更年期に自律神経が乱れる理由

はじめに

誰しも避けては通れない更年期。更年期とは、生殖能力が低下し、女性では月経が終了する前後5年の約10年のことをいいます。
主に40~50代のときに、さまざまな身体的、精神的な変化が起きることがあり、その中には自律神経の不調による症状が多く含まれます。

更年期の症状には個人差が大きく、症状の程度も異なりますが、更年期に出る症状が軽い人と重い人では、一体何が違うのでしょうか。

今回は、更年期と自律神経の関係を踏まえつつ、更年期を健やかに過ごすためのヒントを見つけていきたいと思います。



更年期症状と自律神経の関わり

女性の更年期症状は、卵巣から分泌するエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの量が急激に減ることによって起きます。
女性ホルモンの分泌を行っているのが、脳の視床下部と脳下垂体であり、視床下部は自律神経をコントロ―ルする司令塔の働きも担っています。
卵巣機能が衰えて女性ホルモンが減ると、視床下部は通常より強く働いて、卵巣からホルモンを分泌させようとします。
しかし、卵巣は機能低下で既にうまく働けないため、視床下部にはさらなる負担がかかり、過剰に興奮して視床下部の働きが乱れるようになってしまうのです。
これにより、自律神経も一緒に乱れるようになり、更年期に自律神経症状が多く出るようになります。



女性の更年期の主な症状

更年期では、さまざまな症状が見られます。


・ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)や多汗

…交感神経と副交感神経の乱れにより、体温調節がうまくいかなくなります。


・不安、抑うつ、イライラ、不眠

…自律神経が乱れ、ストレスに対する過剰な反応やストレス耐性が低下するとされています。


・骨粗鬆症

…骨の新陳代謝に関わる女性ホルモンが減ることで、骨密度が低下します。


・肌の乾燥やしわ、吹き出物、関節の痛み

…女性ホルモンの減少は、皮脂腺の分泌やコラ―ゲン生成を低下させ、炎症反応を増やすとされています。


・頻尿、尿失禁、膣の乾燥、性欲の低下

…女性ホルモンが減ることで、泌尿器や生殖器の健康に影響します。


・動悸、頭痛、心疾患・脳血管疾患リスクの上昇

…女性ホルモンの分泌低下により動脈硬化が進んだり、自律神経の変化で心拍数や血圧が乱れやすくなります。



男性の更年期

男性も更年期症状は出ますが、女性が閉経というキッカケがあるのに対し、年齢に伴って男性ホルモンが次第に減っていき、徐々に進行していくという点で異なります。
一般的に40~60代の男性が経験し、こちらも女性と同じように個人差が大きく、症状や進行の具合には違いがあります。
近年では、男性の更年期も知られてはきましたが、さまざまな症状が個人の性格や年齢によるものとされ、更年期症状と気づかれないケ―スもあり、一層の理解や認識を深めることが必要でしょう。



中医学で考える更年期症状

中医学で考える更年期症状

中医学で考える更年期症状

中医学では、脳の働きに“(じん)”という臓腑が深く関わるとされています。
腎は「骨を主り、髄を生じ、脳に通ず」とされ、脊髄と骨髄を作り、脳髄へと通じています。
そのため、更年期における脳や神経の乱れは、中医学で考えると、腎の機能の低下によるものと言うことができるでしょう。
腎は脳や神経だけでなく、生殖器や内分泌にも関わりがあるため、女性ホルモン自身の分泌低下にも関係しています。

また、腎の衰えは、“(かん)”という臓腑にも影響します。「肝腎要(かんじんかなめ)」というように、腎と肝の臓腑には深い結びつきがあり、互いに協力して身体の機能を調和したり、バランスを維持しています。
肝には、体内の血液量を一定に保ち、感情を安定させ、自律神経をコントロ―ルをする働きがあります。この肝の働きの低下は、腎の機能にも影響を与えるとされ、その逆も同様です。



更年期を健やかに過ごすには?

更年期を健やかに過ごすには?

中医学においては、腎や肝の機能が高い人が更年期になっても、身体のバランスを乱すことなく、健康に過ごすことができるとされています。
腎の健康については、体が元々強い・弱いという生まれつきの体質や、女性では出産回数や産後の肥立ちの状況がある程度関わってきますが、飲食や睡眠、ストレス、運動習慣などの生活習慣が、腎や肝の健康状態に直接影響するようになります。

食事のバランスを整える、十分な睡眠をとり休息する、ストレスを溜めこまずうまく発散する、適度な運動をして筋力をつける、など健康的な日常生活を送ることで腎や肝の機能低下を急激に進ませないことが、つらい更年期症状を出さないようにするコツです。
もし、生活習慣を改めてもうまく体調が整わない場合は、中医学の力を借りることもお勧めです。
漢方薬や鍼灸治療が身体に優しく働きかけ、陰陽のバランスを整えることにより、少しずつ全身状態を整えていくことができるでしょう。

代表的な漢方薬と随伴症状

腎に関わる代表的な漢方薬

*倦怠感・冷え・むくみ・夜間尿・下痢があるとき

八味地黄丸( はちみじおうがん )


※上記の状態で、むくみがひどい・関節痛などの痛みがあるとき

牛車腎気丸( ごしゃじんきがん )


*倦怠感・のぼせ・口の渇き・頻尿・寝汗があるとき

六味地黄丸( ろくみじおうがん )


※上記の状態で眼精疲労・ドライアイ・貧血をともなう場合

杞菊地黄丸( こぎくじおうがん )


*性機能に不安がある・骨粗鬆症があるとき

亀鹿二仙湯( きろくにせんとう ) 至宝三鞭丸( しほうさんべんがん )



肝に関わる代表的な漢方薬

*冷え・むくみ・貧血・眩暈があるとき

当帰芍薬散( とうきしゃくやくさん )


*不眠・動悸・不安・焦燥感・胃腸虚弱があるとき

帰脾湯(きひとう)


*イライラ・憂うつ感・頭痛があるとき

加味逍遥散( かみしょうようさん )


*不眠・のぼせ・多汗・高血圧があるとき

柴胡加竜骨牡蛎湯( さいこかりゅうこつぼれいとう )




更新日:2024-01-25

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