体質で考える「腰痛」

体質で考える「腰痛」

体質で考える「腰痛」

更新日:2023.11.20

 

 

 

腰痛とは?

腰痛とは病気の名前ではなく、腰部を中心とする痛みや張りといった不快感症状の総称です。一般的には座骨神経痛を代表とする下半身の痛みをともなう場合も含んでいます。腰痛は誰もが経験しうる痛みであり、直立二足歩行をする人間にとって腰は重い上半身を一手に支える、まさに“要”の部分であり、それだけにトラブルが起きやすい場所といえるでしょう。

 

腰痛の原因と治療

腰痛が起こる原因として、姿勢の悪さ、重たいものを持つ作業、激しい運動や労働、加齢による関節の変形、精神的ストレス、内臓の病気、外傷など様々なものが上げられますが、約8割が“非特異的腰痛”といわれ原因不明となっています。原因が分かる“特異的腰痛”の原因疾患の多くは、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、椎体骨折圧迫などです。そのほか、脊椎分離症、骨粗しょう症、骨軟化症、骨髄腫、座骨神経痛、急性腎盂炎、卵管炎、子宮筋腫、子宮がん、腹部大動脈瘤、心身症、うつ病などにより腰痛が引き起こされることがあります。

急性腰痛(いわゆるギックリ腰)
4週間程度で快方に向かいますが、その後約6割が再発するか、一年後も症状を抱えているとされています。

腰椎椎間板ヘルニア
腰椎にある骨と骨との間でクッションの働きをしている椎間板の中身(髄核)が外に飛び出ることで神経を圧迫する病気です。20~40歳代の若年者に起こりやすく、スポーツや腰に負荷がかかる労働などが引き金となることが多いです。腰痛、足先まで響く痛み、感覚障害、脱力などの症状が現れます。

腰部脊柱管狭窄症
多くは加齢による骨の変性や変形が原因で、神経が通る脊柱管が狭くなり神経を圧迫していきます。症状は徐々に進行し、お尻から下半身にかけたしびれや痛み、脱力、神経性間欠跛行(※しばらく歩くと痛みやしびれで歩行困難となるが、前かがみで休むと治まる)が見られます。

重症でない限り、温熱療法や運動療法、薬物療法といった保存的治療が行われます。腰痛の場合は、安静にしたり、お風呂や温熱の湿布などで身体を温めたりすると、症状が和らぐのが特徴です。薬については、非ステロイド系の消炎鎮痛剤のほか、湿布薬、血流改善薬、筋弛緩薬、ビタミン薬などが処方されます。内臓性や腫瘍由来の腰痛は、何をしていなくても痛む、夜間に痛む、痛みがどんどんひどくなっている、などの症状が見られるため、いつまでも痛みが和らがない場合は注意が必要です。

 

漢方で考える腰痛

中医学において、腰は“腎(じん)の府”と呼ばれ、腎は腰部に位置しています。腎とは中医学でいう五臓のうちの一つで、先天の精(せい)と呼ばれる生命エネルギー“腎精(じんせい)”を蓄える重要な臓腑です。そのため、腰を日頃からケアすることがとても大切になります。また、体の抵抗力や免疫力が弱っていると、外界からの邪気(人体に悪影響を与える自然環境の変化)が体内に侵入して、痛みを生じさせる原因となります。

 

中医学体質別治療法

① 腎虚(じんきょ)体質
加齢や体質の虚弱、慢性疲労などにより生じ、腰が重だるく力が入らない。
随伴症状:足腰がだるい、物忘れ、耳鳴り、頻尿、白髪、難聴、精力減退、むくみなど。
加齢などにより腎の働きが弱ってくると、腰に痛みや重だるさを感じやすくなります。また、老化だけでなく、体質虚弱の人が無理をしたり、長時間の立ち仕事をしたりすると腎を傷め、腰痛を生じさせます。

 

漢方

牛車地黄丸、真武湯など

ツボ

腎兪、志室など ※冷えをともなう場合は、命門にお灸を加える

食材

黒豆、黒きくらげ、黒ごま、山芋、卵、くるみ、アーモンドなど

 

 

② 寒凝(かんぎょう)体質
持続した鈍痛で、体を冷やしたり寒い日に痛みが誘発される。
随伴症状:筋肉のひきつり、寒がり、手足の冷え、むくみなど。
冷えることで痛み、温めると痛みが一時的に減る傾向があります。気候変化のほかにも薄着のしすぎ、冷たいものや生もののとりすぎで悪化しやすくなります。

 

漢方

当帰四逆加呉茱萸生姜湯、桂枝加朮附湯など

ツボ

陰陵泉、腎兪など ※お灸を多用

食材

ネギ、生姜、シナモン、紫蘇、玉ねぎ、ニンニク、山椒、ニラ、酢など

 

 

③ 血瘀(けつお)体質
捻挫や転倒、重いものを持ち上げた時に痛みが起きやすい。
随伴症状:肩こり、頭痛、唇の色が悪い、シミやくすみが目立つ、冷えのぼせなど。
痛みの場所は一定であり、刺すように痛み、夜間になると痛みがひどくなる特徴があります。朝起きた時や座った状態が長く続くと悪化しやすくなります。

 

漢方

疎経活血湯、桂枝茯苓丸など

ツボ

委中、膈兪など

食材

紅花、シナモン、黒糖、生姜、ネギ、玉ねぎなど

 

 

④ 水湿(すいしつ)体質
水分代謝が悪い状態で、腰が重だるく痛む。
随伴症状:身体が重だるい、頭重、むくみ、めまい、食欲不振、胸苦しい、軟便など。
梅雨の時期や天候の変化により悪化する特徴があり、体に余分な水がたまることで血行が悪くなり痛みます。気候変化のほかに、冷たいもの、生もの、アルコール、辛いもののとりすぎなどで悪化しやすくなります。

 

漢方

薏苡仁湯、防已黄耆湯など

ツボ

陰陵泉、脾兪など

食材

緑豆などの豆類、冬瓜、とうもろこし、ハトムギ、もやしなど

 

 

 
体質で考える「腰痛」

腰痛の鍼灸治療

体質で考える「腰痛」

腰痛は腰部の“不通則痛(ふつうそくつう)”や“不栄則痛(ふえいそくつう)”という状態で、それぞれ“気血が通じないと即ち痛む”、“気血の栄養が栄えてないと即ち痛む”という意味です。鍼灸治療では“通則不痛(気血が通ずれば、すなわち痛まず)”の原則にのっとり、経絡(気血の通り道)を正常な状態に回復させます。治療は、腰にあるツボとともに、痛みや硬さのある場所に鍼やお灸をします。外界からの邪気は、経絡の中でも足の太陽膀胱経(たいようぼうこうけい)から侵入することが多く、足の少陽胆経(しょうようたんけい)にも影響します。足の太陽膀胱経は足の少陰腎経(しょういんじんけい)と表裏の関係にあり、腰部の治療には足の太陽膀胱経が第一選択になります。

腰痛で使う代表的なツボ
腎兪(じんゆ)、志室(ししつ)、天枢(てんすう)、腰腿点(ようたいてん)など。

 

暮らしのアドバイス

・疲れをためないようにしましょう
・長時間の座りっぱなしを避けましょう
・適度な運動をして血行をよくしましょう
・体を冷やさないようにしましょう
・肥満気味の人は体重を落としましょう

 

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒