体質で考える「認知症」

体質で考える「認知症」

体質で考える「認知症」

更新日:2023.11.21

 

 

 

認知症とは?

認知症の代表的な症状に“物忘れ”が挙げられます。主に“ぼけ”が生理的な老化現象を指すのに対し、“認知”とは脳が広範囲に障害を起こし、回復できなくなった状態をいいます。認知症は医学的に解明されていない部分も多く、治療が難しい病気の一つです。

 

漢方で考える認知症の原因と治療

アルツハイマー型認知症(AD)
脳におけるβアミロイドたんぱく質の蓄積が原因の一つとして挙げられていますが、未だに完全なメカニズムは解明されておらず、万全の治療法がない現代の難病の1つです。症状の特徴は、記憶障害と認知障害で、具体的には時間感覚の喪失(今日が何日かなど)、場所の混乱(自分の家が分からない)、さらに症状が進行すると、人物の認識力(家族の判別など)に影響が出てきます。治療は、記憶に関わるアセチルコリンという物質を増やす薬を使って認知障害を改善させるようにします。※2021年6月にはアメリカのFDA(食品医薬品局)がアルツハイマー病の治療薬としてアメリカの製薬会社と日本のエーザイが共同開発した新薬“アデュカヌマブ”について、原因と考えられる脳内の異常なたんぱく質を減少させる効果を示したとしてアルツハイマー治療薬の承認が下りたことが発表されました。

レビー小体型認知
脳の神経細胞の中にレビー小体と呼ばれる異常タンパクが見られるもので、大脳に広く現れると認知症状が出てくるようになります。症状として、記憶障害や実際にはないものが見える幻視(げんし)、寝ている間の奇声や暴言といったレム睡眠行動障害などが起きます。日や時間帯によって頭がはっきりしたり、ボーッとしたりと認知機能が変動するので気づかれにくい特徴があります。また、ほとんどの場合、運動の遅さや手のふるえといったパーキンソン病と同様の症状が現れます。治療には、アルツハイマー型認知症の治療薬や、パーキンソン病のような症状には抗パーキンソン病薬が使用されます。

脳血管性認知症(MID)
脳梗塞や脳出血の発作後に現れてくる認知です。1回の発作で症状が現れることもありますが、主に何回か発作を起こした多発性脳梗塞の後に現れることが多いのが特徴です。具体的な症状として、物忘れ(主に最近の記憶が減退)のほかに、些細なことで泣いたり笑ったりする感情失調が見られます。治療では、脳血管障害再発予防のため、リハビリテーションをはじめ、高血圧薬、脳血流改善薬などの薬を服薬します。

体質で考える「認知症」

体質で考える「認知症」

認知症には、大脳皮質の萎縮や脳の動脈硬化などが要因として挙げられますが、それらはすべて“血流の状態”と密接な関係があります。そのため、中医学においても血行不良の状態である“瘀血(おけつ)”が認知症の原因の一つに上げられます。また、そのほかにも水と脂質の代謝障害により生じる“痰湿(たんしつ)”という老廃物が脳に詰まって正常な精神活動を妨害したり、生命エネルギーの源である“腎精(じんせい)”が加齢により衰えることで脳の働きが落ちるとされています。

 

中医学体質別治療法

① 血瘀(けつお)体質
血液の粘度が高くなることで血行不良となり、頭部が栄養されない。
随伴症状:肩こり、頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
血(けつ)が滞ることで詰まりやすくなり、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血といった循環器障害が起こりやすくなります。

 

漢方

桂枝茯苓丸、補陽環五湯など

ツボ

血海、三陰交など

食材

紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎ、ナスなど

 

 

② 痰湿(たんしつ)体質
身体にドロドロした老廃物がたまることで、頭部が詰まりやすくなる。
随伴症状:体が重だるい、頭重、痰が多い、食欲不振、胸苦しく胃がつかえる、下痢など。
多くは飲食の不摂生や思い悩むことにより、胃腸の働きが衰えて水分代謝が悪くなり、老廃物が滞り頭部に詰まりやすくなっています。

 

漢方

二陳湯、温胆湯など

ツボ

陰陵泉、豊隆など

食材

緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど

 

 

③ 腎虚(じんきょ)体質
身体に蓄えられるべき生命エネルギーである精(せい)が不足しており、頭部の栄養状態が悪くなる。
随伴症状:足腰がだるい、耳鳴り、頻尿、白髪、難聴、精力減退、むくみなど。
加齢や過労、睡眠不足などにより腎の機能が衰えると、脳髄の働きが衰え、物忘れなどが増えるようになります。

 

漢方

六味地黄丸、瓊玉膏など

ツボ

腎兪、太谿など

食材

黒豆、黒きくらげ、黒ごま、山芋、卵、くるみ、アーモンドなど

 

 

 

認知症の鍼灸治療

鍼灸治療では、体質に対処するツボを適切に選定しアプローチしていくことで不快な症状の軽減、緩和を目的としていきます。認知症では、頭皮にあるツボを刺激することで、脳の活性化を促すことができます。

認知症で使う代表的なツボ
神庭(しんてい)、百会(ひゃくえ)、天柱(てんちゅう)、脳戸(のうこ)など。

 
 

暮らしのアドバイス

・1日15分以上の有酸素運動を行いましょう
・パン・パスタ・ケーキなど単純炭水化物のとりすぎに気をつけましょう
・サケ、サバ、イワシなどの魚をとりましょう
・ストレスを上手に発散しましょう
・趣味を持つなど、楽しいことを見つけましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒