配合されている海馬・鹿茸はともに腎陽を補う作用の強い動物性の補腎薬です。更に、杜仲・地黄など植物性の補腎薬も配合されています。

3. 参茸補血丸 さんじょうほけつがん

説明:参茸補血丸は人参、鹿茸を主薬とした、補腎薬の一つです。
人参・鹿茸の他に竜眼肉・当帰・黄耆・午膝・杜仲・巴戟天という合計8種類の生薬を配合し丸剤としたもので、虚弱体質、肉体疲労、病後の体力低下、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症の場合の滋養強壮補腎薬です。

type3
自律神経を整える= 安神薬 あんじんやく

ホルモンの流れである 性腺軸 せいせんじく をコントロールしているのは 視床下部 ししょうかぶ です。ここでは自律神経の調整も行っています。ですから、ストレスがかかりすぎると視床下部にも影響がでてくるのです。
普段から睡眠不足・運動不足・栄養不足といった生活をされている方はホルモンのバランスが乱れやすくなります。視床下部からのホルモン分泌リズムが乱れると、下垂体から分泌される黄体化ホルモン(LH)に影響が出てることで、排卵障害や黄体ホルモン形成不全、黄体機能不全をおこすことになります。
漢方薬ではホルモン様作用がある薬草は少なく、自律神経や組織の血流を調整することでホルモンのバランスを整えます。

1. 加味逍遥散 かみしょうようさん

自律神経を調整する代表的な漢方薬です。
説明:加味逍遥散の中に配合されている柴胡・薄荷は、ストレスを発散する 疏肝 そかん 作用があります。また、当帰・芍薬は婦人薬の基本の生薬であり、血流改善や補血作用があり子宮や卵巣に行く血流を促進してくれます。さらに、白朮・茯苓・生姜の組み合わせにより、胃腸を温めて栄養の吸収を増やし貧血などの予防にも有効です。
体質:生理周期が前後に不定期になりやすい方、PMS(月経前緊張症候群)が顕著な方、肩こりや筋緊張性頭痛が起こりやすい方にもおすすめです。

2. 柴胡加竜骨牡蛎湯 さいこかりゅうこつぼれいとう

体質:交感神経の興奮が収まらず、イライラや不眠症・動悸などが起きやすい方におすすめです。柴胡加竜骨牡蛎湯の配合には、便通を促す大黄が含まれている種類があり便通が悪い場合に用います。またストレスが多くかかっている場合には、黄芩が配合されている種類をお勧めします。
説明:柴胡加竜骨牡蛎湯の中に含まれる柴胡・黄芩の組み合わせは、交感神経の興奮を緩和する働きがあります。半夏・茯苓は、老廃物である 痰湿 たんしつ を取り除く働きがあり、頭重感や抑うつ感を緩和してくれます。特に重要な生薬に竜骨・牡蛎があり、鎮静効果で夜間の興奮を抑えるため頭部の充血が収まり安眠作用があります。

3. 天王補心丸 てんのうほしんがん

体質:体力の低下を改善する作用・神経のいらだちを鎮める作用があります。精神的ストレスの持続や、加齢によって起こる「眠りが浅い」「目がさめやすい」「よく夢を見る」のような不眠に用います。
説明:天王補心丸の中に配合されている、地黄・麦門冬・天門冬・玄参・当帰により、ストレスによって消耗した 陰血 いんけつ を補充することで自律神経の修復を行います。茯苓・丹参・五味子・柏子仁・遠志・酸棗仁により交感神経の興奮を抑えてくれます。党参は人参と同じ働きがあり胃腸を温めながら気血を補う働きがあります。



黄体機能不全で
漢方を用いる際の注意点

相談

ここまでお話ししてきたように黄体機能不全で選択される漢方薬は多岐にわたります。黄体機能不全の原因となっている体質をきちんと確認することが大切です。適した漢方薬を選択するためには個人の判断での服用ではなく、漢方の専門家に相談しましょう。