なぜ低たんぱくが大事なの?
~腎臓とたんぱく質の関係~

「健康診断で腎臓の数値が少し気になると言われたけれど、たんぱく質の制限やカリウムの制限など、今のところ特に制限はない…」という方も多いかもしれません。たんぱく質制限はすべての人に必要ではありませんが、いざ腎臓病が進行したときに、どう対応すれば良いかを知っておくことが大切です。



腎臓のしくみと4つの大切な働き

腎機能を高める食事
腎機能を高める食事

腎臓は背中側に左右1つずつある臓器で、血液をろ過し、老廃物を尿として排出する重要な働きを担っています。
1つの腎臓には「糸球体(しきゅうたい)」という小さなろ過装置が約100万個あり、1日に150リットルもの血液をろ過します。そのうち、体に必要な水分やミネラルは再吸収され、不要なものが尿となって体外に出ていきます。


腎臓の主な4つの働き

  • 1.老廃物や塩分をろ過し、尿として排出
    → BUN(血中尿素窒素)、クレアチニン、eGFRなどの指標によって示されます。
  • 2.ミネラル(電解質)バランスの調整
    → カリウム、ナトリウム、カルシウムなどを一定に保ちます。
  • 3.ホルモンの産生
    → 血圧を調整するホルモンや、赤血球をつくるホルモン(エリスロポエチン)を作り体内の状態を一定に保つように調整します。
  • 4.体液量を一定に保つ
    → 水分バランスを調節し、むくみや脱水を防ぎます。


腎臓の機能が低下するとどうなる?

腎機能の低下とは、ろ過機能が弱くなることを意味します。ろ過フィルターである、糸球体が傷つくと、血尿や蛋白尿が現れ、それが続くことでさらに腎臓の働きが低下していきます。


●よく見られる腎臓の病気と特徴
疾患名 主な原因 特徴
慢性糸球体腎炎 糸球体の炎症 尿異常が長く続く
糖尿病性腎症 高血糖 進行が早く透析に至りやすい
多発性嚢胞腎 遺伝性疾患 腎臓にのう胞が多数できる
腎硬化症 高血圧・動脈硬化 高齢者に多いタイプ

腎臓病は初期症状が少なく、尿検査や血液検査での発見される事が多いです。だからこそ、自覚症状が出てしまう前に対策することが大切です。悪化すると人工透析が必要になり、心臓病や脳卒中などの合併症のリスクも高まります。



たんぱく質制限が必要な理由


こわい慢性腎臓病(CKD)
こわい慢性腎臓病(CKD)

たんぱく質は体に必要な栄養素ですが、消化の際に出る老廃物は腎臓が処理します。腎機能が低下していると、その処理能力が落ち、老廃物が体にたまってしまう可能性があります。

参考 たんぱく質摂取目標量


たんぱく質を制限するときに気をつけたい「エネルギー不足」

たんぱく質を減らすと食事全体のボリュームも減り、エネルギー不足に陥ることがあります。エネルギーが不足すると、筋肉を分解してエネルギーを補おうとし、逆に老廃物が増えてしまうという悪循環になることも。


たんぱく質を制限しつつ、エネルギーをしっかりとるための工夫

  • 油や砂糖など、たんぱく質を含まない食品をうまく使う
  • 低たんぱくごはんなどの市販品を活用し、主食からのたんぱく質を抑えつつエネルギーを確保する

たんぱく質を抑えることは、腎臓を守るための手段の一つ。ですが、それには正しい知識と適切なエネルギー補給がセットで必要です。今のうちから少しずつ意識して、腎臓をいたわる生活を始めてみましょう。

低たんぱくを無理なく続けるコツ

腎機能を高める食事
腎機能を高める食事

同じ食材・同じ調理法で「分けるだけ」


家族と全く別メニューにするのではなく、味付けや分量だけを変える方法がおすすめです。


  • ◎同じ肉や魚を使い、自分の分だけ別鍋・別フライパンで味付けを調整
  • ◎フライパン用アルミホイルで仕切れば、同時調理も可能
  • ◎主菜の一部を野菜に置き換える(例:ひき肉+玉ねぎ+なすのハンバーグ)


小分け冷凍で時短・食べすぎ防止


  • ◎おかずを数回分まとめて調理 → 1食分ずつ冷凍保存
  • ◎肉や魚は15g・20gにカットして冷凍し、たんぱく質量の把握もしやすく
  • ◎ラップに日付とたんぱく質量を書いておくと便利


食材選びのポイント:実は「低たんぱく」なものもたくさん

肉・魚・卵を使うときの工夫


  • ◎鶏肉は、皮つきもも肉<むね肉<ささみの順でたんぱく質が多く、1食30g以内を目安に
  • ◎牛・豚はもも肉やヒレが高たんぱく、ばら肉やひき肉はやや低め
  • ◎卵は1個あたり6〜9g、制限がある場合はSサイズ1個/日が目安

※例:鶏ささみ30g → 約7.4gのたんぱく質
豚ひき肉30g → 約5.3gのたんぱく質


魚介・貝類・大豆製品を上手に使う


  • ◎魚は切り身50gでたんぱく質約10g、イカやタコは魚より低たんぱくで使いやすい
  • ◎貝類(アサリ・カキなど)は比較的低たんぱくで、だしにも活用できる
  • ◎豆腐は絹ごし40g程度で約2gのたんぱく質と、主菜の副素材として最適


主食にも注意!低たんぱくな主食を活用しよう

主食にも意外と多くのたんぱく質が含まれています。


食品名 分量 たんぱく質
ごはん 150g/茶碗1杯 約3.8g
食パン 60g/6枚切り1枚 約5.6g
乾燥春雨 100g 約0.2g
乾燥スパゲティ 100g/1束 約12.2g
乾燥うどん 100g/1束 約8.5g
乾燥そうめん 100g/1束 約9.5g
乾燥そば 100g/1束 約14g

低たんぱくごはん・春雨を活用して主食のたんぱく質を抑える


  • 低たんぱくごはんは1パック(180g)でたんぱく質0.3~0.6gと非常に少なく、自由度が上がります
  • 春雨・ビーフンはでんぷんが原料なのでたんぱく質が少なく、サラダや炒め物に◎
  • ◎一方で、スパゲティやそばは高たんぱく(100gで9~14g)なので量に注意

腎臓病の食事療法は、継続が何より大切です。
たんぱく質や塩分の制限は必要ですが、それを無理に我慢するのではなく、知識と工夫で「自然に抑える」方法を身につけていくことがポイントです。

低たんぱく食を続けるには、完璧を目指さない「ゆるやかさ」がカギ

低たんぱくでも食事の喜びを
低たんぱくでも食事の喜びを

食事療法を始めたばかりの方ほど、「全部ちゃんと守らなきゃ」と気を張ってしまいがちです。でも、長く続けるためには“がんばりすぎない”ことがとても大切。無理にストイックにならず、日によって「今日は7割守れたからOK」と考える柔軟さが、継続の力になります。たとえば、忙しくて食事の準備ができなかった日は、できるだけシンプルなものを選ぶだけでも十分。失敗を責めるより、「できたこと」に目を向けることで、気持ちがぐっと楽になります。


気持ちを抑え込まないで


「食べたい」という気持ちは自然なこと。無理に我慢せず、体調のいい日は少しを楽しむのも大切です。我慢ばかりだと、気づかないうちに心のストレスが積もってしまいます。特別な日には、自分へのご褒美として小さな楽しみを取り入れることも、心の健康には重要です。


「調整しながら食べる」は、できる選択


外食では家族とシェアしたり、前後の食事で塩分やたんぱく質を調整したりと、柔軟に対応しましょう。たとえば夜に焼肉が食べたい日は、朝や昼を野菜中心にするなど「全体でのバランス」を取ればOKです。一日の中での調整力こそが、長く続ける知恵です。



低たんぱく食でも食べる楽しさを忘れずに

「制限がある=楽しめない」と思いがちですが、視点を変えると楽しみは見つけられます。料理の見た目にこだわったり、盛りつけを工夫することで、同じ料理でも満足感が変わります。また、お気に入りの器や箸を使うことで「食べる時間」が少し特別なものに変わります。「今日は低たんぱくでも美味しくできた!」と、自分を褒める気持ちを忘れないことがモチベーション維持に繋がります。工夫と視点の切り替えで、食事は「制限」から「自己ケア」へと変わっていきます。


  • ◎彩り豊かな副菜を取り入れたり、旬の食材を選んだりすることで、味覚や視覚を楽しめます。
  • ◎「好きな食べ物」を完全にやめるのではなく、量や回数を調整しながら付き合っていくことが可能です。
  • ◎「これは食べられる」「こうすれば美味しい」という前向きな発見が、日々の喜びになります。


周囲とのつながりを活かす

腎臓病の食事療法は、一人だけで抱え込まずに、周囲のサポートを活用することがとても大切です。家族やパートナーと同じ材料で料理をして、味付けだけを変える「共通ごはん」は手間も減り、孤独感も和らぎます。また、管理栄養士さんに相談して、自分の生活スタイルや嗜好に合わせた食事プランを立ててもらうのもおすすめです。SNSや患者会などで同じ病気を持つ人とつながると、「自分だけじゃない」と感じられ、気持ちが軽くなります。


  • ◎友人との外食では、自分の体調やルールに合わせて選ぶことを楽しみましょう。
  • ◎周囲に自分の病気や事情を伝えるのが難しいと感じることもあるかもしれませんが、自分の健康を守るための行動は、決して恥ずかしいことではありません。
  • ◎「話してみたら理解してもらえた」という声も多く、自分のペースでの関係づくりが、生活の支えになります。

低たんぱく質の食事療法で腎臓を守ろう!​


低たんぱく食と聞くと、「味気ない」「満足できなさそう」といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。でも、ちょっとした工夫で「おいしくて満足感のある料理」にすることができます。 今回は、豆腐・鶏ひき肉・山芋など、低たんぱくでもしっかり満足できる食材を使った、ふわっと香ばしい「山芋のしそつくね」のレシピをご紹介します。



山芋つくね​


山芋のしそつくね
(1人あたり・約3個分)エネルギー172kcal,たんぱく質8.8g,塩分1.0g
山芋のしそつくね
(1人あたり・約3個分)エネルギー172kcal,たんぱく質8.8g,塩分1.0g

材料(約6個分)

  • ・山芋:60g
  • ・絹ごし豆腐:80g
  • ・鶏ひき肉:50g
  • ・しょうが(すりおろし):2g
  • ・片栗粉:大さじ2
  • ・マヨネーズ:小さじ1.5(6g)
  • ・しょうゆ:小さじ1.5(9g)(タネ用)
  • ・こしょう:少々
  • ・しそ:6枚→さっと洗ってから、葉元の茎を切り落とします

タレ

  • ・しょうゆ 小さじ0.5
  • ・砂糖 小さじ1
  • ・酒 小さじ1

作り方

  • 1.山芋は皮をむき、ビニール袋に入れて瓶の底などで軽くたたき、粗く砕く。※少し食感を残すのがポイント!

  • 2.砕いた山芋に、しそとタレ以外の材料(絹ごし豆腐・鶏ひき肉・しょうが・片栗粉・マヨネーズ・しょうゆ・こしょう)を加え、袋の中でよくもみ混ぜてタネを作ります。

  • 3.ビニール袋の端を切り、6等分に、しその葉に絞り出す。しそを巻き、形を整える。

  • 4.フライパンにサラダ油を熱し、3.を並べて焼く。両面がこんがり焼けたら、混ぜ合わせたタレを加えて全体にからめて完成!


おすすめポイント!

  • ふわっと食感としその香りが絶妙で、飽きずに食べられます
  • 鶏ひき肉や豆腐をベースにすることで、たんぱく質を抑えつつ満足感◎
  • ごはんに合う味付けで、お弁当にもぴったり!

まとめ

腎臓病の食事療法は、「我慢の連続」ではなく、「自分らしく生きる」ための方法です。完璧を求めすぎず、自分のペースで少しずつ続けることが、心身の負担を減らします。


  • ◎無理なく続ける「ゆるやかさ」
  • ◎食べることを楽しむ姿勢
  • ◎調整できる自分を信じること

どんな日でも、「今日も気をつけられた」と思えるその一歩が、明日のあなたの健康につながります
“食べることは生きること”――あなたらしい方法で、ゆっくりと歩んでいきましょう。



公開日:2025-05-30
更新日:2025-05-30