漢方薬辞典-さ行

 

犀角地黄湯 さいかくじおうとう

効能効果

夜間に増悪する発熱、意識障害、吐血、鼻出血、血便、不正性器出血

配合生薬

地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)、牡丹皮(ボタンピ)、犀角(サイカク)

出典

《温病条弁》に「時に口を漱がんと欲して咽むを欲せず(口をすすぎたいと欲するが飲みたいとは思わず),大便黒くして易きは,瘀血あるなり(大便が大腸の出血により黒くなりやすいのは瘀血があるからである),犀角地黄湯これを主る」とある。

方意と構成

本方は血分証(温熱の病邪による病の段階が最も重いもの)に対する代表方剤である。

主薬が犀角であり、血熱(血に熱がこもっている状態)を冷ます<清心涼血> 。これに血熱を冷まし熱によって消耗する津液(体液)を充足する生地黄<涼血養陰> 、血熱を冷まし血を巡らせて瘀血(血行不良)を取り去る牡丹皮・赤芍を加えている <涼血活血>。

(管理No.02-239)

 

柴陥湯 さいかんとう

効能効果

咳、咳による胸痛

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、黄連(オウレン)、栝楼仁(カロニン)

出典

《勿誤薬室方函口訣》には「誤下の後(風邪を誤って下剤で下した後),邪気虚に乗じて心下に聚まり(病邪が虚に乗じてみぞおちに集まり),胸中の邪がいよいよ心下の水と併結するもの(胸中の病邪がみぞおちの水湿と結びついたもの)を治す。馬脾風(ジフテリア)の初起に竹茹を加え、痰咳の胸痛に運用すべし」とある。

方意と構成

少陽病(病邪が体表と体内の間にある病態)を解消する「小柴胡湯」に<和解少陽> 、みぞおちで痰と熱が結びついて内結した“小結胸”の状態を改善する「小陥胸湯」 <清熱化痰> を加えたものである。肋膜炎や気管支炎、肺炎など小柴胡湯証よりも痰を吐き咳がひどく、胸痛のあるものに用いる。

(管理No.02-071)

 

柴胡加竜骨牡蛎湯 さいこかりゅうこつぼれいとう

効能効果

高血圧の随伴症状(どうき、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜なき

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、竜骨(リュウコツ)、牡蛎(ボレイ)、生姜(ショウキョウ)、大黄(ダイオウ)

出典

《傷寒論》太陽病中篇に「傷寒八九日(風邪をひいて8~9日ほど経た時),これを下し(下剤をかけたところ),胸満煩驚し(胸が張って極度の神経過敏になり),小便利せず(小便が出ず),譫言(うわごと)し,一身尽く重く(全身が重く感じ),転側すべからざるものは(身動きができないようになったものは),柴胡加竜骨牡蛎湯が主治する」とある。

方意と構成

胸腹部に胸脇苦満があり(胸脇が脹って苦しく)臍の動悸が亢進していて、様々な精神症状があるタイプに用いる。

少陽病を解消する「小柴胡湯」により <疏通少陽枢機> 、病邪によって生じる少陽三焦(元気や水の通り道)や厥陰肝経の気の詰まりを取り去り、桂枝は残存する病邪を発散することでこれを助ける <祛邪疏通少陽>。大黄は熱の病邪を便で排泄し<清熱祛邪通便> 、竜骨・牡蛎は鎮心安神(精神安定)し、茯苓は水の流れを整えるとともに精神安定に働く。

ストレスなどの精神失調で肝鬱化火(肝の疏泄が停滞して気血の巡りが滞り熱が生じた状態)となり、胃腸を傷害して痰が生まれ、少陽・厥陰の気の循環を阻滞したために生じる不眠・動悸・めまい・精神不安・遺精・インポテンツなどにも適用できる。

(管理No.02-072)

 

柴胡桂枝乾姜湯 さいこけいしかんきょうとう

効能効果

更年期障害、血の道症、不眠症、神経症

配合生薬

柴胡(サイコ)、桂皮(ケイヒ)、栝楼根(カロコン)、黄芩(オウゴン)、牡蛎(ボレイ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》太陽病下篇に「傷寒五六日(風邪をひいて5~6日ほど経た時),すでに汗を発して復たこれを下し(発汗による治療法を使い,その後また便を出す治療法を使い),胸脇満し微しく結し(胸脇が脹る感じがして),小便利せず(小便が出ず),渇して嘔せず(のどが渇くが嘔吐せず),ただ頭汗出で(ただ頭だけに汗が出て),往来寒熱し(悪寒と発熱が交互に起こり),心煩するものは(胸がほてって落ち着かないものは),これいまだ解せざるとなすなり(まだ治癒していない状態である),柴胡桂枝乾姜湯の主治である」とある。

方意と構成

少陽病と太陽病を解消する「柴胡桂枝湯」よりさらに虚弱な体質で、内外の陽気が不足し、発汗と瀉下により体内の水分が欠乏し、なおかつ気の上衝(気の上昇によるのぼせ・頭痛・緊張・煩熱)があるものに用いる。

柴胡で少陽三焦(元気と水の通り道)の詰まりを通じさせて病邪を散らし、黄芩で病邪による熱と胆の熱をとる <和解少陽> 。桂枝・乾姜は脾(胃腸)の陽気を高めて水の停滞を防止するとともに、少陽三焦を通して水を巡らせる <温陽利水>。天花粉(栝楼根)は炎症を抑えつつ津液(体液)を生む<清熱生津> 。乾姜・桂枝は“温性”で熱を生むが、黄芩が熱を抑え、牡蛎が鹹寒鎮潜(“鹹寒”の性味で陽気を抑える)し調整する。炙甘草は諸薬を調和する。

(管理No.02-073)

 

柴胡桂枝湯 さいこけいしとう

効能効果

多くは腹痛を伴う胃腸炎、微熱、寒気などのある感冒、かぜの後期の症状

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、黄芩(オウゴン)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《傷寒論》太陽下篇には「傷寒五六日(風邪をひいて5~6日ほど経た時),発熱し,微しく悪寒し(発熱はあるが悪寒はわずかになり),支節煩疼し(骨の節々がだるく痛み),微しく嘔し(少し吐き気があり),心下支結し(みぞおちが痞えて脹ったようになり),外証いまだ去らざるものは(悪寒発熱などの表証がまだ残っているものは),柴胡桂枝湯これを主る」とある。

方意と構成

少陽の部位における病邪を解消する「小柴胡湯」と太陽病の治剤である「桂枝湯」を半量ずつ合方したものである。

少陽三焦(元気や水の通り道)の詰まりを解消して胸脇苦満(胸脇が脹って苦しく)や口の苦み・吐き気・嘔吐・みぞおちの痞えなどをとる“和解少陽”と、悪寒や発熱・頭痛などの表証(病邪による病で初期に現れる病症)を改善する“解肌解表”を兼ねる。

(管理No.02-074)

 

柴胡清肝湯 さいこせいかんとう

効能効果

神経症、慢性扁桃炎、湿疹

配合生薬

柴胡(サイコ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)、黄柏(オウバク)、山梔子(サンシシ)、栝楼根(カロコン)、薄荷(ハッカ)、甘草(カンゾウ)、連翹(レンギョウ)、桔梗(キキョウ)、牛蒡子(ゴボウシ)

出典

森道伯の主宰した一貫堂の処方である。原方名は散になっている。同名方が多く、柴胡清肝湯は《明医雑著》、《寿世保元》、《外科正宗》などにある。処方の内容は少しずつ違っている。

方意と構成

肝・胆・三焦経の風熱(風と熱の病邪が合わさったもの)で、体表部・頭部・咽喉部・頸部・耳部の炎症(皮膚化膿症・中耳炎・咽喉炎・扁桃炎など)を治すものである。

血熱(血に熱がこもっている状態)を冷まし血を補う「温清飲」<清熱解毒・補血> に、風熱の病邪を取り除き、解毒して膿を出す柴胡・牛蒡子・連翹・薄荷・桔梗・天花粉・甘草・桔梗を加えたものであり <祛風清熱・解毒排膿>、柴胡は肝胆経に薬の効き目を導く<引経肝胆>。

(管理No.02-075)

 

柴胡疏肝湯 さいこそかんとう

効能効果

腹痛、側胸部痛、神経痛

配合生薬

柴胡(サイコ)、芍薬(シャクヤク)、枳実(キジツ)、甘草(カンゾウ)、香附子(コウブシ)、青皮(セイヒ)、川芎(センキュウ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》「この方は四逆散に加味したのだから,脇痛に用いるばかりでなく,四逆散の証で肝臓の機能が悪くなって,胸脇が鬱塞して痛みを覚え、あるいは衝逆して(のぼせなど気が下から上に突き上がって)頭痛がしたり,肩や背が強ばりひきつれるものを治する効がある」とある。

方意と構成

「四逆散」<疏肝解鬱> に気を巡らせる“行気”、血を巡らせる“活血”の働きがある香附子・青皮・川芎を加えることで、気血の巡りを整え、止痛する働きをつよめる。四逆散よりも気の鬱滞が強く、胸・脇・腹が痛むものに用いる。

(管理No.02-076)

 

柴芍六君子湯 さいしゃくりっくんしとう

効能効果

胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、柴胡(サイコ)、芍薬(シャクヤク)

出典

多紀桂山の著書《本朝経験方》に収載されているという。

《勿誤薬室方函口訣》に「脾気病は腹筋拘急して痛み(腹筋がひきつって痛み),また胸脇へひきつける形(胸脇部にかけて脹る)あるゆえに柴芍と伍するなり。畢竟は四逆散の証にして脾胃一層虚候あり(要するに四逆散の証で胃腸の虚弱症候があり),後世のいわゆる肝実脾虚(情緒変動により肝気の鬱滞があり胃腸の機能を阻害しているもの)というところに用ゆべし」とある。

方意と構成

胃腸を強化して水や痰が停滞した状態を改善する“健脾化痰”の「六君子湯」に気血を伸びやかにする“疏肝解鬱”の柴胡と、陰血(体液と血)を養い肝を柔軟にさせ痙攣を止める“柔肝止痙”の白芍を加えて、肝脾を調和させる。六君子湯の証で、腹直筋の拘攣、あるいは腹痛のあるものに用いられる。

(管理No.02-077)

 

柴蘇飲 さいそいん

効能効果

耳鳴り、耳閉感

配合生薬

柴胡(サイコ)、黄芩(オウゴン)、半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、香附子(コウブシ)、蘇葉(ソヨウ)、陳皮(チンピ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》に「この方小柴胡湯の証にして鬱滞(気の鬱滞)を兼ぬる者に用ゆ。耳漏を治するも,少陽の余邪鬱滞して解せざる(慢性中耳炎を治せるのも、病邪が少陽の部位に鬱滞しているためである)が故なり。その他,邪気表裏の間に鬱滞する者(体表と体内の間に病邪が滞るもの)に活用すべし」とある。

方意と構成

少陽の病邪が鬱滞して起こる慢性中耳炎などに適用され、風邪で耳閉感を伴ったり、風邪から中耳炎を併発した場合にも用いられる。

気と水の通り道である三焦の詰まり取り去り少陽病を解消する「小柴胡湯」<和解少陽> に、冷えを散らして気を巡らせる「香蘇散」を合方し<理気解表> 、気の鬱滞を解消する力をつよめる。

(管理No.02-078)

 

柴朴湯 さいぼくとう

効能効果

小児喘息、気管支喘息、気管支炎、咳、不安神経症

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、茯苓(ブクリョウ)、厚朴(コウボク)、蘇葉(ソヨウ)

出典

小柴胡湯は《傷寒論》、半夏厚朴湯は《金匱要略》を出典とする。

方意と構成

気と水の通り道である三焦の詰まり取り去り少陽病を解消する「小柴胡湯」<和解少陽> に、気を巡らせて痰を取り去る「半夏厚朴湯」<理気化痰> を配合したものである。風邪でこじれた咳や気管支喘息の発作予防・神経衰弱・ノイローゼなど精神不安の傾向があるものに用いる。

(管理No.02-079)

 

柴苓湯 さいれいとう

効能効果

水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、沢瀉(タクシャ)、猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、桂皮(ケイヒ)

出典

《世医得効方》に「傷風,傷暑の瘧を治す(風邪をひき、夏期の暑さで起こる感染性胃腸炎を治す)」とある。

方意と構成

気と水の通り道である三焦の詰まり取り去り少陽病を解消する「小柴胡湯」<和解少陽> の証で、口が渇き、小便が出ず、下痢がするものに用いる。利水作用ある「五苓散」 <利水滲出>を合方することで水湿の除去をつよめる。

(管理No.02-080)

 

左帰飲 さきいん

効能効果

腰や膝がだるく無力、頭のふらつき、めまい感、目がかすむ、耳鳴り

配合生薬

地黄(ジオウ)、山薬(サンヤク)、山茱萸(サンシュユ)、枸杞子(クコシ)、甘草(カンゾウ)、茯苓(ブクリョウ)

出典

《景岳全書》に「これ壮水の剤なり(水の源を盛んにする薬である),およそ命門の陰衰え陽勝れば(生命の水が衰え陽気が勝ったならば),この方の加減によろしくこれを主る」とある。

方意と構成

主薬は熟地黄であり、大量に使うことで真陰(腎の水)を補う<滋養真陰> 。これに肝腎を養う枸杞子・山茱萸<補腎益精・養肝> 、脾胃(胃腸)の機能を高め腎の精気を守る山薬<補腎益精・健脾> 、脾胃を益する茯苓・甘草<健脾和中>が配合されている。

全体で腎・肝・脾を補益する。以上により、命門の陰(生命の水)である真陰が衰微した状態を改善する。

(管理No.02-240)

 

左帰丸 さきがん

効能効果

腰や膝がだるく無力、頭のふらつき、めまい感、目がかすむ、耳鳴り

配合生薬

地黄(ジオウ)、山薬(サンヤク)、山茱萸(サンシュユ)、菟絲子(トシシ)、鹿角膠(ロッカクキョウ)、亀板膠(キバンキョウ)、牛膝(ゴシツ)

出典

《景岳全書》に「真陰腎水不足し(真陰である腎の水が不足して),営血を滋養することあたわず(全身を栄養する営気と血を滋養することができず),漸に衰弱に至り(衰弱するようになり),あるいは虚熱往来し(陰血が不足したために生じた熱が出たりひいたりして),あるいは遺淋禁ぜず,或いは気虚昏運し,あるいは眼花耳聾(めまい・耳鳴り)し,あるいは口燥き舌乾き(口や舌が渇いて),あるいは腰痛腿軟(腰痛があり足が無力)するを治す。およそ精髄内にし,津液枯涸(体液が枯れている状態)などの証,ともに速やかに水の主を壮にすべし(腎の水を補うべし),もって左腎の元陰を培いて(腎の陰を養えば),精血自ずと充つるなり(精血は自然と充足するようになる)。この方によろしくこれを主る」とある。

方意と構成

本方は真陰(腎の水)を養う「左帰飲」の加減方であり、全身的な虚弱症候に適用する。

左帰飲から茯苓・甘草を除き、血肉有情の品(動物性の薬で補う力がつよいもの)で陰と精を強力に補充する鹿角膠・亀板膠を加え、熟地黄とともに真陰を補う <滋養真陰>。脾胃(胃腸)の機能を高め腎の精気を守る山薬と<補腎益精・健脾> 、肝腎を養う枸杞子・山茱萸、陰と陽を補い腎の精気を養う菟絲子、腎を強化し血行を良くする牛膝が配合されている <補腎養肝・活血>。

(管理No.02-241)

 

三子養親湯 さんしようしんとう

効能効果

咳嗽、呼吸困難、多痰、少食、消化が悪い

配合生薬

白芥子(ハクガイシ)、蘇子(ソシ)、萊菔子(ライフクシ)

出典

《韓氏医通》に記載がある。

方意と構成

白芥子・紫蘇子・萊菔子はともに気を巡らせて痰をとる“行気祛痰”の効能を持ち、痰を治す薬である。

肺を温め胸の痞えや痰をとる白芥子 <温肺快膈消痰>、気を降ろし咳を鎮める紫蘇子<降気行痰止咳>、消化を促進する萊菔子 <消食導滞祛痰>が配合されている。

(管理No.02-242)

 

三黄瀉心湯 さんおうしゃしんとう

効能効果

高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症

配合生薬

大黄(ダイオウ)、黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)

出典

《金匱要略》驚悸吐衄下血胸満瘀血病脉証并治第16に「心気不足で,吐血,衄血(鼻血)するのは瀉心湯の主治である」とある。

方意と構成

本方は清熱瀉火(抗炎症)・解毒・化湿(水の排出)の効能をもつが、上昇する熱症状を抑える“降火”の作用に特徴がある。

本方を組成する3薬は、いずれも“苦寒”の性味であり、清熱瀉火・解毒・化湿に働き、実熱火毒・湿熱(炎症が強く水分代謝が悪い状態)を解消する。清熱降火により体の上部の熱を下降させる大黄が主薬である。便を出すことを目的としてはいないので、芒硝・枳実・厚朴は配合していない。上焦(体の上部)の熱毒には清心・清肺(心や肺の炎症をとる)の黄芩、中焦(体の中央部)には清心・清胃(心や胃の炎症をとる)の黄連が、下焦(体の下部)には大黄が、それぞれ主に作用し、上中下三焦(全身)すべてに対し清泄解毒に働く。

(管理No.02-081)

 

酸棗仁湯 さんそうにんとう

効能効果

心身が疲れ弱って眠れないもの

配合生薬

酸棗仁(サンソウニン)、知母(チモ)、川芎(センキュウ)、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《金匱要略》血痺虚労病脈証并治第6に「虚労(心身の疲労衰弱で),虚煩,眠るを得ず(胸がほてって落ち着かず眠れないものは),酸棗仁湯之を主る」とある。

方意と構成

心身疲労し、または病身・高齢者などで体力が衰え、不眠や夜間目が冴えて眠れないものに用いられる。その他、神経衰弱・心悸亢進症・めまい・寝汗・多夢・神経症などに応用される。

酸棗仁が主薬で、肝の血を養い、精神を安定させる<補肝血・安神>。肝気を巡らせる川芎 <行気調肝>と、安神作用(精神安定)の茯苓<寧心安神> が酸棗仁を補助する。知母は陰を養って炎症をとり、胸苦しさを解消する“滋陰清熱・除煩”に働き、川芎の“辛燥”の性質を弱める。炙甘草は諸薬を調和させる。

(管理No.02-082)

 

三妙丸 さんみょうがん

効能効果

疼痛、しびれ、下肢の軟弱無力

配合生薬

黄柏(オウバク)、蒼朮(ソウジュツ)、牛膝(ゴシツ)

出典

《医学正伝》に記載がある。

方意と構成

下肢の湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を瀉す「二妙丸」<清熱燥湿> に、風湿邪(風と湿の病邪が合わさったもの)を去り、肝腎を養い、下肢に血を導く牛膝を加えており <祛風湿・補肝腎・引血下行> 、下肢の湿熱による両足のしびれ・痛み・軟弱無力などに、より効果がある。

(管理No.02-243)

 

三物黄芩湯 さんもつおうごんとう

効能効果

手足のほてり

配合生薬

黄芩(オウゴン)、苦参(クジン)、地黄(ジオウ)

出典

《金匱要略》婦人産後第21に「婦人草蓐に在り(婦人が産褥にあって),発露より風を得(体を露出したために風邪をひき),四肢は煩熱(手足のほてり)に苦しむを治す,頭痛するは,小柴胡湯を与う(頭痛するものには小柴胡湯を与える),頭痛まずただ煩するは(頭痛せず手足のほてりだけあるものは),この湯これを主る」とある。

方意と構成

婦人の産後に限らず、陰血不足(体液と血の不足)の湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)に広く使用するとよい。頭痛・神経症・不眠症・水虫・湿疹・口内炎などに応用できる。

“清熱化湿”により、黄芩・苦参が体の余分な水湿と熱を取り除く。苦参にはトリコモナス・白癬などに対する殺虫や痒みを止める効能もある。地黄は陰血を補い血熱(血に熱がこもっている状態)を取り去る <清熱涼血滋陰>。

(管理No.02-083)

 

三拗湯 さんようとう

効能効果

咳嗽、呼吸困難、多痰、鼻閉、嗄声

配合生薬

麻黄(マオウ)、杏仁(キョウニン)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《和剤局方》に記載がある。

方意と構成

風寒(風と冷えが合わさった病邪)による風邪の軽症に用いてよい。

発汗を促し病邪を散らす麻黄 <発汗解表>、気を降ろして痰をとり咳を止める杏仁・生姜<宣肺降気・化痰止咳> が配合されており、炙甘草が諸薬を調和させている。

「麻黄湯」から発汗をつよめる桂枝を抜き、水を巡らせて痰をとる生姜を加えることで、咳止めの効果に重点を置いている。

(管理No.02-244)

 

滋陰降火湯 じいんこうかとう

効能効果

のどにうるおいがなく痰が出なくて咳込むもの

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、天門冬(テンモンドウ)、麦門冬(バクモンドウ)、陳皮(チンピ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、知母(チモ)、黄柏(オウバク)、甘草(カンゾウ)

出典

《万病回春》虚労門に「陰虚火動(体液不足で熱が出て鼓動が激しくなり),発熱咳嗽,吐痰喘息,盗汗(寝汗)口乾を治す。この方,六味丸と相兼ね之を服すれば,大いに虚労(心身の疲労衰弱)を補う」とある。

方意と構成

慢性気管支炎に移行し、消耗熱が続き、体液虚耗し、皮膚枯燥し、乾性の咳が出て、喀痰は少なくかつ切れ難く、便秘がちであるものによい。

肺と腎の陰(体液)を補う天門冬・麦門冬・生地黄と<滋補肺腎>、炎症をとる知母・黄柏 <清熱瀉火> により体液を補い上昇する熱を抑えて“滋陰降火”する。陰血(体液と血)を養う当帰・芍薬・熟地黄を加え <補血養陰>、白朮・炙甘草・生姜・陳皮は胃腸を整えること<健脾和胃> で滋陰を補佐する。

(管理No.02-084)

 

滋陰至宝湯 じいんしほうとう

効能効果

慢性のせき、たん、気管支炎

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、陳皮(チンピ)、柴胡(サイコ)、知母(チモ)、香附子(コウブシ)、地骨皮(ジコッピ)、麦門冬(バクモンドウ)、貝母(バイモ)、薄荷(ハッカ)、甘草(カンゾウ)

出典

《万病回春》婦人虚労によれば「婦人の諸虚百損(もろもろ衰弱している状態で),五労七傷(肉体的・精神的な疲労)して,生理不順となり,身体が羸痩(痩せ衰え)するのを治す。この薬は専ら生理不順を調え,血脈を滋し,虚労(心身の疲労衰弱)を補して元気を助け,消化機能を健やかにして心肺を養い,のどを潤し,不整脈を正し,精神を安定させ,潮熱(発熱)を退け,骨蒸(骨から蒸されるような熱感)を除く。喘鳴咳嗽を止め,喀痰を少なくし,寝汗を止める。下痢を止め,気鬱を開き,腹痛を治し,胸膈を利す(胸を開き)、煩渇(熱があり渇きがある状態)を解し,寒熱を散じ,体の疼痛をとる。甚だ奇効がある」とある。

方意と構成

神経症の加わった慢性の咳や気管支の病で痩せており、栄養状態や消化機能が低下し、痰が切れにくい咳をするものに適用する。

肝の疏泄失調(気血の巡りを伸びやかにする働きの低下)に用いられる「逍遥散」に<疏肝解鬱> 、気の巡りを良くする香附子<疏肝理気>、肺を潤す麦門冬<滋補肺陰> 、肺の炎症と痰をとる知母・地骨皮・貝母<清肺化痰> 、痰をとり脾胃(胃腸)を整える陳皮<和胃化痰> を加えている。

(管理No.02-085)

 

紫雲膏 しうんこう

効能効果

ひび、あかぎれ、しもやけ、魚の目、あせも、ただれ、外傷、火傷、痔核による疼痛、肛門裂傷、かぶれ

配合生薬

紫根(シコン)、当帰(トウキ)、ゴマ油、蜜蝋、豚脂

出典

《瘍科方筌》

明の陳実功が著した《外科正宗》という皮膚科書に記載された潤肌膏に華岡青州が豚脂を加え,紫雲膏と命名した。

方意と構成

解熱・解毒・殺菌の効果がある紫根<清熱涼血・解毒>と、潤膚を目的とする当帰<養血潤膚> をゴマ油・蜜蝋・豚脂で熱抽出したものである。

(管理No.02-086)

 

四逆散 しぎゃくさん

効能効果

胃痛、胃炎、腹痛

配合生薬

柴胡(サイコ)、芍薬(シャクヤク)、枳実(キジツ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》少陰病篇には「少陰病(脈が微細でただ寝ていたいというもの),四逆(手足の冷え),その人あるいは欬(咳)し,あるいは悸(動悸)し,あるいは小便不利(小便が出ず),あるいは腹中痛み,あるいは泄瀉下痢をするもの,四逆散これを主る」とある。

方意と構成

少陰病四逆(風と冷えの病邪が少陰に入り、少陽経と厥陰経に影響を及ぼした状態)に対しては、柴胡で病邪を追い払い、気を疎通させて上焦(体の上部)に昇らせる <透邪疏鬱>。枳実が気を降ろし、柴胡とともに気機の昇降(気の昇り降りをする運動)を整える <行気破滞> 。白芍と炙甘草は共同して発作を鎮め、止痛し、気血を調え、陽気を巡らせることで病邪を取り去るのを助ける <柔肝緩急>。

肝脾不和(肝と脾(胃腸)の調和が乱れる状態)に対しては、柴胡<疏肝解鬱> と白芍で肝の陰血(体液と血)を養い疏泄(気血の巡りを伸びやかにする働き)を高め、枳実で脾気(胃腸の気)の停滞を疎通させ <行気破滞> 、炙甘草が諸薬を調和する。白芍と甘草は共同して肝の陰(体液)を補い、疏泄に伴う体液の消耗を防止し、痛みを止める働きをもつ <柔肝止痛>。

(管理No.02-087)

 

四逆湯 しぎゃくとう

効能効果

感冒、急・慢性胃腸炎、下痢、はきけ

配合生薬

甘草(カンゾウ)、乾姜(カンキョウ)、附子(ブシ)

出典

《傷寒論》に「上には吐き,下には下痢し,冷汗が流れ,発熱,悪寒もあり,四肢が引きつれ,手足が厥冷するもの(嘔吐・下痢をして、冷や汗が流れ、発熱悪寒、四肢はひきつって冷えるもの)は四逆湯の主治である」とある。

方意と構成

発熱悪寒があり、激しい下痢に嘔吐を伴い、手足が冷え、新陳代謝が著しく落ちているものに用いる。

腎の陽気を補う附子<温補腎陽> に、中焦脾胃(胃腸)を温める乾姜を加え、内臓の冷えをとり陽気を回復させる <温陽脾胃> 。炙甘草は腹部を温め、附子の毒性を弱める他、乾姜と附子の激しい作用を緩和し調整する <温中益気>。

(管理No.02-088)

 

四君子湯 しくんしとう

効能効果

胃腸虚弱、慢性鼻炎、胃もたれ、嘔吐、下痢

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)

出典

《和剤局方》に「栄衛の気(営気と衛気)が虚(不足)し,臓腑が怯弱して,心腹脹満して(上腹部が脹って),全く食を思わず腸鳴泄瀉し(全く食べたくなく腹鳴して下痢し),嘔噦吐逆(吐き気・嘔吐)するを治す。大いに宜しくこれを服すべし」とある。

方意と構成

本方は、胃腸虚弱で貧血の傾向があって元気が衰えたものに用いる基本の処方である。

主薬の人参は五臓の元気を補し、胃腸の機能低下に著効を示す<大補脾気> 。白朮と茯苓は胃内に滞った水を取り除き<健脾利湿> 、炙甘草は中焦を整えて気を養う。

(管理No.02-089)

 

梔子柏皮湯 ししはくひとう

効能効果

黄疸、皮膚掻痒症、宿酔

配合生薬

山梔子(サンシシ)、甘草(カンゾウ)、黄柏(オウバク)

出典

《傷寒論》に「傷寒身黄発熱(風邪をひいて体が黄色くなり熱が出るもの)は,梔子柏皮湯これを主る」とある。

方意と構成

本方は「茵蔯蒿湯」の関連方である。

腸管の滞りによる腹満がないため大黄は用いず、湿よりも熱が重度であるために、水湿を除く目的が主である茵蔯蒿を黄柏にかえ、山梔子とともに湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を取り去る <清熱利湿>。これに炙甘草を加えることで薬性を緩和する。

(管理No.02-245)

 

四神丸 ししんがん

効果効能

下痢、食欲不振、消化不良、腹痛、足腰のだるさ、四肢の冷え

配合生薬

肉豆蔲(ニクズク)、補骨脂(ホコツシ)、五味子(ゴミシ)、呉茱萸(ゴシュユ)

出典

《証治準縄》に記載がある。

方意と構成

脾と腎を温めて下痢を止める「二神丸」と、腸を温めて収斂させる「五味子散」を合わせたものが四神丸である。

脾腎を温めて益する補骨脂が主薬であり、同じく脾腎を温め下痢を止める肉豆蔲 <温腎暖脾・渋腸止瀉>、寒邪(冷えの病邪)や水湿を去る呉茱萸<温中散寒・除湿> 、収斂して下痢を止める五味子がこれを補佐する<酸斂固渋>。

(管理No.02-246)

 

滋腎通耳湯 じじんつうじとう

効能効果

耳鳴り、聴力低下、めまい

配合生薬

当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、知母(チモ)、黄柏(オウバク)、白芷(ビャクシ)、黄芩(オウゴン)、柴胡(サイコ)、香附子(コウブシ)

出典

《万病回春》耳病門に「耳は腎の竅(穴),腎虚(腎の機能低下)するときは耳して鳴る」とある。

方意と構成

腎虚に伴う耳鳴り・難聴に用いる。

血を養う作用により腎精を補う「四物湯」に<養血益腎> 、虚熱(陰血が不足したために生じた熱)を抑える黄柏・黄芩・知母と<清熱瀉火> 、気を巡らせ耳に引経して開竅する(耳の穴を開く)柴胡・香附子・白芷が配合されている <疏肝理気開竅> 。柴胡・白芍・香附子があるため、肝鬱(肝の疏泄が停滞して気血の巡りが滞った状態)による耳鳴りや難聴にも適用することができる。

(管理No.02-125)

 

滋腎明目湯 じじんめいもくとう

効能効果

目のかすみ、目の疲れ、目の痛み

配合生薬

当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、芍薬(シャクヤク)、桔梗(キキョウ)、人参(ニンジン)、山梔子(サンシシ)、黄連(オウレン)、白芷(ビャクシ)、蔓荊子(マンケイシ)、菊花(キクカ)、甘草(カンゾウ)、細茶(サイチャ)、灯心草(トウシンソウ)

出典

《万病回春》に「神を労し(精神が過労して)腎が虚し(腎が機能低下し)、血が少なく眼痛するを治す」とある。

方意と構成

血少なく眼痛するもの或いは久病で気力衰え眼精疲労するものに用いる。

血を養う作用により腎精を補う「四物湯」に<養血益腎>、血を生む人参・甘草<補気生血> 、上焦(体の上部)の熱を抑える黄連・山梔子・桔梗・灯心草と<清熱瀉火> 、目の充血や炎症をとる細茶・萬荊子・菊花・白芷<清熱祛風明目> 、体液を増やして熱を冷ます乾地黄が配合されている <滋陰清熱>。

(管理No.02-126)

 

止嗽散 しそうさん

効能効果

咳嗽、喀痰、のどの痒み

配合生薬

桔梗(キキョウ)、荊芥(ケイガイ)、紫苑(シオン)、百部(ビャクブ)、白前(ビャクゼン)、甘草(カンゾウ)、陳皮(チンピ)

出典

《医学心悟》に「風寒初起,頭痛み鼻塞り,発熱悪寒して咳嗽する(風と冷えの病邪によって起こる初期症状で頭痛・鼻閉・悪寒発熱がして咳嗽するもの)は,止嗽散加荊芥・防風・蘇葉・生姜を用いもって邪を散ず(止嗽散に荊芥・防風・蘇葉・生姜を合わせて用いて病邪を散らす)」とある。

方意と構成

外邪(外部から侵入する病邪)によって生じる咳嗽に用いられる。

痰をとり咳を止める紫苑・白前・百部は新旧問わず咳嗽を止め<止咳化痰> 、桔梗・陳皮は肺の気を全身に巡らせることでこれを補佐する<宣肺止咳> 。荊芥は病邪を散らし<祛風解表>、甘草は諸薬の調和に働く。

(管理No.02-247)

 

失笑散 しっしょうさん

効能効果

胸痛、腹痛、月経不順、月経痛

配合生薬

五霊脂(ゴレイシ)、蒲黄(ホオウ)

出典

《医学金鑑》に「この方は霊脂の甘温走肝を用い,生用すればすなわち行血す(“甘温”の性質で肝を巡らせ、五霊脂を生で用いることで血を循環させる),蒲黄は辛平にて肝に入り,生用すればすなわち破血す(“辛平”の性質であり肝に帰経して、蒲黄を生で用いれば強く血を巡らせる),佐くるに酒煎をもってその力を行らせ(酒でもってその力を発揮させ),庶は厥陰の滞を直抉く除き(もろもろの厥陰の経絡の滞りを除き),直ちに一笑をもってこれを置くべし(疼痛が除かれてすぐに笑みがこぼれる)」とある。

方意と構成

本方は瘀血停滞(血行不良)の常用方で、血を巡らせて瘀血を改善する“活血祛瘀”により疼痛を止める。

五霊脂・蒲黄は、瘀血を去り血脈を通じることで痛みを止める<活血祛瘀・通利血脈> 。酒や酢などに溶いて服用すると活血や気を巡らせる“行気”の効力がつよまる。

(管理No.02-248)

 

十灰散 じゅっかいさん

効能効果

鼻出血、吐血、喀血

配合生薬

大薊(ダイケイ)、小薊(ショウケイ)、荷葉(カヨウ)、側柏葉(ソクハクヨウ)、茅根(ボウコン)、茜草根(センソウコン)、山梔子(サンシシ)、大黄(ダイオウ)、牡丹皮(ボタンピ)、棕櫚皮(シュロヒ)

出典

《十薬神書》に記載がある。

方意と構成

本方は、十味の薬物すべてを炒炭(炭になるまで炒めること)して細末として用いることから十灰散と名付けられている。血熱(血に熱がこもっている状態)を冷ます“清熱涼血”により止血する。

大薊・小薊・荷葉・茜草根・側柏葉・茅根は血の熱を冷まし止血に働く<涼血止血> 。これに収斂して止血する棕櫚皮<収渋止血> 、気の上昇を防ぎ熱を冷ます山梔子・牡丹皮・大黄を加えている <清熱瀉火・涼血祛瘀> 。牡丹皮・大黄は血の停滞をとるため、止血しても滞りを残さないための配合となっている。

(管理No.02-249)

 

七物降下湯 しちもつこうかとう

効能効果

高血圧に伴う随伴症状(のぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重)

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、黄耆(オウギ)、黄柏(オウバク)、釣藤鈎(チョウトウコウ)

出典

《修琴堂方(大塚敬節)》に「疲れやすくて最低血圧の高いもの,尿中に蛋白を証し,腎硬化症の疑いのある高血圧患者,いろいろの薬方を用いて奏功しない者に用いることにしている」、「釣藤には脳血管の痙攣を予防する効があるらしいし,黄耆には,毛細血管を拡張して血行をよくする効があるらしいので,これを用いることによって血圧が下がるのではないかというのが私の考えであった。四物湯を用いたのは(眼底出血の)止血の意味であり,黄柏を入れたのは,地黄が胃にもたれるのを予防するつもりであった」とある。

方意と構成

老化や慢性病などで陰血(体液と血)が消耗し、肝の陽気の上昇により頭のふらつき・めまい感・筋肉のひきつりなどの症候が出るものに用いる。

血虚の聖剤である「四物湯」に、気を補い血を生む“補気生血”の黄耆と、陰血が不足したために生じた熱を抑える“清熱”の黄柏、肝の陽気を抑え内風を取り去る“平肝熄風”の釣藤鈎を加えたものである。

(管理No.02-090)

 

四妙丸 しみょうがん

効果効能

疼痛、しびれ、下肢の軟弱無力

配合生薬

黄柏(オウバク)、蒼朮(ソウジュツ)、牛膝(ゴシツ)、薏苡仁(ヨクイニン)

出典

《成方便読》に記載がある。

方意と構成

下肢の湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を去り、肝腎を強化する「三妙丸」 <清熱燥湿・補肝腎> に風湿(風と湿の病邪が合わさったもの)を除き水の代謝を高める薏苡仁を加えており <祛風湿・清熱利水> 、湿熱による両足のしびれ・痛み・軟弱無力などに、より効果がある。

(管理No.02-250)

 

四物湯 しもつとう

効能効果

産後、あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え性、しもやけ、しみ、血の道症

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)

出典

《和剤局方》婦人諸疾門に「栄衛を調益し(営気と衛気を調節して),気血を滋養し,衝任虚損,月水不調(衝任脈が虚損して月経が不調で),臍腹絞痛(腹中が絞るように痛く),崩中漏下(不正出血があり)、血瘕塊硬(血塊があって硬く),発歇疼痛(時々痛んだり)、妊娠宿冷(妊娠しているが冷えのために流産するかもしれず)、胎動して安からず(胎動がおかしく)、血下りて止まず(下血がやまないで)、及び産後虚に乗じ(産後の衰弱に乗じて)、風寒内に博ち(感染症をおこし)、悪露下らず(悪露が残存して)、結して瘕聚(血の不足による血行不良)を生じ、小腹堅痛(下腹部が堅く痛み)、時に寒熱を作すを治す(悪寒と発熱が交互に起こるものを治す)」

方意と構成

腎を補い血を養う“補腎養血”の地黄に、体液の消耗を防ぎ血を補う“斂陰補血”の芍薬、血を補い巡らせる“補血活血”の当帰を加え、“辛温“の性味の川芎は“行気活血”により血と気を巡らせる。

全方が血分薬からなり、血を補うが滞らせず、気を巡らせるが血は破らず、巡らせるが収斂して過度にはならず、補血・調血・行滞する「治血の要剤」になっている。

(管理No.02-092)

 

柿蔕湯 していとう

効能効果

しゃっくり

配合生薬

丁子(チョウジ)、柿蒂(シテイ)、生姜(ショウガ)

出典

《済生方》卷二・噦に「腹満,欬逆(強い咳)止まざるを治す」とある。

方意と構成

胃の虚寒(冷え)によって生じた吃逆(しゃっくり)に用いる。胃を温め気を巡らせる“温胃行滞”の丁子と、温めてしゃっくりを止める“温渋止呃”の柿蒂が主役であり、“温胃降逆”の生姜がそれを補佐する。

(管理No.02-127)

 

炙甘草湯 しゃかんぞうとう

効能効果

どうき、息切れ

配合生薬

甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、地黄(ジオウ)、麦門冬(バクモンドウ)、麻子仁(マシニン)

出典

《傷寒論》太陽病下篇に「傷寒解して後(風邪が治った後),脈結代(脈が遅くてとび),心動悸する」とある。

《金匱要略》虚労篇に「虚労不足(心身の疲労衰弱で),汗出て悶し(汗が出てもだえ苦しみ),脈結(脈が遅くてとび),心悸(動悸)するを治す」、肺痿篇に「肺痿(肺の慢性疾患で),涎唾が多く(よだれや唾が多く),心中温温液液たる(胸がムカムカして気持ち悪いもの)を治す」とある。

方意と構成

動悸の亢進や息切れがあって、体力が衰えて脈がとぶものに用いるため「復脈湯」の別名がある。心の気陰と血(気と体液と血)を滋養し、心の陽気を高めることで血脈を復することができる。

気を養い体液を生む“益気養心・生津“の炙甘草が主薬で、“益気健脾寧心”の人参・大棗がこれを補佐する。生地黄・麦門冬・阿膠が陰血を補充し <滋養陰血>、麻子仁は腸を潤して便を通す<潤腸通便> 。桂枝・生姜・酒により、温陽通脈して血脈の流通を高める。

(管理No.02-093)

 

芍薬甘草湯 しゃくやくかんぞうとう

効能効果

急激に起こる筋肉の痙攣を伴う疼痛

配合生薬

芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》太陽病上篇に「傷寒脈浮(風邪をひいて脈が浮き),小便数(小便の回数が増え),心煩し(胸が苦しく),微しく悪寒し(少し悪寒がして),脚攣急するに(足がひきつり),反って桂枝湯を与え(間違って桂枝湯を与え),その表を攻めんと欲するは(発汗させるのは),これ誤りなり。これを得てすなわち厥し(手足の先から冷えて),咽中乾き,煩躁し(じっとしてられずもだえ苦しんで),吐逆のもの(嘔吐する)は,甘草乾姜湯を作りこれを与え,もってその陽を復せ(陽気を戻すようにする)。もし厥癒え脚温かきものは(手足の冷えがとれ温かいものは),更に芍薬甘草湯を作りこれを与えれば,その脚即ち伸す」とある。

方意と構成

急激に起こった筋肉の拘攣による痛みに用いられ、手足の疼痛・胆石や腎石の疝痛発作・胃腸痙攣・神経痛・排尿痛・小児の夜泣きなどに応用される。

白芍は、肝の陰血(体液と血)を補い肝の陽気が暴れるのを抑えて柔和にする“滋陰平肝止痙”に働き、正常に疏泄(気血の巡りを伸びやかにする働き)が行えるようにする。甘草は脾(胃腸)の気と陰(体液)を補い、肝気による侵害を受けないように防止する <益脾生津・緩急止痛> 。両薬を配合することで、陰を補い肝の高ぶりを抑える“滋陰平肝”・筋肉の収縮を緩めて痛みをとる“緩急止痛”・痙攣を止める“止痙”の効果がつよまる。

(管理No.02-094)

 

沙参麦門冬湯 しゃじんばくもんどうとう

効能効果

口渇、咽喉の乾燥、乾咳

配合生薬

沙参(シャジン)、玉竹(ギョクチク)、甘草(カンゾウ)、桑葉(ソウヨウ)、麦門冬(バクモンドウ)、扁豆(ヘンズ)、天花紛(テンカフン)

出典

《温病条弁》に「燥は肺胃の陰分を傷り(乾燥の病邪により肺と胃の水を消耗させたり),あるいは熱しあるいは咳するものは(熱や咳がでるものは),沙参麦門冬これを主る」とある。

方意と構成

本方は温燥(温性の乾燥の病邪)による肺胃の津液損傷(体液の損失)に用いる。

沙参・麦門冬・玉竹・天花粉は、津液(体液)を滋潤するとともに肺胃の熱を鎮める <生津潤燥・清養肺胃>。これに胃の気を助け津液が生まれるのを補助する扁豆・甘草 <益胃生津>、肺の熱を取り咳を止める桑葉を加えている<清肺止咳>。

(管理No.02-251)

 

十全大補湯 じゅうぜんだいほとう

効能効果

病後の体力低下、倦怠疲労、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

配合生薬

人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、川芎(センキュウ)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)

出典

《和剤局方》に「男子婦人の諸虚不足(老若男女問わずもろもろ不足して全てが足りない状態のもの)を治す。五労七傷(肉体的・身体的な疲労)で飲食進まず,久病虚損(長く患う病で消耗しており),時に潮熱を発し(発熱し)、気は骨脊を攻めて拘急疼痛し(骨や脊髄を襲い筋肉はひきつって痛みを生じさせ),夜は夢遺精す(夜は夢を見て精液を漏らす)。面色は萎黄(顔色が艶がなく黄色で),脚膝無力,一切の病後,気は旧の如からず(すべての病後で新旧問わず),憂愁思慮して血気を傷動し(思い煩い気血を傷つけ),喘嗽中満(咳が出てお腹が脹り),脾腎の気弱く(脾と腎の機能が弱く),五心煩悶す(熱で苦しみもだえる)。あわせて皆之を治す。この薬性は温にして熱せず,平補にして効あり。気を養い神を育て(精神活動を安定させ),脾を醒まし渇を止む(胃腸を働かせて口の渇きを止める)。正を順し邪を避け(体を守る力を補い病邪を払い),脾腎を温暖す(脾と腎を温める)。その効つぶさには述ぶべからず(その効果はすべてを述べることができないほどである)。

方意と構成

大病後や慢性疾患などで疲労し衰弱したもの・産後や手術後の衰弱・諸貧血・諸出血・脱肛・痢疾後や大病後の視力減退・皮膚が乾燥して熱症状がないものに用いられる。

血を補い停滞を防ぐ“養血活血”の「四物湯」と胃腸を元気にする“健脾益気”の「四君子湯」を合方したもので、補気養血の効能が得られる。これに陽気を通じて血行をよくする桂皮と <温補脾腎>、気を補い体表を固める黄耆を加える<益気固表>。

(管理No.02-095)

 

十味排毒湯 じゅうみはいどくとう

効能効果

化膿性皮膚疾患、急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫

配合生薬

柴胡(サイコ)、桜皮(オウヒ)、桔梗(キキョウ)、川芎(センキュウ)、茯苓(ブクリョウ)、独活(ドッカツ)、防風(ボウフウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)、荊芥(ケイガイ)

出典

《瘍科方筌》華岡青州の処方である。「諸疔(化膿性皮膚疾患),発熱悪寒し頭痛焮腫(痒みや腫れのある皮膚の炎症),疼痛するものを治す」とある。《万病回春》の荊防排毒散をもとに華岡青州が創製し、さらに改良された処方である。

方意と構成

体表で病の原因となる病邪を追い出し、風邪症状や皮膚の急性化膿症を改善する。乳腺炎・上顎洞炎・にきび・中耳炎・ものもらい・外耳炎などに応用する。

防風・荊芥・独活・川芎・生姜・柴胡は、風湿邪(風と湿が合わさった病邪)を取り去り、皮疹を体表から除いて痒みを止める <発汗解表・祛風止痒>。桔梗・桜皮・茯苓は化膿した状態を改善し<排膿消腫> 、甘草は清熱解毒に働く。

本方は「荊防排毒散」から枳殻・羌活・金銀花・連翹・薄荷・前胡を抜いて、桜皮・生姜を追加したものである。体表の病邪を散らす解表薬と炎症をとる清熱薬が荊防排毒散より少ない。

(管理No.02-096)

 

寿胎丸 じゅたいがん

効能効果

頻尿、耳鳴り

配合生薬

菟絲子(トシシ)、桑寄生(ソウキセイ)、続断(ゾクダン)、阿膠(アキョウ)

出典

《医学衷中参西録》に記載がある。

方意と構成

月経にとって重要な衝脈と任脈の経絡を整え、精と血を充足して安胎(切迫早産や切迫流産の予防や治療)させ、妊娠状態を維持する。

肝と腎をつよめ、腰膝を強化する菟絲子・続断・桑寄生で安胎し<固腎安胎> 、陰血(体液と血)を養い止血する阿膠を配合している<滋陰補血・止血>。

(管理No.02-252)

 

潤腸湯 じゅんちょうとう

効能効果

便秘

配合生薬

枳実(キジツ)、当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、桃仁(トウニン)、杏仁(キョウニン)、黄芩(オウゴン)、厚朴(コウボク)、大黄(ダイオウ)、甘草(カンゾウ)、麻子仁(マシニン)

出典

《万病回春》大便閉門に「大便閉,閉結して通ぜざるを治す(大便が詰まって通じないものを治す)」とある。

方意と構成

比較的体力のない人の常習性便秘に使われる。

腸の乾燥を癒して燥熱を取り去り通便を促す「麻子仁丸」<潤腸通便・泄熱行気> から芍薬を去り、陰血(体液と血)を養い腸を潤す当帰・熟地黄・桃仁と<滋陰補血> 、腸の熱を冷まして通りをよくする黄芩・甘草を加える<清熱瀉火> 。麻子仁丸より滋潤作用が強く、体液が乏しく大便が乾燥している状態に適用する。

(管理No.02-097)

 

小陥胸湯 しょうかんきょうとう

効能効果

気管支炎、喘息、胃酸過多症、胃痛、胆石症、肋間神経痛

配合生薬

黄連(オウレン)、半夏(ハンゲ)、栝楼仁(カロニン)

出典

《傷寒論》に「小結胸の病(みぞおちで痰と熱が結びついて内結した病),まさに心下に在り(みぞおちに在り),これを按じればすなわち痛み(押すと痛みが増悪する),脈浮滑のものは,小陥胸湯これを主る」とある。

方意と構成

水熱互結胸腹(水湿と熱がみぞおちと胸脇で結びつき、腸胃まで影響を及ぼすもの)のために、みぞおちから下腹部まで硬く脹って痛む大結胸病に比べると軽症であり、それゆえ対置して小陥胸湯と名付けられている。

主薬の栝楼仁は熱を冷まして痰をとり、気を降ろして胸中の気滞(気の滞り)を去る <清熱化痰・下気寛胸>。“苦寒”の性味で炎症を抑える黄連と<清熱降火> 、“辛温”の性味で気を降ろして痰を取り去る半夏の組み合わせにより <降逆消痰・散結消痞> 、“寒性”と“温性”が相殺し合うとともに、みぞおちの詰まりを散らして痞えを除く効果を高める。

(管理No.02-253)

 

生姜瀉心湯 しょうきょうしゃしんとう

効能効果

食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、胃腸炎、口臭

配合生薬

半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、黄連(オウレン)、乾姜(カンキョウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《傷寒論》太陽病下篇に「傷寒汗出で解するの後(風邪をひいて発汗法で解熱させた後),胃中和せず,心下痞鞭し(胃が不快でみぞおちが痞え),乾噫食臭し(食臭のあるげっぷがあり),脇下に水気あり(脇下に振水音があり),腹中雷鳴下利(下痢)のものは,生姜瀉心湯これを主る」とある。

方意と構成

脾胃(胃腸)の湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を除きみぞおちの痞えを取り去る「半夏瀉心湯」 <和胃消痞> の乾姜を減らし、生姜を増量した処方である。胃部の不快感が特に強く、げっぷに食臭があるものに用いる。

生姜を増量することで脾の陽気を温め水を散じ、中焦を鼓舞する<通陽散水>。胃の気が降りず、未消化によるみぞおちの痞え・吐き気・げっぷ・食臭・腹鳴・下痢を改善する。

(管理No.02-098)

 

小薊飲子 しょうけいいんし

効能効果

血尿、頻尿、排尿困難、排尿痛

配合生薬

地黄(ジオウ)、小薊(ショウケイ)、滑石(カッセキ)、木通(モクツウ)、蒲黄(ホオウ)、竹葉(チクヨウ)、藕節(グウセツ)、当帰(トウキ)、山梔子(サンシシ)、甘草(カンゾウ)

出典

《済生方》に記載がある。

方意と構成

主薬は血熱(血に熱がこもっている状態)を冷まし止血する生地黄・小薊で<清熱涼血> 、引き締めて止血する藕節・蒲黄がこれを補佐する<収渋止血> 。蒲黄には血を巡らせる活血作用もあるため、止血しても滞りを残さずに済む。水はけを良くして排尿障害を改善する滑石・淡竹葉・木通と <清熱利水>、全身の炎症を鎮める山梔子の配合により<清熱瀉火> 、熱による病邪を尿から排泄して膀胱障害を改善する。これに、津液(体液)を養い熱による体液の消耗を防ぐ生地黄 <養陰>、薬効を血分に引き込むとともに血行不良を防止する当帰 <養血活血> 、痛みをとり諸薬の調和に働く甘草が配合されている。

(管理No.02-254)

 

小建中湯 しょうけんちゅうとう

効能効果

小児虚弱体質、疲労倦怠、神経質、慢性胃腸炎、小児夜尿症、夜なき

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、膠飴(コウイ)

出典

《傷寒論》と《金匱要略》の各所に出ている。

《傷寒論》「傷寒(風邪をひいて),陽脈濇(陽脈が細く遅い脈),陰脈弦(陰脈が弓の弦のような脈),法まさに腹中急痛すべし(原則的に腹中が痛む症状を呈する),まず小建中湯を与え,差えざるものは,小柴胡湯これを主る(まず小建中湯を与えて良くならないものに小柴胡湯を与える)」

《金匱要略》「虚労裏急し(ひどい疲れで腹中がひきつり),悸し衄し(動悸と鼻血が出て),腹中痛み,夢に失精し(睡眠中に射精し),四肢痿疼(手足がだるく痛み),手足煩熱(手足がほてり),咽乾き口燥くは(唾が足りなくてのどが乾くのは),小建中湯これを主る」

方意と構成

体質虚弱者の滋養強壮剤とでもいえる方剤で、特に小児の虚弱体質改善に繁用される。疲労倦怠・腹痛・心悸亢進・寝汗・鼻血・夢精・手足の煩熱・手足の倦怠疼痛感・口乾などの症状が見られる。

脾胃(胃腸)を温めて筋肉の動きを伸びやかにする「桂枝加芍薬湯」<和脾止痛> に、お腹を温め虚弱を補う“温中補虚”・痙攣性の痛みを緩和する“和裏緩急”の膠飴が加えられたものである。

(管理No.02-099)

 

小柴胡湯 しょうさいことう

効能効果

吐き気、食欲不振、胃炎、胃腸虚弱、疲労感およびかぜの後期の症状

配合生薬

柴胡(サイコ)、黄芩(オウゴン)、半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》に「傷寒五六日,中風(風邪をひいて5~6日経ち),往来寒熱(悪寒と発熱が交互にあらわれる状態になり),胸脇苦満(胸脇が脹って苦しく)、黙黙として飲食を欲せず(食べたいと思わず),心煩し(胸部がほてって落ち着かず),喜嘔し(嘔吐し)、あるいは胸中煩して嘔せず(胸は苦しいが嘔吐せず),あるいは渇し(口が渇くことがあり),あるいは腹中痛み,あるいは胸下痞硬し(みぞおちが痞え),あるいは心下悸し(動悸し),小便利せず(小便が出ず),あるいは渇せず(口の渇きがない),身に微熱あり,あるいは咳するものは,小柴胡湯これを主る」とある。

方意と構成

体表における病邪はすでに解消し、病が少陽の部位、すなわち体表と体内の間にある半表半裏に進み、胸脇苦満の症状がある時に用いる。

少陽の気の滞りを通し病邪を払う柴胡と <疎通少陽・疏邪外透>、少陽における鬱した熱を取り去る黄芩により<清熱瀉火> 、邪を散じ清するのである。半夏・生姜は胃の気の上逆による悪心や胸の痞えを抑え <和胃降逆> 、人参は正気(体を守る力)を助け病邪を散らし、炙甘草・大棗は中焦(胃腸)の働きを良くして体表を守る衛気を巡らせて病邪がさらに体内に入るのを防ぐ <調和脾胃・扶正祛邪>。

(管理No.02-100)

 

小柴胡湯加桔梗石膏 しょうさいことうかききょうせっこう

効能効果

扁桃炎、扁桃周囲炎

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、黄芩(オウゴン)、大棗(タイソウ)、人参(ニンジン)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、桔梗(キキョウ)、石膏(セッコウ)

出典

《処方千載集》に「小柴胡湯に石膏を加えて頭痛,耳鳴り,歯痛に用ゆ。小柴胡湯に桔梗,石膏を加えて咽喉痛に用ゆ」とある。

方意と構成

小柴胡湯証で耳鼻科・咽喉科・呼吸器科の領域に広く応用される。

少陽病(病邪が体表と体内の間にある病態)を解消する「小柴胡湯」<通調少陽> に桔梗と石膏を加えたものである<清熱宣肺・祛痰排膿・利咽> 。小柴胡湯証よりも、のどの痛み・咳・皮膚炎など肺の炎症が強く、痰や膿が出る症状に用いる。

(管理No.02-101)

 

小承気湯 しょうじょうきとう

効能効果

便秘、発熱、腹部膨満感

配合生薬

大黄(ダイオウ)、枳実(キジツ)、厚朴(コウボク)

出典

《傷寒論》の陽明病篇に「陽明病(病邪が体内へと入り闘いが盛んで炎症が強い状態)で汗が多い人は,体液が少なくなるから消化管の水分も少なくなり,そのために便秘するようである。便秘をすれば譫言(うわごと)する人もある。小承気湯の主治である」とある。

方意と構成

陽明腑実証(熱の病邪が腸胃にこもり乾燥して硬い便がある状態)に使用する「大承気湯」から芒硝を除いたもので、大承気湯より症状が軽微な腹満・便秘に用いる。厚朴・枳実は気を巡らす“行気”により腹部の膨満を治し <破気導滞>、大黄は消炎・通下の作用がある<泄熱通便>。

(管理No.02-102)

 

小青竜湯 しょうせいりゅうとう

効能効果

気管支炎、気管支喘息、鼻水、薄い水のような痰を伴う咳、鼻炎

配合生薬

麻黄(マオウ)、芍薬(シャクヤク)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、細辛(サイシン)、五味子(ゴミシ)、半夏(ハンゲ)

出典

《傷寒論》太陽病中篇に「傷寒表解せず(風邪がまだ体表にあり),心下に水気あり(みぞおちに水湿があり),乾嘔し(からえずきをし),発熱して咳し,あるいは渇し,あるいは利し(下痢),あるいは噎し(飲食物がのどにつまり),あるいは小便利せず(小便が出ず),少腹満し(下腹部が脹り),あるいは喘するもの(息苦しくなるもの)は,小青竜湯これを主治する」とある。

方意と構成

「麻黄湯」の変方で、体表に病邪がありみぞおちに水毒があるものに用いる。

体表の病邪を発散する“発汗解表”・肺の機能を高めて水を代謝する“宣肺行水”の働きがある麻黄を、桂枝が補佐する。これに温めて痰をとる乾姜・細辛・半夏 <温補肺脾・散寒降逆止咳>、収斂して津液(体液)の消耗を防ぎ咳を止める五味子<斂肺平喘> 、津液を生み薬全体の性質が乾燥に傾くのを抑える白芍・炙甘草が配合されている <益陰>。

(管理No.02-103)

 

小青竜湯加杏仁石膏 しょうせいりゅうとうかきょうにんせっこう

効能効果

気管支喘息、小児喘息

配合生薬

麻黄(マオウ)、芍薬(シャクヤク)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、桂皮(ケイヒ)、細辛(サイシン)、五味子(ゴミシ)、半夏(ハンゲ)、杏仁(キョウニン)、石膏(セッコウ)

出典

小青竜湯と麻杏甘石湯はともに《傷寒論》を出典としている。

方意と構成

温めて水毒を取り去る「小青竜湯」<滌飲解表・温肺降逆> と肺の熱を抑える「麻杏甘石湯」の合方である<清熱除煩> 。咳・喘息・息切れなどが小青竜湯の証より激しく、口渇があるときに用いる。

(管理No.02-104)

 

小定風珠 しょうていふうじゅ

効能効果

手足のひきつり、しゃっくり

配合生薬

鶏子黄(ケイシオウ)、阿膠(アキョウ)、亀板(キバン)、淡菜(タンサイ)、童便(ドウベン)

出典

《温病条弁》に「温邪久しく下焦にとどまり(温病で熱の病邪が久しく停留し),肝液を爍して厥をなし(肝の陰液を消耗して意識がはっきりせず手足が冷えた状態になり),衝脈を擾して噦をなし(衝脈を乱して痙攣が起き),脈細にして勁は(脈が糸のように細く硬いものは),小定風珠これを主る」とある。

方意と構成

効能は「大定風珠」とほぼ同じで、陰虚内風(体液の損傷により体内の陽気を抑えらえず内風が吹くもの)の程度が軽いときに適する。

体液を補い、内風を鎮める鶏子黄・阿膠・亀板・淡菜に<滋陰熄風・潜陽> 、熱を下に降ろして冷ます童便を加えている<鹹降>。

(管理No.02-255)

 

小半夏加茯苓湯 しょうはんげかぶくりょうとう

効能効果

つわり、嘔吐、悪心

配合生薬

半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《金匱要略》痰飲咳嗽病脈証第12

「にわかに嘔吐し,心下は痞し(みぞおちが痞え),膈間に水ありて(胸やみぞおちに停水があり),眩悸(めまい・動悸)するは,小半夏加茯苓湯これを主る」とある。

方意と構成

悪心・嘔吐を主訴とするつわりや、胃下垂症・胃アトニー症・その他の諸種疾患で胃内に停水があり嘔吐が激しいときに用いられる。

「小半夏湯」である半夏と生姜には胃を開き、気を降ろし、嘔吐を止める働きがある。胃に水飲(水分の停滞)があって胃の気が上逆するため,小半夏湯で気を降ろし嘔吐・吐き気・胃痛を改善して <降逆止嘔・化痰滌飲>、茯苓を加え水飲の除去をつよめるのである<利水滲出>。

(管理No.02-105)

 

小半夏湯 しょうはんげとう

効能効果

悪心、嘔吐、食欲不振

配合生薬

半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《金匱要略》に「諸嘔吐(もろもろ嘔吐して),穀は下るを得ざるは(消化不良で飲食物が下に降りないものは),小半夏湯これを主る」とある。

方意と構成

胃中の痰飲(水や痰の停滞)による胃の気の上逆で、嘔吐や食べられないものに用いられる。

胃の気を下に降ろすことで嘔吐を止め痰を除く半夏と<降逆止嘔・化痰滌飲> 、これと同様の効能を持つ生姜が半夏を補佐する<化痰降逆止嘔> 。生姜は半夏の毒性を消す働きもある。両薬とも“辛温”の性味であり、寒性に偏っている病態に適し、熱化した場合には適さない。

(管理No.02-256)

 

消風散 しょうふうさん

効能効果

慢性湿疹(分泌物の多いもの)

配合生薬

当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、石膏(セッコウ)、防風(ボウフウ)、蒼朮(ソウジュツ)あるいは白朮(ビャクジュツ)、木通(モクツウ)、牛蒡子(ゴボウシ)、知母(チモ)、胡麻(ゴマ)、蝉退(セミ)、苦参(クジン)、荊芥(ケイガイ)、甘草(カンゾウ)

出典

《外科正宗》卷4・雑毒・疥論第72に「風湿,血脈に浸淫し(風と湿の病邪が血脈に侵入して),瘡疥(できもの)を生ずるを致し,瘙痒絶えざる(痒くてたまらないもの)を治す。及び大人小児の風熱陰疹(じんましん),遍身の雲片斑点,たちまち有り,たちまち無きともに効す(全身雲のような発疹ができたかと思うとすぐになくなる状態を治す)」とある。

方意と構成

病変が顕著で活動的であり、痒みも激しい亜急性慢性の湿疹に用いる。

風の病邪を取り去り痒みをとる“祛風止痒”の荊芥・防風・牛蒡子・蝉退に、苦参・木通・蒼朮を加えて湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を除き痒みを止める <清熱燥湿止痒>。石膏・知母は炎症をとり<清熱瀉火> 、生地黄・当帰・胡麻仁は熱により消耗した陰血(体液と血)を補充する <養血潤燥>。

(管理No.02-106)

 

少腹逐瘀湯 しょうふくちくおとう

効能効果

月経不順、月経痛、不正出血

配合生薬

小茴香(ショウウイキョウ)、乾姜(カンキョウ)、延胡索(エンゴサク)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、蒲黄(ホオウ)、五霊脂(ゴレイシ)、没薬(モツヤク)

出典

《医林改錯》に記載がある。

方意と構成

下腹部の腫瘤・疼痛・脹った痛み・月経不順・月経痛・不正出血などに用いられ、温経止痛(経絡を温めて痛みを止める)の働きに優れている。

下焦を温める小茴香・桂皮・乾姜に<温通下焦> 、血を巡らせる延胡索・没薬・当帰・川芎・赤芍・蒲黄・五霊脂を組み合わせている <活血化瘀>。

(管理No.02-257)

 

升麻葛根湯 しょうまかっこんとう

効能効果

感冒の初期

配合生薬

葛根(カッコン)、芍薬(シャクヤク)、升麻(ショウマ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《和剤局方》卷2治傷寒に「大人,小児,時気瘟疫(大人や子供で流行性の発熱性急性伝染病で),頭痛発熱,肢体煩疼(体が痛む)するを治す。及び瘡疹すでに発し,未だ発せず,類似の間宜しく之を服すべし(瘡疹が出ていたり、まだ出なかったり、出るかでないかの疑似の時に使う)」とある。

方意と構成

麻疹・水疱瘡・猩紅熱など、初期でまだ発疹が出ないうちに熱が出て風邪など見分けがつかない時に使い、速やかに発疹させる。

体表の病邪を発散する“発表薬”の葛根と、気を下から引っぱり上げ病邪を皮膚から排泄させる升麻により、湿疹を体表に出させて解毒をつよめる <解肌透疹・清熱解毒>。血熱(血に熱がこもっている状態)を解消する赤芍<清熱涼血> 、諸薬を調和させる炙甘草・生姜が配合されている。

(管理No.02-107)

 

生脈散 しょうみゃくさん

効果効能

虚弱体質、肉体疲労、病中病後、胃腸虚弱、食欲不振、血色不良、冷え症

配合生薬

人参(ニンジン)、麦門冬(バクモンドウ)、五味子(ゴミシ)

出典

《温病条弁》に「汗多く脈散大、喘喝し(呼吸困難で息が荒くなり)脱せんと欲するは、生脈散これを主る」とある。

方意と構成

本方は補正の方剤で、気と津(体液)が回復すれば脈が生じるところから「生脈散」と名付けられている。

人参が気を養い津液(体液)を生むとともに、体表の陽気を固めて汗を止める<益気生津止汗> 。麦門冬と五味子の配合は“酸甘化陰(酸味と甘味により体液を生む組み合わせ)”によって体を滋潤し、人参を補佐する <養陰生津>。また、五味子は収斂により止汗にも働く<斂汗>。

(管理No.02-258)

 

逍遙散 しょうようさん 八味逍遙散 はちみしょうようさん

効能効果

冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、柴胡(サイコ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンソウ)、生姜(ショウキョウ)、薄荷(ハッカ)

出典

《和剤局方》治婦人諸疾に「血虚労倦(血の不足に伴う倦怠感),五心煩熱(手足と胸部のほてり),肢体疼痛,頭目昏重(頭や目が重く),心忪(精神錯乱があり)頬赤及び血熱相搏ち(頬が赤く、血に熱がこもっており),月経調わず,臍腹脹痛,寒熱瘧(悪寒発熱が繰り返す)の如くなるを治す。又室女血弱陰虚(未婚の女子で陰血が不足)して栄衛(営気と衛気)和せず,痰嗽潮熱(痰・咳・発熱)肌体羸痩(痩せ衰え),漸く骨蒸(骨から蒸されるような熱感)となるを治す」とある。

方意と構成

肝の失調で虚証(体力が低下している状態)に用いられ、特に婦人の虚労や神経症状に伴う諸症状に適用する。

当帰と芍薬は血を補うとともに血行促進に働き<養血活血> 、柴胡は胸膈部の熱を解消して薄荷とともに肝気の高ぶりを鎮め<疏肝解鬱> 、芍薬・甘草と合わせることで、みぞおちや両脇の緊張を緩和する。薄荷は体表部の風熱(風と熱の病邪が合わさったもの)を発散し、生姜とともに胃の働きを高める <祛風清熱>。白朮・茯苓も胃中の停水を除いて健胃利尿の効果がある <健脾利湿>。

(管理No.02-108)

 

四苓湯 しれいとう

効能効果

暑気あたり、急性胃腸炎、むくみ

配合生薬

沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、猪苓(チョレイ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》に「煩渇飲を思ふ(口渇が甚だしくいくら飲んでも物足りないもの)を治す。量を酌んでこれに与へ(ほどほどの薬の量を与え),もし引くこと過多なれば(もし症状が大いに改善するならば),自ら水の心下に停る(水分がみぞおちに停滞していたこと)を覚ゆ。停飲(みぞおちに水の停滞がある状態)と名づく説約に云う四苓散は華蒼朮(生薬の蒼朮)を用い,雀目(夜盲症)を治すこと至妙なり。則ち五苓散方中桂枝を去る(五苓散から桂枝を取り去り用いる)」とある。

方意と構成

本方は、小便を出し余分な水の停滞を除去する「五苓散」から桂枝を抜いた処方で、口の渇きがあって水を飲むけれどうまくおさまらず、尿の出も悪く、嘔気・嘔吐・腹痛・むくみなどを伴うものに用いる。

水分停滞による諸症に有効で、余分な水湿を排除する“利水薬”のみからなり、やや熱に偏っている場合に適する。

(管理No.02-109)

 

辛夷清肺湯 しんいせいはいとう

効能効果

鼻づまり、慢性鼻炎、蓄膿症

配合生薬

知母(チモ)、黄芩(オウゴン)、山梔子(サンシシ)、麦門冬(バクモンドウ)、石膏(セッコウ)、升麻(ショウマ)、辛夷(シンイ)、百合(ビャクゴウ)、枇杷葉(ビワヨウ)

出典

《外科正宗》雑瘡毒門・鼻痔病に「肺熱(肺の炎症があり),鼻内肉,はじめ榴子(柘榴)のごとく,日後く大きく,孔窮(鼻孔)を閉塞し,気(空気)を宣通せざるを治す」とある。

方意と構成

慢性的な肺の炎症により、鼻の穴の通りが閉塞したものに用いられる。鼻閉塞・鼻ポリープ・肥厚性鼻炎・上顎洞化膿症などに適用する。

黄芩・山梔子・知母・石膏には消炎解熱の効果があり、肺の炎症を取り去り鼻の穴の通りを良くする <清熱瀉火>。枇杷葉は痰を除き気を降ろし<降肺気> 、麦門冬・百合は肺を潤して炎症による陰(体液)の消耗を防ぐ<滋陰> 。昇麻は体表の熱を散らし、毒を消し、薬の効き目を上焦部(体の上部)に導く <清熱解毒・昇陽> 。辛夷は芳香が強く、肺を温め、鼻孔を通じさせる働きがある <開竅宣通>。

(管理No.02-110)

 

新加香薷飲 しんかこうじゅいん

効能効果

夏の感冒、無汗、全身倦怠

配合生薬

香薷(コウジュ)、金銀花(キンギンカ)、扁豆花(ヘントウカ)、厚朴(コウボク)、連翹(レンギョウ)

出典

《温病条弁》に「手太陰の暑温(病が太陰肺経にあり夏の暑さを感受して発病するもので),上条証のごとく,ただ汗出でざるは(白虎証に似ているが汗の出ないものは),新加香薷飲これを主る。証の上条のごとしとは,形は傷寒に似(風邪と似ており),右脈洪大,左手反って小,面赤く口渇くを指して言う(顔面が赤く口が渇くものをいう)」とある。

方意と構成

夏の炎熱の気候により暑熱(暑さと火熱が合わさった病邪)を受け、涼んだり、冷気に当たったり、水を浴びたりして寒湿邪(冷えと湿が合わさった病邪)も受けた状態に用いる。

“辛温”の性味の香薷で発汗して病邪を取り去るともに水湿を除き<解表散寒・祛暑化湿> 、気を巡らせて湿をさばく厚朴がこれを補佐する<理気燥湿> 。体の中に暑熱は金銀花・連翹・扁豆花により取り除く<清熱解暑>。

(管理No.02-259)

 

秦芁羌活湯 じんぎょうきょうかつとう

効能効果

かゆみのある痔疾

配合生薬

秦芁(ジンギョウ)、羌活(キョウカツ)、黄耆(オウギ)、防風(ボウフウ)、升麻(ショウマ)、甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、柴胡(サイコ)、藁本(コウホン)、細辛(サイシン)、紅花(コウカ)

出典

《蘭室秘蔵》痔瘻門に「痔瘻(肛門の粘膜にでき、細菌感染により化膿したもの)で塊を成し,下垂しその癢(痒み)を任せられず」とあり,方後に「風寒のところで大小便を忌む(風と冷えの病邪が合わさったところで大小便するのを嫌がる)」と記している。

方意と構成

痔瘻や痔核・脱肛があり、分泌物が出て、痒くて耐えられない肛門疾患に用いる。

秦芁・羌活・防風・藁本・細辛・麻黄により、風寒湿邪(風と冷えと湿が合わさった病邪)を取り除いて痒みを止める <散寒除湿・祛風止痒>。黄耆と紅花は気を補って血を巡らせ、患部における血の停滞を除く <補気活血> 。柴胡・升麻は宣発(体の上部や外側に発散させる働き)により下に墜ちたものをひっぱりあげ、脱肛や痔核を改善し、水の代謝を助ける <昇提>。甘草は諸薬の調和と解毒に働き、薬全体の性質が乾燥に傾くのを抑える。

(管理No.02-111)

 

秦芁防風湯 じんぎょうぼうふうとう

効能効果

痔核で排便痛のあるもの

配合生薬

秦芁(ジンギョウ)、沢瀉(タクシャ)、陳皮(チンピ)、柴胡(サイコ)、防風(ボウフウ)、当帰(トウキ)、蒼朮(ソウジュツ)、甘草(カンゾウ)、黄柏(オウバク)、升麻(ショウマ)、大黄(ダイオウ)、桃仁(トウニン)、紅花(コウカ)

出典

《蘭室秘蔵》痔瘻門に「痔瘻(肛門の粘膜にでき、細菌感染により化膿したもの)で毎日の大便時痛みを発するものを治す」とある。

方意と構成

痔核があり、排便するたびに痛みの強い肛門疾患に用いる。

秦芁・防風・黄柏・大黄・陳皮・沢瀉・蒼朮が湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を取り除き、排便を促して痛みを止める <清熱利湿・通便止痛> 。当帰・桃仁・紅花は血を養い巡らせることで患部における血の停滞を除く<養血活血> 。柴胡・升麻は宣発(体の上部や外側に発散させる働き)により下に墜ちたものをひっぱりあげ、脱肛や痔核を改善し、水の代謝を助ける <昇提>。甘草は諸薬の調和と解毒に働き、薬全体の性質が乾燥に傾くのを抑える。

(管理No.02-112)

 

神仙太乙膏 しんせんたいいつこう

効能効果

切り傷、かゆみ、虫刺され、軽いとこずれ、やけど

配合生薬

当帰(トウキ)、桂皮(ケイヒ)、大黄(ダイオウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、玄参(ゲンジン)、白芷(ビャクシ)、ゴマ油、蜜蝋

出典

《和剤局方》八卷に「八発癰疸(全身の化膿性腫瘍で),一切の悪瘡軟癤(悪性の腫れ物や毛嚢炎)を治す。年月の深遠を問わず,すでに膿をなすものにも,未だ膿をなさざるものにも,これを貼れば則ち効あり」とある。

方意と構成

患部が乾燥したものでも、浸潤したものでもどちらでも使用できる。炎症を抑える働きがある薬物が多く、患部に赤みがあり熱感を帯び、痒みの強い皮膚病に適している。

血を補い巡らせる当帰・芍薬・地黄により皮膚に栄養を与えるとともに<養血活血> 、玄参・大黄により炎症を鎮め、化膿を止める<清熱解毒> 。白芷・桂皮は病邪を発散して湿を取り除く働きがある<発表祛湿止痛>。

(管理No.02-128)

 

参蘇飲 じんそいん

効能効果

感冒、咳

配合生薬

蘇葉(ソヨウ)、枳実(キジツ)、陳皮(チンピ)、葛根(カッコン)、半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、乾姜(カンキョウ)、木香(モッコウ)、甘草(カンゾウ)、桔梗(キキョウ)、前胡(ゼンコ)

出典

《和剤局方》に「風邪で発熱頭痛するのを治す。あるいは水毒が凝結して,兼ねて熱となったものにもよい。よく中を暖め,胸元をさっぱりさせ,胃腸を痛めることもない。小児や女性のような弱い人にもよい」とある。

方意と構成

本方は作用が温和であり、老人・幼児・虚弱者などの咳嗽・多痰を呈する感冒に有効である。

紫蘇葉・葛根・生姜で風寒邪(風と冷えが合わさった病邪)を散らし<祛風散寒> 、前胡・桔梗・半夏・陳皮で痰を取り去り、咳を止める<平喘止咳化痰> 。人参・茯苓・甘草・大棗で体を守る力である正気を養い<扶正祛邪> 、病邪を取り去る力をつよめたり、痰がさらに生成しないように防止する。

(管理No.02-113)

 

神秘湯 しんぴとう

効能効果

小児喘息、気管支喘息、気管支炎

配合生薬

麻黄(マオウ)、杏仁(キョウニン)、厚朴(コウボク)、陳皮(チンピ)、甘草(カンゾウ)、柴胡(サイコ)、蘇葉(ソヨウ)

出典

《外台秘要》に「久欬奔喘し(長期間喘息発作があり),坐臥するを得ず(座ったり横になったりすることができず),ならびに喉裏に呀声し(のどの裏に苦しい声が出て)気絶するを療するの方」として挙げられている。

方意と構成

慢性の痰の少ない呼吸困難がある咳で、気鬱(気の鬱滞)を兼ねたものに良く、気管支喘息・肺気腫・小児喘息に応用される。

肺の機能を高めて気を降ろす“宣肺降気”・咳を止め呼吸状態を落ち着かせる“止咳平喘”の「三拗湯」を、気を巡らせて痰をとる厚朴・陳皮が補助する<平喘化痰>。柴胡・紫蘇葉は肝の気を昇らせて肺の気を降ろし、呼吸状態を安定させる<疏肝理気>。風の病邪を取り去り、気血の巡りを伸びやかにする柴胡・紫蘇葉の配合があるため、病邪によるものや、気の鬱結によって誘発された喘咳にも有効である。薬味が“温燥”で乾燥させるため、熱証には使用してはならない。

(管理No.02-114)

 

真武湯 しんぶとう

効能効果

下痢、急・慢性胃腸炎、胃腸虚弱、めまい、動悸、感冒、むくみ、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみ

配合生薬

茯苓(ブクリョウ)、芍薬(シャクヤク)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、生姜(ショウキョウ)、炮附子(ホウブシ)

出典

《傷寒論》に「太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの),発汗し,汗出て解せず,なお発熱し,心下悸し(みぞおちが動悸し),頭眩し(めまい),身は瞤動し(筋肉が痙攣して),振振として(フラフラして)地に倒れんと欲するものは,真武湯これを主る」とある。

方意と構成

虚弱者で、特に普段から脾胃(脾胃)が弱く、水気が停滞して腹痛・下痢をおこし、めまいや動悸を訴える者に用いる。

主薬の附子が腎の陽気を温め、余分な水の停滞を解消する<温腎利水> 。白朮・茯苓は脾の水湿の運化(水分代謝)を高め、水気を除く<健脾祛湿> 。生姜は温めて水を散らし、附子の働きを助ける<通陽散水> 。芍薬は附子の効能を体内に向かわせ小便を出すとともに腹痛や引きつりを緩解する <柔肝解痙>。

(管理No.02-129)

 

参苓白朮散 じんれい(りょう)びゃくじゅつさん

効能効果

食欲不振、慢性下痢、病後の体力低下、疲労倦怠

配合生薬

人参(ニンジン)、山薬(サンヤク)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、薏苡仁(ヨクイニン)、白扁豆(ビャクヘンズ)、蓮肉(レンニク)、縮砂(シュクシャ)、甘草(カンゾウ)

出典

《和剤局方》に「胃が弱くて食欲がなく,疲労しやすくて力が出ず,腹は脹って胸が痞え,動悸が亢進して息苦しく,嘔吐下痢するのを治す。傷寒(風邪)の咳嗽を治す。この薬は緩和で副作用がない。長く服用すると気を養い,精神が安定し,胃腸も機能を回復して血色をよくし,健康になる」とある。

方意と構成

元気を補し胃腸機能を高める“益気健脾”の「四君子湯」に、水分代謝を整える薏苡仁・白扁豆と <利水滲出>、下痢を止める山薬・蓮肉を加え<収渋止瀉>、芳香性健胃薬である縮砂と <理気和胃> 、脾の昇清(気を補い下の墜ちたものを上に挙げる)を高める桔梗が配合されている <載薬上行>。

(管理No.02-115)

 

清上蠲痛湯 せいじょうけんつうとう 駆風触痛湯 くふうしょくつうとう

効能効果

顔面痛、頭痛

配合生薬

黄芩(オウゴン)、麦門冬(バクモンドウ)、白芷(ビャクシ)、防風(ボウフウ)、蒼朮(ソウジュツ)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、羌活(キョウカツ)、独活(ドクカツ)、蔓荊子(マンケイシ)、菊花(キクカ)、細辛(サイシン)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

明の龔廷賢の《寿世保元》頭痛門に出ている。同じ著者の《済世全書》には、菊花を藁本に代えて「駆風触痛湯」という名で出ている。

方意と構成

頭痛の総司、一切の頭痛薬といわれている。

体表の病邪を散らす白芷・防風・羌活・蔓荊子・菊花・細辛・生姜などの解表薬が多く入っており、水の停滞を発散する独活・蒼朮、血行を良くして痛みを止める川芎・当帰が配合され、処方のほとんどが痛みをとる薬である。

(管理No.02-116)

 

洗肝明目湯 せいかんめいもくとう

効能効果

目の充血、目の痛み、目の乾燥

配合生薬

当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、黄芩(オウゴン)、山梔子(サンシシ)、連翹(レンギョウ)、防風(ボウフウ)、決明子(ケツメイシ)、黄連(オウレン)、荊芥(ケイガイ)、薄荷(ハッカ)、羌活(キョウカツ)、蔓荊子(マンケイシ)、菊花(キクカ)、桔梗(キキョウ)、 蒺䔧子(シツリシ)、甘草(カンゾウ)、石膏(セッコウ)

出典

《万病回春》眼目篇に「一切の風熱,赤く腫れ疼痛する者を治す」とある。

方意と構成

実熱証で発赤・疼痛がつよく、角膜や結膜の赤み、炎症、疼痛、乾燥に用いる。

血を養い目を潤す「四物湯」に、黄連・黄芩・山梔子・連翹・石膏・桔梗を加えて炎症を取り腫れを解消する。蔓荊子・菊花・決明子・荊芥・防風は体表の邪気を散らして、眼病に効力を発揮する。甘草は諸薬を調和する。

(管理No.02-130)

 

清上防風湯 せいじょうぼうふうとう

効能効果

にきび

配合生薬

荊芥(ケイガイ)、黄連(オウレン)、薄荷(ハッカ)、枳実(キジツ)、甘草(カンゾウ)、山梔子(サンシシ)、川芎(センキュウ)、黄芩(オウゴン)、連翹(レンギョウ)、白芷(ビャクシ)、桔梗(キキョウ)、防風(ボウフウ)

出典

《万病回春》面病門に「面(顔面部)に瘡(できもの)を生じるものは上焦(体の上部)の火なり」,「上焦の火を清くし,顔面に瘡癰(化膿性したできもの)を生じ,風熱(風邪と熱邪の病邪が合わさったもの)の毒あるを治す」とある。

方意と構成

横隔膜より上部に充血して毒気が多く、顔面や頭部、頸項部に鬱滞している熱を発散して冷ます。青年男女に発する充血性の面疱(ニキビ)、頭部湿疹、目の充血、酒さなどに応用される。

「黄連解毒湯」の加減である黄連・黄芩・山梔子は余分な湿熱(炎症が強く水分代謝が悪い状態)を取り去る。防風・荊芥・連翹・枳実・桔梗は祛風(風邪を取り去る)・解毒・排膿(膿を出す)の効き目がある。川芎・薄荷・白芷は気血を巡らせて体表の毒を発散し、薬の効き目を体の上部に作用させる。

(管理No.02-117)

 

清暑益気湯 せいしょえっきとう

効能効果

暑気あたり、暑さによる食欲不振・下痢、夏痩せ、全身倦怠、慢性疾患による体力低下、食欲不振

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、麦門冬(バクモンドウ)、当帰(トウキ)、黄耆(オウギ)、陳皮(チンピ)、五味子(ゴミシ)、黄柏(オウバク)、甘草(カンゾウ)

出典

《医学六要》に「長夏湿熱大勝(夏の土用に湿熱がとても強く),人これに感じ,四肢困倦(四肢が重だるく),身熱心煩(体がほてって落ち着かず),小便少なく,大便溏(軟便),或は渇し,或は渇せず(のどが渇く或いは渇かず),飲食を思わず(食べたくなく),自汗する(汗がダラダラ出る)を治す」とある。

方意と構成

夏の暑さを感じて痩せ、食欲がなく、倦怠感が強いものに用いる。

暑さにより気と陰(体液)が消耗するため、気を補う人参・黄耆・白朮・陳皮・炙甘草、陰を補う麦門冬・五味子・当帰を配合している。黄柏は湿熱を取り去る。清熱解暑(暑さによる症状を解消)の効能はほとんどなく、気と陰を両方補う“気津双補”が主体になっている。

(管理No.02-118)

 

清心蓮子飲 せいしんれんしいん

効能効果

残尿感、頻尿、排尿痛

配合生薬

麦門冬(バクモンドウ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)、車前子(シャゼンシ)、黄芩(オウゴン)、黄耆(オウギ)、甘草(カンゾウ)、蓮肉(レンニク)、地骨皮(ジコッピ)

出典

「心中蓄積し(悩み事が多くあり),時に常に煩躁し(じっとしていられず),よりて思慮労力(思い悩み),憂愁抑鬱す(抑うつ状態になる)。これ小便白濁,あるいは沙膜(尿中の混濁物)あり,夜に夢みて走泄し(夢精し),遺瀝渋痛し(尿がすっきり出ず痛みがあり),便赤く血のごとし,あるいは酒色過度(酒や暴飲暴食)により,上盛下虚し(邪気が体の上部に盛んで下部は力がない状態),心火炎上し,肺金は克を受け,口舌乾燥し,漸に消渇をなし(激しく口渇し),睡臥安ぜず(横になって安眠できず),四肢倦怠す。男子の五淋(排尿異常の状態),婦人の帯下赤白(血が混じったおりもの),および病後の気収斂せず,陽は外に浮き(病後に気が収斂せず陽気が内に入らず外に向かってしまい),五心煩熱(手足と胸部のほてり)するを治す。薬性は温平、冷ならず熱ならず,常に服せば,心を清し神を養い.精を秘し虚を補い,腸胃を滋潤し,気血を調順す」とある。

方意と構成

胃腸が弱く、疲れや精神疲労により尿が混濁したり、排尿時に痛みを訴えたり、尿が残るような不快感があるものに用いる。無菌性の尿道炎や前立腺肥大にも使用される。

蓮肉・黄芩・地骨皮により心の熱をとり、車前子と茯苓は小便を出すことでこれを補佐する。清心滋陰(心の熱をとり体液を補う)の麦門冬と、益気(気を補う)の黄耆・人参により津液(体液)を生む。全体で、心と腎を交通させることにより小便の状態や精神状態を安定させることができる。

(管理No.02-119)

 

清肺湯 せいはいとう

効能効果

痰の多く出る咳

配合生薬

黄芩(オウゴン)、桔梗(キキョウ)、桑白皮(ソウハクヒ)、杏仁(キョウニン)、山梔子(サンシシ)、天門冬(テンモンドウ)、貝母(バイモ)、陳皮(チンピ)、大棗(タイソウ)、竹茹(チクジョ)、茯苓(ブクリョウ)、当帰(トウキ)、麦門冬(バクモンドウ)、五味子(ゴミシ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《勿誤薬方函口訣》に「この方は痰火咳嗽の薬なれども虚火の方(痰熱による咳に使う薬だが虚熱証で衰弱気味の咳嗽に使う)に属す。(略)肺熱ありて兎に角,咳の長びきたるものに宜し。(略)労嗽(消耗性疾患による咳嗽)をなすものに用う。方後の按に,嗽久しくやまず(咳が長らくやまず),労怯をなすもの(衰弱したもの)とあり,着眼すべし」とある。

方意と構成

「一切の咳嗽、上焦痰盛(体の上部に痰が多いもの)を治す」とされている。痰が多く、咳嗽が久しくやまず、ときに血痰を出し、あるいは息切れし、体が衰弱しているものに用いる。

肺の炎症や痰をとり呼吸状態を整える黄芩・山梔子・桑白皮・竹茹・貝母・桔梗・杏仁が配合されている。天門冬・麦門冬・五味子は肺の液を補い咳を止め、茯苓・陳皮・大棗・生姜・炙甘草・当帰は脾胃を助け血を調整し、新たな痰の生成を防ぐ。

(管理No.02-120)

 

折衝飲 せっしょういん

効能効果

月経不順、月経痛

配合生薬

牡丹皮(ボタンピ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、桂皮(ケイヒ)、桃仁(トウニン)、当帰(トウキ)、延胡索(エンゴサク)、牛膝(ゴシツ)、紅花(コウカ)

出典

賀川玄悦の著者《産論》に記載がある。

方意と構成

瘀血(血行不良)により、下腹部に痛みを訴え、または骨盤内に痛みを発するものに用いる。

血行不良を改善する「桂枝茯苓丸」と、血を補い水の停滞を防ぐ「当帰芍薬散」から、利水剤の沢瀉・茯苓・白朮を去り、瘀血による痛みを鎮める延胡索・牛膝・紅花を加えたものである。血行を良くし、養血と滋潤を兼ね産後の母胎回復をももつ方である。

(管理No.02-121)

 

川芎茶調散 せんきゅうちゃちょうさん

効能効果

かぜ、血の道症、頭痛

配合生薬

甘草(カンゾウ)、羌活(キョウカツ)、荊芥(ケイガイ)、香附子(コウブシ)、細茶(サイチャ)、川芎(センキュウ)、薄荷(ハッカ)、白芷(ビャクシ)、防風(ボウフウ)

出典

《和剤局方》に「丈夫,婦人諸風上り攻め(男女ともに風の邪気が体の上部にのぼり)、頭目昏重(頭や目が重く)、偏正頭疼(片頭痛)、鼻塞がり、声重く、傷風壮熱(風邪により熱が出て)、肢体煩疼(体がほてって痛みが出て)、肌肉蠕動(筋肉は痙攣して)、膈熱痰盛(胸膈に熱痰が多くあり)、婦人血熱攻注(血熱が注いで)、太陽の穴(こめかみ)痛むを治す。但是(しかし)、風気に感ぜば悉く皆之を治す(風邪を感受したものならば全て治す)。常に服すれば頭目を清す(頭や目をすっきりさせる)。

方意と構成

風邪の初期の頭痛や、女性の月経に伴う頭痛などに用いられる。

荊芥・白芷・防風・薄荷で風の邪気を取り去り痛みを止める。香附子・川芎で肝の疏泄(気血の巡りを伸びやかにする働き)を助け、甘草で諸薬を調和する。羌活・防風・荊芥は太陽頭痛(後頭部~後頚部)、白芷・薄荷は陽明頭痛(前額部)、香附子・川芎は少陽頭痛(側頭・頭頂部)をそれぞれ改善して頭痛全般に有効である。細茶は“苦寒”の性味で頭部の熱を去り、諸薬による温性を抑える働きがある。

(管理No.02-122)

 

疎経活血湯 そけいかっけつとう

効能効果

関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛

配合生薬

当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、川芎(センキュウ)、蒼朮(ソウジュツ)あるいは白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、桃仁(トウニン)、芍薬(シャクヤク)、牛膝(ゴシツ)、防已(ボウイ)、防風(ボウフウ)、竜胆(リュウタン)、生姜(ショウキョウ)、陳皮(チンピ)、白芷(ビャクシ)、甘草(カンゾウ)、威霊仙(イレイセン)、羌活(キョウカツ)

出典

《万病回春》「遍身走痛し(全身的に痛みが走り),日軽く夜重きは(日中が軽く夜つらいのは),これ血虚なり」、「遍身走痛し刺すがごとく(体のあちらこちらで刺すように痛み),左足痛とくに甚だしきを治す,左は血に属す,多く酒色の損傷(病因の多くは酒を飲み暴飲暴食をし),筋脈虚空するにより(筋肉や血などが衰えているので),風寒湿熱を被り内に感じ(風・寒・湿・熱の邪が生まれ),熱は寒に包まれ(熱と寒が入り混じって),すなわち痛み筋絡を傷る(筋肉や経絡を傷つけて痛む),これ昼軽く夜重きをもって,よろしく疏経活血行湿(経絡を通じ血行を良くして湿を取り去る治療法)をもってす,これ白虎歴節風にあらざるなり(痛風のような痛みとは異なる)」とある。

方意と構成

上・下肢の神経痛、産後の下肢痛、腰痛、全身筋肉痛、痛風、脳卒中後遺症などに用いられる。

血を養う「四物湯」に血の巡りをよくする桃仁と、特に下肢の血行を改善する牛膝が配合されている。茯苓・蒼朮・陳皮・羌活・白芷などは、威霊仙・防已・竜胆とともに風邪と湿邪を取り去り、経絡を疎通して止痛する。

(管理No.02-123)

 

蘇子降気湯 そしこうきとう

効能効果

慢性気管支炎、気管支ぜんそく

配合生薬

紫蘇子(シソシ)、厚朴(コウボク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、当帰(トウキ)、半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)、前胡(ゼンコ)、桂皮(ケイヒ)

出典

《和剤局方》一切気に「男女虚陽上攻して,気升降せず(虚弱な人がのぼせ甚だしく逆上した気が動かず),上盛下虚(邪気が体の上部に盛んで下部は力がない状態),膈壅がり(横隔膜付近が塞がり),痰多く,咽喉利せず(のどがすっきりせず),咳嗽,虚煩して引飲(ほてって落ち着かずしきりに水を飲む),頭目昏眩(めまいがして),腰疼き足弱く,肢体倦怠,腹肚疼痛,冷熱気瀉,大便風秘(風邪による便秘),渋滞して通ぜず,肢体浮腫,飲食に妨げあるを治す」とある。

方意と構成

足腰が冷えて顔はのぼせ、耳鳴り、鼻血、目の充血などの熱症状があったり、咳が出て呼吸が苦しいものに用いる。

上逆した気を降ろして痰をとる紫蘇子・前胡・厚朴・半夏、陳皮が配合されている。桂皮は腎陽を温め納気(息を深く吸い込む機能)の働きを回復させるとともに、痰が生まれるのを防止する。炙甘草・大棗・生姜も中焦(胃腸)を整え、痰が生まれないようにしている。当帰は滋潤して血の流れを順調にさせ、病変が血分に及ぶことを防ぐ。

(管理No.02-124)