漢方薬辞典-た行

 

泰山盤石散 たいざんばんじゃくさん

効能効果

習慣性流産、不正性器出血、食欲不振

配合生薬

人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、当帰(トウキ)、続断(ゾクダン)、黄芩(オウゴン)、白朮(ビャクジュツ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、縮砂(シュクシャ)、甘草(カンゾウ)、糯米(ジュベイ)

出典

《景岳全書》に記載がある。

方意と構成

本方は気と血を補う「十全大補湯」から桂皮と茯苓を除き、続断・黄芩・縮砂・糯米を加えたものに相当する。

気を養い脾胃(胃腸)を丈夫にする黄耆・人参・白朮・炙甘草・糯米<益気健脾>、血を補い血の停滞を防ぐ「四物湯」<養血活血>により気血を相補する。これに、腎を養い出血を止める続断<補腎止血>、胃をすっきりさせて食欲をあげる縮砂<醒脾開胃>、熱を除く黄芩<清熱>が加わっている。清熱の黄芩を加えているのは、胎動不安(胎児の過剰な動き)の原因に胎熱(母体から熱毒が胎児に伝わった状態)が関わることがあるためであり、同時に他薬の温性を抑える目的もある。

(管理No.02-263)

 

大黄甘草湯 だいおうかんぞうとう

効能効果

便秘

配合生薬

大黄(ダイオウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《金匱要略》に「食しおわって後吐するものは,大黄甘草湯を主る」とある。

方意と構成

便秘と嘔吐に用いられる。便を出して胃の熱を冷まして気を降ろし,消化不良で胃がふさがったものを解消して嘔吐を止める方意で、現在では常習便秘に幅広く使用されている。

大黄には瀉下(便を下す)作用があり<瀉熱通便>、甘草が大黄の効力を緩和し脾胃(胃腸)を守る働きがある。

(管理No.02-131)

 

大黄牡丹皮湯 だいおうぼたんぴとう

効能効果

月経不順、月経困難、月経痛、便秘、痔疾

配合生薬

大黄(ダイオウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、芒硝(ボウショウ)、冬瓜子(トウガシ)

出典

《金匱要略》に「腸癰(消化管の炎症性疾患で),小腹腫痞し(下腹部が腫れて抵抗を触れ),之を按ずれば則ち淋のごとく痛み(触れると膀胱炎のような痛みがあり),小便自調し(小便は普通で),時々発熱し,自ずと汗出で,復た悪寒し,その脈遅緊なるは,膿いまだ成らず,これを下すべし(脈が遅緊なら化膿が進んでいないから下すべきである),まさに血あるべし(血便もあるだろう),脉洪数なるは、膿すでに成る、下すべからざるなり(脈が洪数である場合は化膿が進んでいるから下すべきではない),大黄牡丹皮湯之を主る(下すべきときは大黄牡丹皮湯の主治である)」とある。

方意と構成

欝結した熱毒と気血の停滞を取り除き、癰腫(化膿性の炎症)を治す。虫垂炎の初期で、まだ化膿性炎症が進んでいない時期に良い。腸の炎症性疾患の他、肛門周囲炎・痔瘻・子宮内膜炎・尿道炎・皮膚疾患などに応用される。

主薬は大黄で、腸中の熱毒を便で下すとともに血流改善に働き<瀉熱活血>、芒硝がこれを補佐する<軟堅散結>。牡丹皮・桃仁は滞りを散じ<涼血活血>、冬瓜仁は抗炎症と排膿(膿を出す)に働く<清熱排膿>。

(管理No.02-132)

 

大陥胸湯 だいかんきょうとう

効能効果

腹痛、腹部の圧痛、発熱、頭汗、便秘

配合生薬

大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、甘遂(カンツイ)

出典

《傷寒論》に「傷寒六七日(風邪をひいて6~7日ほど経た時),結胸熱実(みぞおちで痰と熱が結びつき、小結胸証よりも重症なもの)、脈沈にして緊、心下痛み(みぞおちが痛み),これを按じ石鞕ものは(触れると石のように硬いものは),大陥胸湯これを主る」とある。

方意と構成

水熱互結胸腹(水湿と熱がみぞおちと胸脇で結びつき、腸胃まで影響を及ぼすもの)のために、みぞおちから下腹部まで硬く脹って痛むもので、小結胸病に比べて重症である。

主薬の甘遂が、みぞおちに停結した水飲(水の停滞)と熱邪(熱の病邪)を取り去る<瀉水逐飲・泄熱散結>。これに、大便を出して水熱を瀉す大黄<瀉熱攻下・消水>と、詰まったものを柔らかくして熱を取り去る芒硝<瀉熱軟堅>が配合されている。

(管理No.02-264)

 

大建中湯 だいけんちゅうとう

効能効果

下腹部痛、体腹部膨満感

配合生薬

山椒(サンショウ)、人参(ニンジン)、乾姜(カンキョウ)、膠飴(コウイ)

出典

《金匱要略》に「心胸中大いに寒え痛み(胸中が大いに冷えて痛み),嘔して飲食することあたわず(嘔吐して食事ができず),腹中寒え,上衝(のぼせなど気が下から上に突き上げるもの)し皮おこり,出で見れ頭足ありて上下し,痛みて触れ近づくべからざるは(腹中が冷えて腹がむくむくと動いて、その動き方が頭と足があるように上下に動いて痛くて触れることができないものは),大建中湯これを主る」とある。

方意と構成

小建中湯の適応症よりさらに体が衰弱したものや、体内に冷えがあるものに用いる。

山椒が主薬で脾胃(胃腸)を温めて腸の蠕動運動を調整し<散寒除湿・下気散結>、乾姜がこれを助ける<温中散寒>。人参・膠飴は脾胃を補い、痙攣性の痛みをとる<補益・緩急止痛>。

(管理No.02-133)

 

大柴胡湯 だいさいことう

効能効果

胃炎、常習便秘、高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘、神経症、肥満症

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)、黄芩(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、枳実(キジツ)、大黄(ダイオウ)

出典

《傷寒論》に「傷寒発熱し(風邪をひいて発熱し),汗出でて解せず(発汗させても治らず),心中痞鞭し(みぞおちに痞えがあり),嘔吐して下利(下痢)するものは,大柴胡湯これを主る」とある。

方意と構成

病が少陽の部位、すなわち体表と体内の間にある半表半裏にあり、みぞおちが脹って痛む、あるいは硬く痞え、腹直筋の緊張があり、胸脇苦満の症状がつよい時に用いる。柴胡剤の中でも本方は症状が激しい場合や体力の充実した実証の人に適用する。

少陽の気の滞りを通す柴胡と<疎通少陽・疏邪外透>、少陽における鬱した熱を取り去る黄芩により病邪を追い払う<清熱瀉火>。半夏・生姜は胃の気の上逆による悪心や胸の痞えを抑え<降逆止嘔>、枳実・大黄は便を出すことで胸の痞えを解消する<理気瀉下>。大棗・白芍は“甘味”と“酸味”の性味により津液(体液)を生み、熱による消耗から保護する<酸甘化陰>。

(管理No.02-134)

 

大柴胡湯去大黄 だいさいことうきょだいおう

効能効果

胃炎、高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛、神経症

配合生薬

柴胡(サイコ)、半夏(ハンゲ)、生姜(ショウキョウ)、黄芩(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)枳実(キジツ)

出典

《傷寒論》の大柴胡湯には大黄が記載されておらず、大柴胡湯去大黄はこれに相当する。

方意と構成

柴胡剤の中でも本方は症状が激しい場合や体力の充実した実証の人に用いる。大柴胡湯証で便秘がない場合に使用する。

(管理No.02-135)

 

大半夏湯 だいはんげとう

効能効果

嘔吐

配合生薬

半夏(ハンゲ)、人参(ニンジン)、蜂蜜

出典

《金匱要略》に「胃反(胃の気により下に降ろす働きが失調して上逆する状態)にて嘔吐するは大半夏湯これを主る」,「嘔して心下痞鞭(嘔吐してみぞおちが痞える)するものを治す」とある。

方意と構成

朝食べたものを夕方に吐く・夜食べたものを朝に吐く・食べるとすぐに吐くなど、食事に関連して嘔吐する「反胃」の状態に有効である。

主薬である半夏により、胃の気を降ろして飲食物を腸に移動させる<降逆止嘔>。人参は胃の気を回復させ<補気益胃>、蜂蜜は胃の陰(体液)を補い便を軟化させる<潤燥通便>。蜂蜜は半夏の毒性・燥性を緩和し、滋潤して巡らせる働きにより胃気の下降を促進する。

(管理No.02-136)

 

沢瀉湯 たくしゃとう

効能効果

めまい、頭重

配合生薬

沢瀉(タクシャ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)

出典

《金匱要略》に「心下有支飲(みぞおちに水や痰の停滞があり),其人苦冒眩(そのために頭に物をかぶったような感じがしてめまいするものに),本方主之(これを用いる)」とある。

方意と構成

五苓散や当帰芍薬散の原方である。
沢瀉湯は沢瀉と朮の二味で構成されており、痰飲(水や痰の停滞)による症状がつよいときに用いられる<利水滲出>。横になっていても、目をつぶっていても、ぐるぐる回る回転性のめまいに用いられる。

(管理No.02-137)

 

大黄附子湯 だいおうぶしとう

効能効果

腰痛、神経痛、便秘

配合生薬

大黄(ダイオウ)、炮附子(ホウブシ)、細辛(サイシン)

出典

《金匱要略》に「脇下偏痛し(脇下が痛み),発熱し,その脈緊弦(脈が緊弦であるものは),これ寒なり(冷えによるものである)。温薬をもってこれを下せ,大黄附子湯によろし(温める薬物によって便を下すのに大黄附子湯がよい)」とある。

方意と構成

温めながら邪実を下す“温下”の方意である。

体の内側と外側に冷えがあるもので、附子で内側、細辛で外側から体を温め<温経散寒>、大黄が消化器内の停滞を排出し、腹痛を鎮めることができる<瀉下通便>。

(管理No.02-153)

 

大承気湯 だいじょうきとう

効能効果

常習便秘、急性便秘、高血圧、神経症、食当り

配合生薬

厚朴(コウボク)、枳実(キジツ)、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)

出典

《傷寒論》に「陽明病(病邪が体内へと入り闘いが盛んで炎症が強い状態),譫言有潮熱(うわごと・熱があり),反不能食者(食事ができないものは),胃中必有燥五六枚也(胃の中に必ず5~6個の熱のために乾燥して硬くなった便がある),若能食者,但鞕耳(食事ができるものはただ便が硬いだけである),宜大承気湯下之(大承気湯で治すべし)」とある。

方意と構成

陽明腑実証(熱の病邪が腸胃にこもり乾燥して硬い便がある状態)に使用される。痞(胸腹部の痞え感・重圧感)・満(膨満感・抵抗)・燥(腸内の硬い糞塊・便秘・舌苔の乾燥)・実(腸内の糞便の停滞による腹部圧痛感)を解消する。

熱を取り去り便を下す“泄熱瀉下”の大黄が主薬で、芒硝が補助し、硬くなった便を軟化して排泄させることで熱結を除去する。厚朴・枳実は腸胃の気を巡らせて痞えや膨満感を除き、大黄・芒硝の瀉下作用をつよめる<破気導滞>。

(管理No.02-154)

 

大青竜湯 だいせいりゅうとう

効能効果

感冒、気管支炎、身体痛

配合生薬

麻黄(マオウ)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)、杏仁(キョウニン)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、石膏(セッコウ)

出典

《傷寒論》に「太陽の中風(風邪をひいて),脈浮緊,発熱悪寒し,身は疼痛し,汗出ずして煩躁するものは(じっとしていられないものは),大青竜湯これを主る」とある。

方意と構成

本方は「麻黄湯」の加味方であり、麻黄・炙甘草を倍量にし、生姜・大棗・石膏を加えている。

「麻黄湯」の麻黄を倍量にすることで、汗をかかせて病邪を発散する“発汗解表”をつよめて桂枝・杏仁がこれを補佐する。石膏は熱を取り去り、体内に熱が鬱滞して煩躁状態にあるものを解消する<清熱瀉火>。温めて発散する“辛温”と冷まして発散する“辛寒”の配合により寒熱が相殺され、辛味による発散がつよくなる。炙甘草・生姜・大棗は脾胃を調和して営衛(血中で全身を滋養する営気と体表で体温調整や防御をする衛気)を充足させるとともに、石膏による胃の気の損傷を防止する<調和営衛>。

(管理No.02-265)

 

大定風珠 だいていふうしゅ

効能効果

皮膚の乾燥、動悸、痙攣

配合生薬

芍薬(シャクヤク)、阿膠(アキョウ)、亀板(キバン)、地黄(ジオウ)、麻子仁(マシニン)、五味子(ゴミシ)、牡蛎(ボレイ)、麦門冬(バクモンドウ)、甘草(カンゾウ)、鶏子黄(ケイシオウ)、鼈甲(ベッコウ)

出典

《温病条弁》に「熱邪久しく羈まり(熱の病邪が久しく停留し),真陰を吸煉し(腎の陰液を消耗したもの),あるいは誤表により,あるいは妄攻により(誤って発汗させたり下剤により真陰を消耗したもの),神倦し瘈瘲し(精神が衰退して痙攣が起こり),脈気虚弱(脈が弱くなり),舌絳苔少(舌色が紅絳で苔が少なく),時々に脱せんと欲する(生命力が極端に低下するもの)は,大定風珠これを主る」とある。

方意と構成

陰虚内風(体液の損傷により体内の陽気を抑えられず内風が吹くもの)の重症例に用いる。

阿膠・亀板・鼈甲・鶏子黄で真陰を補填し<滋補真陰>、牡蛎・鼈甲・亀板は体液の不足によって生じる過剰な陽気を抑えて内風を鎮める<滋陰熄風・潜陽>。陰(体液)を養う生地黄・麦門冬<養陰>と、酸甘化陰(酸味と甘味により体液を生む組み合わせ)の五味子・白芍・炙甘草により陰液を強力に滋補する。麻子仁はこれを補助する<滋陰潤燥>。

(管理No.02-266)

 

大防風湯 だいぼうふうとう

効能効果

下肢の関節リウマチ、慢性関節炎、痛風

配合生薬

地黄(ジオウ)、防風(ボウフウ)、杜仲(トチュウ)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、白朮(ビャクジュツ)、黄耆(オウギ)、羌活(キョウカツ)、牛膝(ゴシツ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、附子(ブシ)、乾姜(カンキョウ)

出典

《和剤局方》に記載がある。

方意と構成

膝関節や足関節が腫れて痛み、筋肉が痩せて下肢が細くなった衰弱傾向があるものに用いる。

本方は、肝腎と気血を補い、病邪を除いて痛みをとる「独活寄生湯」の独活・細辛・秦芁・桑寄生・桂皮・茯苓を、羌活・附子・乾姜・黄耆・白朮・大棗に代えたものに相当する。処方構成はほぼ同じで気を養う“益気”と冷えを散らす“散寒”に重点がある。

(管理No.02-267)

 

暖肝煎 だんかんせん

効能効果

下腹部痛、陰嚢の収縮

配合生薬

当帰(トウキ)、枸杞子(クコシ)、茴香(ウイキョウ)、桂皮(ケイヒ)、烏薬(イヤク)、沈香(チンコウ)あるいは木香(モッコウ)、茯苓(ブクリョウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《景岳全書》に記載がある。

方意と構成

本方は肝と腎の不足があり、寒邪(冷えによる病邪)によって気機が阻滞したものに用いる。

肝と腎を温める当帰・枸杞子<温補肝腎>、冷えを散らして腎を温める桂皮・小茴香<温腎散寒>、気を巡らせて痛みを止める烏薬・沈香<行気止痛>、胃腸機能を高める生姜・茯苓<健脾和胃>を配合している。

(管理No.02-268)

 

竹茹温胆湯 ちくじょうんたんとう

効能効果

かぜ、インフルエンザ、肺炎などの回復期に熱が長引いたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、せきやたんが多くて安眠が出来ないもの

配合生薬

柴胡(サイコ)、竹茹(チクジョ)、茯苓(ブクリョウ)、麦門冬(バクモンドウ)、生姜(ショウキョウ)、半夏(ハンゲ)、香附子(コウブシ)、桔梗(キキョウ)、陳皮(チンピ)、枳実(キジツ)、黄連(オウレン)、甘草(カンゾウ)、人参(ニンジン)

出典

《万病回春》に「傷寒,日数過多にしてその熱退かず(風邪をひいて日数が過ぎても熱が下がらず),心驚(驚きやすく),恍惚(ぼーっとして),煩躁して(じっとしていられず)痰多く,眠らざるものを治す」とある。

方意と構成

感冒が長引いて熱状がまだ残っており、咳がひどく、気分がさっぱりせず、よく眠れないものに用いる。気管支炎・肺炎・神経症・発作性心悸亢進などにも適用する。

熱と余分な痰湿(水と痰の停滞)を取り去る「黄連温胆湯」<清熱化痰>に胆の気を通じさせる柴胡・香附子と<疏通胆気>、痰をとる桔梗を加え<祛痰>、炎症などによる気津両虚(気と体液の消耗)に対して人参・麦門冬を配合している<益気生津>。処方の構成は小柴胡湯と温胆湯との合方と解せられる。

(管理No.02-138)

 

竹葉石膏湯 ちくようせっこうとう

効能効果

からぜき、気管支炎、気管支ぜんそく、口渇、軽い熱中症

配合生薬

竹葉(チクヨウ)、石膏(セッコウ)、半夏(ハンゲ)、麦門冬(バクモンドウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、粳米(コウベイ)

出典

《傷寒論》に「傷寒解して後(風邪をひいた後),虚羸(体が消耗して痩せてしまい),少気し(息切れし),気逆し吐せん(気が上逆し嘔吐)と欲するは,竹葉石膏湯これを主る」とある。

方意と構成

肺炎などの急性熱性疾患の回復期・気管支喘息・糖尿病・熱中症などで、口渇のあるものに用いられる。

“辛寒”の性味である竹葉・石膏が主薬で、気分にある邪熱(熱の病邪が体内へと入り闘いが盛んで炎症が強い状態)を取り去り、胸中の熱を冷ます<宣透清泄除煩>。人参・麦門冬は消耗した気と体液を回復させ<益気生津>、炙甘草・粳米は脾胃(胃腸)の働きを高め<和中養胃>、半夏は吐き気や咳を止める<降逆止嘔・止咳>。

(管理No.02-139)

 

治頭瘡一方 ちずそういっぽう

効能効果

湿疹、瘡(くさ)、乳幼児の湿疹

配合生薬

連翹(レンギョウ)、蒼朮(ソウジュツ)あるいは白朮(ビャクジュツ)、川芎(センキュウ)、防風(ボウフウ)、忍冬(ニンドウ)、荊芥(ケイガイ)、甘草(カンゾウ)、紅花(コウカ)、大黄(ダイオウ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》には「この方は頭瘡(頭部のできもの)のみならず,すべて上部顔面の発瘡(顔面の発疹)に用ゆ。清上防風湯は清熱を主とし,この方は解毒を主とするなり」とある。

方意と構成

本方は、血分に風・湿・熱毒の病邪が停滞した皮疹に広く使うことができ、慢性に経過する全身の掻痒・発赤・化膿・滲出・痂疲形成などに用いる。

風の病邪を取り去り痒みをとる荊芥・防風<祛風止痒>、余分な水湿の停滞を取り去る蒼朮<散風燥湿>、炎症を去り解毒する連翹・忍冬藤・生甘草・大黄<清熱解毒>、血の滞りをとる川芎・紅花を配合している<活血化瘀>。

(管理No.02-140)

 

治打撲一方 ちだぼくいっぽう

効能効果

打撲による腫れ、および痛み

配合生薬

川芎(センキュウ)、桜皮(オウヒ)あるいは樸樕(ボクソク)、川骨(センコツ)、桂皮(ケイヒ)、甘草(カンゾウ)、丁子(チョウジ)、大黄(ダイオウ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》には「この方は能く打撲,筋骨疼痛を治す。(略)日久しきものは附子を加える(慢性化したものには附子を加える)」とある。

方意と構成

打撲・捻挫・骨折などの急性症状に適用し治癒を促進する効果がある。

血を巡らせる川骨・樸樕・川芎・大黄<活血化瘀>、陽気を通じる桂皮・丁子<通陽>、および諸薬を調和する甘草からなる。経脈を温通し、血行不良を除き止痛する。

(管理No.02-141)

 

知柏地黄丸 ちばくじおうがん

効能効果

顔や四肢のほてり、排尿困難、頻尿、むくみ

配合生薬

地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、知母(チモ)、黄柏(オウバク)

出典

《医方考》に「腎労(腎気の消耗によって起こる疲労),背仰ぎ難く,小便不利する者(尿量が減少するもの),有余瀝(尿がしたたり),嚢湿り(陰嚢湿疹があり),小腹裏急(下腹部がひきつれ),便赤黄なる者(血便があるもの),六味地黄丸加黄柏知母,之を主る」とある。

方意と構成

腎陰(腎の体液)を補う「六味地黄丸」<滋陰補腎>に知母と黄柏を加えたもので<清熱瀉火>、虚熱症状(陰血が不足したために生じた熱)が盛んなものに用いる。

(管理No.02-142)

 

中黄膏 ちゅうおうこう

効能効果

急性化膿性皮膚疾患(はれもの)の初期、打ちみ、ねんざ

配合生薬

ゴマ油、蜜蝋、鬱金、黄柏

出典

《勿誤薬室方函口訣》には「諸熱毒,腫痛を治す(もろもろの熱毒証で腫れて痛むものを治す)。膿の有無を問わず,新旧を論ぜず(膿の有無や新しいもの古いものに関わらず),毒を散らし熱を解く」とある。

方意と構成

全身の熱毒に用いる「黄連解毒湯」を軟膏にしたようなもので、炎症性の皮膚疾患や化膿・打ち身・捻挫などに使用する。熱や膿を取り去る黄連<清熱解毒>、痛みを緩解して出血を止め、鬱血を散らす鬱金<活血化瘀>をゴマ油・蜜蝋で熱抽出したものである。

(管理No.02-156)

 

中建中湯 ちゅうけんちゅうとう

効能効果

慢性胃腸炎、下痢、便秘

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、山椒(サンショウ)、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、膠飴(コウイ)

出典

小建中湯は《傷寒論》と《金匱要略》、大建中湯は《金匱要略》を出典としている。

方意と構成

お腹を温めて痙攣性の痛みをとる「小建中湯」<温中補虚・緩急止痛>と、小建中湯の適応症よりさらに体が衰弱したものや、体内に冷えがあるものに用いる「大建中湯」<温中散寒>を合方したもので、両証の中間型に用いる。

(管理No.02-143)

 

調胃承気湯 ちょういじょうきとう

効能効果

便秘

配合生薬

大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》太陽病中篇に「汗を発して後,悪寒するは虚するがゆえなり(発汗した後悪寒がするのは虚したためである)。悪寒せず,ただ熱するは実するなり(悪寒せずただ熱があるのは実したためである)。当に胃気を和すべし(熱を取り去り胃気を整えるべきである)。調胃承気湯を与う」とある。

方意と構成

一種の緩下剤で、胃の機能を調整する効果がある。陽明腑実証(熱の病邪が腸胃にこもり乾燥して硬い便がある状態)に使用される「大承気湯」の枳実・厚朴の代わりに炙甘草を用いた処方である。

熱を取り去り便を下す“泄熱瀉下”の大黄・芒硝の強い作用を、脾胃(胃腸)の働きを高める炙甘草で緩和している<和中調胃>。大・小承気湯を用いるほどではないが、腹部が充実して便秘の傾向がある場合に使用する。

(管理No.02-144)

 

釣藤散 ちょうとうさん

効能効果

慢性頭痛、神経症、高血圧の傾向のあるもの

配合生薬

釣藤鈎(チョウトウコウ)、橘皮(キッピ)あるいは陳皮(チンピ)、菊花(キクカ)、防風(ボウフウ)、半夏(ハンゲ)、麦門冬(バクモンドウ)、茯苓(ブクリョウ)、人参(ニンジン)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、石膏(セッコウ)

出典

南宋の《類証普済本事方》に出る。《梧竹楼方函口訣》には「肝厥の頭痛(肝気の亢進による頭痛),頭暈(めまい)を治す。その症,左のこめかみから眼尻にかけて痛むものによくきく」とある。

方意と構成

気の上衝(のぼせなど気が下から上に突き上げるもの)があり、頭痛・めまい・肩こり・肩背拘急(肩や背中のひきつり)・眼球結膜の充血などに用いる。

肝の陽気を抑える釣藤鈎・杭菊花・防風<平肝熄風>、脾胃(胃腸)を丈夫にして痰をとる陳皮・半夏・人参・茯苓・甘草<健脾化痰>、のぼせ・胸中の熱感など上焦(体の上部)の熱をとり乾燥を癒す石膏・麦門冬<清熱滋陰>が配合されている。

(管理No.02-145)

 

腸癰湯 ちょうようとう

効能効果

盲腸部に急性または慢性の痛みがあるもの、あるいは月経痛のあるもの。

配合生薬

牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、冬瓜子(トウガシ)、薏苡仁(ヨクイニン)

出典

《備急千金要方》に記載がある。

方意と構成

鬱結した熱毒と気血の停滞を取り除いて癰腫(化膿性の炎症)を瀉す「大黄牡丹皮湯」から、大黄・芒硝を抜いて、冬瓜仁・薏苡仁を配合したものであり別名「冬瓜仁湯」とも呼ばれる。

牡丹皮・桃仁は炎症を冷まし滞りを散じ<清熱涼血散瘀>、冬瓜仁・薏苡仁は抗炎症と排膿(膿を出す)に働いて化膿性の腫れものを消し散らす<清熱排膿消癰>。

(管理No.02-269)

 

猪苓湯 ちょれいとう

効能効果

排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ

配合生薬

猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、滑石(カッセキ)、阿膠(アキョウ)

出典

《傷寒論》に「陽明病(病邪が体内へと入り闘いが盛んで炎症が強い状態)で脈が浮緊,咽が乾き口が苦く,腹が張って喘し(呼吸が苦しく),発熱して汗が出て,悪寒せずに反って悪熱し,身が重く感じられる。(中略)もし脈が浮で発熱し,水を飲みたがり,尿利が減少するのは,猪苓湯が主治する」とある。

方意と構成

本方中の薬物はすべて利尿の効果がある他、尿路の消炎作用があると考えられ、泌尿器疾患に応用される代表的な処方である。

余分な水の停滞を除去する「五苓散」<利水滲出>の桂枝と朮の代わりに、水湿と熱を除き排尿トラブルを解消する滑石<利水通淋>と、血尿を抑え体液を養う阿膠<養陰止血>を入れたものである。

(管理No.02-146)

 

猪苓湯合四物湯 ちょれいとうごうしもつとう

効能効果

排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ

配合生薬

猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、滑石(カッセキ)、阿膠(アキョウ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、川芎(センキュウ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》に「猪苓湯合四物湯,血淋(尿道病で尿に血が混じり、尿が渋って痛みが甚だしい状態)を治す」とある。

方意と構成

湿熱(水分代謝が悪く熱がこもった状態)を取り除き排尿トラブルを解消する「猪苓湯」<利水清熱養陰>の適応症が遷延して血虚(血の不足)が生じた場合や、血虚体質の水熱互結(水湿と炎症が結びついたもの)・血淋(尿中に血液が混じる状態)に「四物湯」<養血活血>を配合したものを用いる。

(管理No.02-155)

 

鎮肝熄風湯 ちんかんそくふうとう

効能効果

めまい、耳鳴り、しびれ

配合生薬

牛膝(ゴジツ)、代赭石(タイシャセキ)、竜骨(リュウコツ)、牡蛎(ボレイ)、亀板(キバン)、芍薬(シャクヤク)、玄参(ゲンジン)、天門冬(テンモンドウ)、川楝子(センレンシ)、麦芽(バクガ)、茵蔯蒿(インチンコウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《医学衷中参西録》に記載がある。

方意と構成

気の上衝(のぼせなど気が下から上に突き上げるもの)があり、体内の陽気を抑えられず内風が吹いて、ふらつき・めまい・ふるえ、しびれなどが生じるものに用いる。
主薬の牛膝は、腎の陰(体液)を滋補すると同時に熱を下焦(体の下部)に降ろし、炎上する火を下降させる<引血下行>。代赭石・竜骨・牡蛎は鎮静に働き<降逆潜陽>、川楝子・茵蔯蒿は、肝気の鬱滞を解消してこれを助ける<疏肝清熱>。亀板・玄参・天門冬・白芍は、陰血(体液と血)を補うことで肝の高ぶりを鎮める<滋陰養液>。甘草は諸薬を調和し、麦芽とともに胃腸を守る働きがある<和胃調中>。

(管理No.02-270)

 

通竅活血湯 つうきょうかっけつとう

効能効果

頭痛、めまい、難聴

配合生薬

芍薬(シャクヤク)川芎(センキュウ)、桃仁(トウニン)、紅花(コウカ)、老葱(ロウソウ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、麝香(ジャコウ)、黄酒(オウシュ)

出典

《医林改錯》に記載がある。

方意と構成

顔面部の瘀血(血行不良)に用いる。
強い芳香により陽気を通じさせる麝香・老葱<通陽開竅>と、血行を良くする赤芍・川芎・桃仁・紅花の配合<活血化瘀>により滞りを解消し、黄酒は活血と諸薬の効き目を頭部に上げる働き(上行)を補助する。生姜・大棗は脾胃の機能を高めることで、正気(人間がもともと備えている自然治癒力)の損傷を防ぐ<調和脾胃>。

(管理No.02-271)

 

通導散 つうどうさん

効能効果

月経不順、月経痛、更年期障害、腹痛、便秘、打ちみ(打撲)、高血圧の随伴症状(頭痛・めまい・肩こり)

配合生薬

当帰(トウキ)、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、枳実(キジツ)、厚朴(コウボク)、陳皮(チンピ)、木通(モクツウ)、紅花(コウカ)、甘草(カンゾウ)、蘇木(ソボク)

出典

《万病回春》の巻八・折傷門に出ている。

「跌撲傷損きわめて重く(打撲による損傷が極めて重く),大小便通ぜず(大便・小便が出ず),すなわち瘀血散ぜず(血の停滞が解消せず)、肚腹膨張し(膨満感があり),心腹を上り攻め(みぞおちが突き上げられ),悶乱して死に至らんとするものを治す(苦しみ悶え死に至るものを治す)。先づこの薬を服し,死血,瘀血を打ち下し,然して後に方に補損薬を服すべし(まずこの薬を服用し、瘀血を取り除いてから補剤を飲むべし)」とある。

方意と構成

打撲に限らず内科的疾患、とくに婦人科疾患に多く用いられるようになっている。

陽明腑実証(熱の病邪が腸胃にこもりつよい便秘がある状態)に使用される「大承気湯」<峻下熱結>に、血を巡らせる当帰・紅花・蘇木<活血化瘀>、気を巡らせて経絡を通じる木通・陳皮<理気通絡>、諸薬の調和をする甘草を加えている。熱証があり便秘がつよい気滞血瘀(気が滞り血行不良がある状態)に広く用いられる。

(管理No.02-147)

 

痛瀉要方 つうしゃようほう

効能効果

腹痛、下痢

配合生薬

白朮(ビャクジュツ)、芍薬(シャクヤク)、陳皮(チンピ)、防風(ボウフウ)

出典

《景岳全書》に記載がある。

方意と構成

張景岳が「痛瀉(痛みと下痢)を治する要方」と称したためにこの名がついた。

白朮・陳皮は脾胃の運化(胃腸の働き)をつよめて、情緒変動などにより肝気が旺盛となり脾胃に悪影響を与えるものを防止する<健脾燥湿・理気醒脾>。白芍は肝の陰血(体液と血)を養い肝気を柔和にして痛みを止め<柔肝止痛>、防風は辛温の性味により脾の陽気を温め、昇清(気を補い下の墜ちたものを上に挙げる)を高めることで下痢を止める<昇陽止瀉>。

(管理No.02-272)

 

定悸飲 ていきいん

効能効果

動悸、不安神経症

配合生薬

李根皮(リコンピ)、甘草(カンゾウ)、茯苓(ブクリョウ)、牡蠣(ボレイ)、桂皮(ケイヒ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、呉茱萸(ゴシュユ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》に「奔豚気を治す(臍下の動悸が発作的に突き上げ、激しい心悸亢進が起こるものを治す)」とある。

方意と構成

奔豚とは、気が下腹部からみぞおちに突き上げ、動悸して呼吸が止まりそうになるほど激しい状態を指しており、動悸・頭痛・のぼせ・熱感・焦燥などの症状が現れる。本方は神経性心悸亢進症、ヒステリ―球によく使用される。

水毒(余分な水の停滞)と気逆(気の上逆)に用いる「苓桂朮甘湯」<温陽化飲降気>に、上衝(のぼせなど気が下から上に突き上げるもの)した気を降ろす李根皮<降逆清熱>、脾胃(胃腸)を温め水毒を除く呉茱萸<散寒燥湿>、精神安定に働く牡蠣<重鎮安神>を加えたものである。

(管理No.02-160)

 

定喘湯 ていぜんとう

効能効果

呼吸困難、気管支喘息、気管支炎

配合生薬

銀杏(ギンキョウ)、麻黄(マオウ)、蘇子(ソシ)、甘草(カンゾウ)、款冬花(カントウカ)、杏仁(キョウニン)、桑白皮(ソウハクヒ)、黄芩(オウゴン)、半夏(ハンゲ)

出典

《摂生衆女妙方》に記載がある。

方意と構成

本方は粘稠な黄色痰を呈する熱痰(水分代謝が滞って濁り熱が生じている状態)の哮喘(喘息)に適する。肺熱の咳で多痰を呈さないときには、麻杏甘石湯などを用いる。

麻黄<宣肺解表>・銀杏<斂肺止咳>の組み合わせにより、呼吸機能を安定させて咳を止める働きをつよめ、肺の気の消耗を防ぐ。蘇子・杏仁・半夏・款冬花は咳と痰を取り去り、これを補佐する<降気平喘>。桑白皮・黄芩は肺の熱を冷まし<清泄肺熱>、甘草は諸薬を調和する。

(管理No.02-273)

 

天台烏薬散 てんだいうやくさん

効能効果

下腹部痛、陰嚢の収縮

配合生薬

烏薬(ウヤク)、木香(モッコウ)、茴香(ウイキョウ)、青皮(セイヒ)、高良姜(コウリョウキョウ)、檳榔子(ビンロウジ)、川楝子(センレンシ)、巴豆(ハズ)

出典

《医学発明》に記載がある。

方意と構成

本方は、寒邪(冷えによる病邪)によって肝の経脈が阻滞され、少腹(両側の下腹部)が痛むもの(疝痛)に用いる。

烏薬・小茴香が、肝の疏泄(気血の巡りを伸びやかにする働き)を回復させて冷えを散らし痛みをとり、高良姜・青皮・木香がこれを補佐する<疏肝理気・散寒止痛>。川楝子と巴豆を黒色になるまで炒めた後に巴豆を除くと、川楝子の寒性の性味がとれて、気を巡らす働きがつよくなる<行気破積>。川楝子と、気を降ろし滞りを通じる檳榔子<下気導滞>が、全体の効能をつよめている。

(管理No.02-274)

 

天王補心丹 てんのうほしんたん

効能効果

不眠、不安感、肩こり、息切れ、動悸、口渇、便秘

配合生薬

地黄(ジオウ)、人参(ニンジン)、丹参(タンジン)、玄参(ゲンジン)、茯苓(ブクリョウ)、五味子(ゴミシ)、遠志(オンジ)、桔梗(キキョウ)、当帰(トウキ)、天門冬(テンモンドウ)、麦門冬(バクモンドウ)、柏子仁(ハクシニン)、酸棗仁(サンソウニン)

出典

《摂生秘剖》に記載がある。

方意と構成

生地黄により、腎の陰(体液)を養い心の熱を鎮めるとともに、心の陰血(体液と血)を補う<滋養腎陰>。玄参・天門冬・麦門冬は心の陰を潤して虚火(陰血が不足したために生じた熱)を鎮め<清虚熱>、丹参・当帰<補血安神>と人参・茯苓<益気寧心>はそれぞれ血と気を養うことで精神安定をはかる。これに、心の気を収斂する酸棗仁・五味子<心気収斂>、精神を安定させる柏子仁<養心安神>、心と腎のバランスが乱れを改善して交通させる遠志が配合されている<交通心腎>。桔梗は諸薬の効果を上方に導く<載薬上行>。

(管理No.02-275)

 

天麻釣藤飲 てんまちょうとういん

効能効果

頭痛、めまい、耳鳴り、不眠

配合生薬

天麻(テンマ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)、石決明(セッケツメイ)、山梔子(サンシシ)、黄芩(オウゴン)、牛膝(ゴシツ)、杜仲(トチュウ)、益母草(ヤクモソウ)、桑寄生(ソウキセイ)、夜交藤(ヤコウトウ)、茯神(ブクシン)

出典

《雑病証治新義》に記載がある。

方意と構成

肝腎の陰血(体液と血)が不足して、肝の陽気を抑えられず内風が吹き、ふらつき・めまい・頭痛などが生じるものに用いる。

主薬は天麻・釣藤鈎・石決明で、肝の陽気を抑え内風を鎮める<平肝熄風>。これに肝の熱を取り去る山梔子・黄芩<清降肝熱>、精神安定に働く夜交藤・紅茯神<安神寧心>、熱を下焦(体の下部)に下降させる牛膝<引血下行>、血と水を巡らせて熱を排出する益母草<活血利水>。肝腎の陰血を補い肝陽の高ぶりを防止する杜仲・桑寄生<滋補肝腎>が配合されている。

(管理No.02-276)

 

桃核承気湯 とうかくじょうきとう

効能効果

月経不順、月経困難、常習便秘、高血圧症、更年期の神経症

配合生薬

桃仁(トウニン)、桂皮(ケイヒ)、大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》に「太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの)解せず,熱膀胱に結び(太陽病が治らず体の下部に熱が移り),その人狂のごとく(狂燥状態になり),血自づから下る,下るものは癒ゆ(自然と下血するならば自ずと治る)。その外解せざるもの尚未だ攻むべからず(体表の病がまだ治っていないものはまだ治療してはいけない)。まさに先ずその外を解すべし(まず体表の病を治すべし)。外解し終わって,ただ少腹急結するものは,すなわちこれを攻むべし。桃核承気湯に宜し(体表の病を治してなお、下腹部に硬結や圧痛がするものはこの方で治すべし)」とある。

方意と構成

下腹部に硬結を触知し、便秘や上衝(気の上昇によるのぼせ・頭痛・緊張・煩熱)のあるものに用いる。

主薬が桃仁と大黄で、瘀熱(血の停滞と熱)を除く<破血祛瘀・攻下泄熱>。桂枝は血脈を通じて桃仁を助け<温経通脈>、芒硝は大黄の通便による瀉熱(熱の過剰な状態の改善)を補助する<瀉熱軟堅>。炙甘草は脾胃(胃腸)を守るとともに他薬の激しい薬性を緩和する<益気和中>。

(管理No.02-148)

 

当帰飲子 とうきいんし

効能効果

慢性湿疹、かゆみ

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、防風(ボウフウ)、地黄(ジオウ)、荊芥(ケイガイ)、黄耆(オウギ)、甘草(カンゾウ)、蒺藜子(シツリシ)、何首烏(カシュウ)

出典

《厳氏済生方》巻6瘡疥論治

「心血凝滞して,風熱を内蘊し(風熱が体内にこもり),発して皮膚に現れ(その熱が皮膚に発して現れ),遍身瘡疥のもの(全身が痒いもの)を治す」とある。

方意と構成

血虚(血の不足)により皮膚が乾燥し、分泌物が少なく、痒みを主訴とするものに用いる。湿疹・蕁麻疹・老人の皮膚掻痒症・皮膚炎に使用される。

血を補い停滞を防ぐ“養血活血”の「四物湯」と何首烏に、湿疹や痒みを抑える荊芥・防風・蒺藜子<祛風止痒>、気を養い血を生む黄耆・炙甘草<補気生血>を加えている。

(管理No.02-149)

 

当帰四逆加呉茱萸生姜湯 とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう

効能効果

しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛

配合生薬

当帰(トウキ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、木通(モクツウ)、細辛(サイシン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、呉茱萸(ゴシュユ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《傷寒論》に「手足厥寒し(手足が冷たくて),脈細にして絶えんと欲する(脈が絶えそうに細いもの)は,当帰四逆湯がこれを主治する。このときにその人内に久寒(慢性化した冷え)あるものは,当帰四逆加呉茱萸生姜湯に宜し」とある。

方意と構成

寒冷刺激により体表に血行障害を起こし、神経痛・坐骨神経痛・腰痛・背痛・頭痛・四肢の痛み・凍瘡などを起こすものに用いる。

血を養い温めて経絡を通じる「当帰四逆湯」<温経散寒・養血通脈>に、温性をつよくし、水をさばいて嘔吐を鎮める呉茱萸・生姜を加えたものである<散寒滌飲・温中降逆>。

(管理No.02-150)

 

当帰四逆湯 とうきしぎゃくとう

効能効果

しもやけ、下腹部痛、腰痛、下痢、月経痛、冷え性

配合生薬

当帰(トウキ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、木通(モクツウ)、細辛(サイシン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)

出典

《傷寒論》厥陰病篇に「手足厥寒し(手足が冷たくて),脈細にして絶えんと欲する(脈が絶えそうに細いもの)は,当帰四逆湯がこれを主治する」とある。

方意と構成

経絡を温めて冷えを散らすと同時に、血を養い滞りなく循行させる。

風寒表虚証(体力が低下している人で風寒の病邪が体表に侵入するもの)に用いられる「桂枝湯」<解肌発表>から生姜を抜いて、血を養い巡らせる当帰<補血活血>、温めて経絡を通じる細辛・木通<温経通脈>を加えたものである。

(管理No.02-151)

 

当帰芍薬散 とうきしゃくやくさん

効能効果

冷え性、頭痛、めまい、月経不順、婦人更年期障害

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、川芎(センキュウ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)

出典

《金匱要略》に「婦人懐娠(妊娠している婦人が),腹中㽲痛するは(お腹がしくしく痛むのは),当帰芍薬散これを主る」,「婦人腹中諸疾痛(婦人が訴える腹中の痛みには),当帰芍薬散これを主る」とある。

方意と構成

血の不足により瘀血(血行不良)が生じているもので、水毒(余分な水の停滞)があるものに用いる。

肝血を補い巡らせる当帰・芍薬・川芎が肝の調整に働く<補血調肝>。脾胃の運化機能(胃腸の働き)を高める白朮・茯苓、水分代謝をあげる沢瀉により水湿の停滞を除く<運脾除湿>。

(管理No.02-152)

 

当帰芍薬散加附子 とうきしゃくやくさんかぶし

効能効果

冷え性、頭痛、めまい、月経不順、婦人更年期障害

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、白朮(ビャクジュツ)、沢瀉(タクシャ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、炮附子(ホウブシ)

出典

《類聚方広義》に「妊娠,産後にして,下利(下痢)腹痛し,小便不利(小便が出ず),腰脚麻痺し力無く(下半身に力が入らず),あるいは眼目赤痛のもの(目が赤く痛みがあるもの),もしくは下利止まず,悪寒するものは附子を加う」とある。

方意と構成

血を補い巡らせて水毒も除く「当帰芍薬散」<補血調肝・運脾除湿>に炮附子を加えたものである<温陽散寒>。当帰芍薬散の証で、寒証が特につよく、冷え・関節・下腹部の痛みがあるときに用いる。

(管理No.02-157)

 

当帰芍薬散黄耆釣藤 とうきしゃくやくさんかおうぎちょうとう

効能効果

高血圧の随伴症状(のぼせ・肩こり・耳鳴り・頭重)

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、川芎(センキュウ)、白朮(ビャクジュツ)あるいは蒼朮(ソウジュツ)、黄耆(オウギ)、釣藤鈎(チョウトウコウ)

出典

《金匱要略》に当帰芍薬散の記載がある。

方意と構成

老化や慢性病などで陰血(体液と血)が消耗し、肝の陽気の上昇により頭のふらつき・めまい感・筋肉のひきつりなどの症候が出るものに用いる。

血を補い巡らせて水毒も除く「当帰芍薬散」<補血調肝・運脾除湿>に、“補気生血(気を補い血を生む)”の黄耆と、“平肝熄風(肝の陽気を抑え内風を取り去る)”の釣藤鈎を加えたものである。七物降下湯より冷えがつよく、胃腸の弱いものに使用される。

(管理No.02-158)

 

当帰建中湯 とうきけんちゅうとう

効能効果

月経痛、月経困難症、月経不順、腹痛、下腹部痛、痔、脱肛の痛み

配合生薬

当帰(トウキ)、桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《金匱要略》巻下・婦人産後病脉證并治第21

「婦人産後に虚羸不足し(産後体が細く痩せてしまい),腹中刺痛やまず(刺すような腹痛が止まらず),吸吸と少気し(浅い呼吸しかできない),あるいは小腹中の急摩痛(下腹部がひきつれる痛みがあって),腰背に引くを苦しみ,食飲する能わざるを治す(腰や背中に響いて苦しく飲食できないものを治す)」とある。

方意と構成

中焦(胃腸)を温めて痛みをとる「桂枝加芍薬湯」<和脾止痛>に、血を養い血行を良くする“養血活血”の当帰を足したものである。虚弱がひどい場合は膠飴も加える。産後にこだわることなく、男女ともに血虚が明らかであれば本方を用いて良い。

(管理No.02-159)

 

当帰生姜羊肉湯 とうきしょうきょうようにくとう

効能効果

腹痛、冷え

配合生薬

当帰(トウキ)、生姜(ショウキョウ)、羊肉(ヨウニク)

出典

《金匱要略》に記載がある。

方意と構成

「産後腹痛㽲痛」とあるように、産後などの血虚(血の不足)に乗じて寒邪(冷えの病邪)が侵入し、冷え・疼痛をきたした状態に対し、当帰<補血活血>、生姜<散寒>、羊肉<補血温潤>を用いている。

(管理No.02-277)

 

当帰湯 とうきとう

効能効果

背中に寒冷を覚え、腹部膨満感や腹痛のあるもの

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、人参(ニンジン)、黄耆(オウギ)、乾姜(カンキョウ)、桂皮(ケイヒ)、山椒(サンショウ)、半夏(ハンゲ)、厚朴(コウボク)、甘草(カンゾウ)

出典

《千金方》に「心腹絞痛し(胸腹部に締め付けられるような痛みがあり),諸虚冷気満痛す(もろもろの虚により冷気が満ちて痛むもの)」とある。

方意と構成

中焦(脾胃)を補い冷えを散らす「大建中湯」を用いる状態で、体力がより衰えているものに適用する。
大建中湯から膠飴を抜いて桂皮を加え<温中補虚・散寒除湿>、気を巡らせて逆流したものを下に降ろす半夏・厚朴<理気降逆>、気と血を養う当帰・白芍・黄耆・炙甘草<気血相補>を配合している。

(管理No.02-278)

 

当帰補血湯 とうきほけつとう

効能効果

月経後や産後に生じる発熱・頭痛、大出血後の熱感・顔面紅潮・口渇、皮膚潰瘍

配合生薬

黄耆(オウギ)、当帰(トウキ)

出典

《内外傷弁惑論》に記載がある。

方意と構成

「有形の血は自生することあたわず(有形である血をすぐに生むのは困難であり),無形の気より生ず(無形の気を充足させて血を次第に産生するのが良い)」という理論に基づき、大量の黄耆で脾肺の気を補い<補益脾肺>、当帰を少量加える<養血和営>。

(管理No.02-279)

 

当帰六黄湯 とうきろくおうとう

効能効果

発熱、寝汗、便秘

配合生薬

当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、黄芩(オウゴン)、黄柏(オウバク)、黄連(オウレン)、黄耆(オウギ)

出典

《蘭室秘蔵》に記載がある。

方意と構成

当帰・生地黄・熟地黄により陰血(体液と血)を補い、陰虚による熱(陰血が不足したために生じた熱)を抑えるとともに<滋陰養血・清熱>、黄連・黄芩・黄柏で内熱を除き<清熱瀉火>、津液(体液)が消耗するのを防ぐ。また、黄耆を大量に配合して衛気(体表で体温調整や防御をするもの)を固めて寝汗・発熱を解消する<固表止汗>。

(管理No.02-280)

 

桃紅四物湯 とうこうしもつとう

効能効果

産後、あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え性、しもやけ、しみ、血の道症

配合生薬

地黄(ジオウ)、川芎(センキュウ)、芍薬(シャクヤク)、当帰(トウキ)、桃仁(トウニン)、紅花(コウカ)

出典

《医宗金鑑》に記載がある。

方意と構成

血を補い停滞を防ぐ“養血活血”の「四物湯」に、血を巡らせて滞りを解消する桃仁・紅花を加えている<逐瘀行血>。

(管理No.02-281)

 

導赤散 どうせきさん

効能効果

不眠、口内炎、排尿困難、排尿痛

配合生薬

地黄(ジオウ)、木通(モクツウ)、甘草(カンゾウ)、竹葉(チクヨウ)

出典

《小児薬証直訣》に記載がある。

方意と構成

生地黄・竹葉により、心の熱を冷まして小腸に降ろし、熱を小便により排出する<清心涼血除煩>。木通・甘草梢は、排尿困難・排尿痛を除く<清熱利水通淋>。なお、生地黄は乾燥を癒すことで利小便による津液(体液)の消耗を防止する。

(管理No.02-282)

 

都気丸 ときがん

効能効果

呼吸困難、しゃっくり

配合生薬

地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、五味子(ゴミシ)

出典

《医宗己任編》に記載がある。

方意と構成

腎の陰(体液)の不足により、清気(大気中から取り込んだ空気)を腎に納めることができず、陽気が浮いて呼吸困難・顔面紅潮・しゃっくりを引き起こすものに用いる。腎陰(腎の体液)を補う「六味地黄丸」<滋腎補陰>に、酸味により収斂する五味子を加え、気を納めて呼吸状態を安定させる<滋腎斂肺止咳>。

(管理No.02-283)

 

独活葛根湯 どっかつかっこんとう

効能効果

四十肩、五十肩、寝ちがえ、肩こり

配合生薬

葛根(カッコン)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、麻黄(マオウ)、独活(ドッカツ)、生姜(ショウキョウ)、地黄(ジオウ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《外大秘要方》に「柔中風(気血が不足しているために体に風の病邪が入りこみ、手足がうまく動かせず筋肉がひきつれて仰向けになることができないもの),身体疼痛,四肢緩弱,不随せんと欲するを癒す。産後の柔中風,またこの方を用いる」とある。

方意と構成

発汗して風寒邪(風と冷えが合わさった病邪)を散らす「葛根湯」<解肌発汗>に、風湿邪(風と湿の病邪が合わさった病邪)を取り去り、温めて痛みをとる独活<祛風止痛>、血を養いこわばりや痛みをとる地黄を加えたものである<滋陰養血>。

(管理No.02-219)