「冷え性」を体質で考える

「冷え性」を体質で考える

「冷え性」を体質で考える

更新日:2023.11.13

 

 

 

「冷え」は万病のもと

多くの女性が抱えている冷えのお悩み。

生活スタイルの変化からか、近頃では男性も冷えで悩んでいる方が増えてきました。

冷えの悩みは重大な病気ではないためか、見過ごしてしまいがちの方が多いようです。けれど、昔から「冷えは万病のもと」と言われるように、百害あって一利なしなのです。

 

知っておきたい「冷え」のリスク

・ 内臓の働きが悪くなる ⇒ 免疫力の低下を招き、風邪や感染症のリスクに

・ 新陳代謝が悪くなる ⇒ 抜け毛や白髪や肥満、くすみやたるみの肌トラブルの原因に

・ 巡りが滞る ⇒ 血液やリンパに影響し、むくみの原因に

他にも、「肩こり」や「頭痛」「だるさ」「下痢」「月経不順」「鬱症状」など、慢性的な血行障害は百害あって一利なしです。

 

身体に出ている症状は異なっていても、よく調べてみると不調や病気の原因が身体の冷えにあることも珍しくないものです。逆を言えば、体の冷えをとることにより、不調が緩和することもあります。

近年では冷え取り健康法や、冷え取りグッズなどを多く見かけるようになりました。冷え性(症)の方にとって普段からセルフケアをすることはとても大切です。けれど、身体にこびりついて「体質」となってしまった冷えの場合、根本から改善したほうがいいものです。

 

「冷え」は改善できるの?

この冷え、「冷え性」または「冷え症」とも呼ばれますが、実は、西洋医学では病気としては扱われないので、冷えのための薬は存在しないことをご存知でしょうか。

中医学(東洋医学)では「冷え」を病気の一つとして捉え、「冷えの症状」の改善に向けてアプローチします。そのため中医学では、冷え性の体質を改善するための漢方薬があるのです。

 

冷え性の体質となる原因はさまざまです。

 

・冷房・職場環境・服装などの外的環境によるもの

・食事・運動・喫煙などライフスタイルによるもの

・ストレスや自律神経の乱れによるもの

・疲労や不眠、病気などの体調によるもの。

 

現在おかれている環境や状況に冷え性の体質を誘発するものが潜んでいる場合、冷え性の体質改善をしようとしても冷えが改善されなかったり、悪化する場合もあります。そのため中医学では、体質改善の際、漢方薬や鍼灸治療といった治療方法以外に、食事や運動・生活環境を改善する養生を重視します。

 

「冷え」と一言で言っても、手や足が冷える末端冷え性の方、お腹が冷える方、全身冷える方、低体温の方など、冷え症状の現れ方には個人差があります。なぜなら体質が違い、結果として冷え症状の現れ方が違うからです。 よく、冷えている原因は血行が悪いからと思われれがちです。血行をよくするために、水分量をしっかりとる、ストレッチをする、有酸素運動をするなどといった対策がお勧めされます。これらはもちろん血行をよくする対策ではあるのですが、血行が悪くなった根本原因を治す方法ではありません。そのため、血行を良くする対策をとっても冷えが良くなる方もいれば、良くならない方もいるのです。

 

中医学では血行が悪いといった場合、血液の質がドロドロしている、血液を流す力が弱い、血管が緊張して硬くなっている、貧血で流れる量が少ないなど、血行が悪くなった要因も含めて体質として考えます。これらの体質を見分けるためには、冷え性の共通症状だけでなく、それ以外の症状も確認するのです。体質を見極め、個人にあった方法をすることが改善効果を高めます。

 

 

冷え性の体質

冷え性の体質にはさまざまな分類があります。

ここでは、冷え性を、中医学の「気」「血」「津液(水)」の考え方で分類し、日本人に多く見られる体質をみていきましょう。 あなたに当てはまる冷えの状態はありますか?

 

<不足しているタイプ>

①温める力不足タイプ:陽虚(ようきょ)

陽虚とは「気」の中でも特に温める働きが弱い体質のことです。

温める力が弱いため、寒さが苦手、冷風が嫌い、なかなか温まらないといった特徴があります。お腹や下半身の冷え、手や足の末端も冷えます。中には体温が35度台の低体温を抱えている方も。体を温める力は体のエネルギーでもあるので、新陳代謝が悪く、疲れが抜けないなどの症状も見られます。

冷え:寒がり、全身が冷える、低体温、温度変化に弱い。

症状:下痢、腰痛、トイレが近い(頻尿)、夜間トイレに起きる、疲れやすいなど。

対策:陽を奪われないように体の負担を少なくすることと、陽を補い高めていくことがポイントです。

食事:生もの・冷たいものは控え、温かい飲食を。

生活:首・手首・足首を出さない服装をする。

 

②栄養物質不足タイプ:血虚(けっきょ)

体を栄養する「血」が不足している体質のことです。

血管内を巡る物質が足りなくなり冷えやすくなります。巡りが不安定になるため、末端や内臓などの毛細血管で冷えがでやすくなります。特に女性は「血」と関係が深いため、女性に多く見られ、生理や婦人科疾患にもつながります。

冷え:手足の冷え、朝より夜が冷える。

症状:顔色が白い、睡眠障害、ドライアイ、動悸、脱毛など。

対策:血を増やす食事をよくとり、胃腸に負担がかからないようにしましょう。

食事:赤い食材・黒い食材やたんぱく質を毎食とること。

生活:目を使い過ぎないようにする。

 

<滞っているタイプ>

③ストレス過剰タイプ:気滞(きたい)

ストレスや緊張により、体の代謝が悪くなった体質のことです。

交感神経が優位な状態が続くことにより、血管が収縮したままとなっています。特に手や足などの末端に冷えがみられます。緊張がゆるんだり、就寝時は冷えが緩和します。

冷え:手足など末端冷え、緊張で手が冷たくなる、冷えのぼせ。

症状:首肩こり、イライラ・落ち込み、膨満感など。

対策:ゆるむ時間をとりましょう。

食事:香りのよい食材やハーブティがおすすめです。

生活:ストレッチで凝った部位をゆるめましょう。

 

④血行不良タイプ:瘀血(おけつ)

血流が滞って、全身を巡る血の循環が良くない体質です。

身体を栄養する「血」が行き渡らないために体が冷えます。詰まる部位によっては冷たいところと、ほてるところが出ることも。瘀血体質になる原因はさまざまなため、単に温めればよいというものではなく、血の質をよくして流れの悪くなった状態を改善することが必要です。

冷え:下半身の冷え、末端冷え、冷えのぼせ。

症状:静脈瘤、生理痛、頭痛、シミなど。

対策:睡眠時間を7時間とりましょう。

食事:青魚、色の濃い野菜をとりましょう。

生活:立ちっぱなし、座りっぱなしなど「○○しっぱなし「を避けましょう。

 

⑤水分ためこみタイプ:痰湿(たんしつ)

体に余分な水分が停滞している体質です。水分の停滞はむくみやしこりにつながります。むくみは体を冷やし、しこりは代謝を滞らせます。また水分は冷えると余計に停滞し、悪化しがち。身体の余分な水分を取り除きましょう。

冷え:下半身の冷え、お腹の冷え、腰回りの冷え。

症状:頻尿、むくみ、痰、喉の詰まり、下痢、しもやけなど。

対策:水分の摂り過ぎに気を付け、温かいものを適量とりましょう。

食事:炭水化物の摂り過ぎに気をつけましょう。

生活:ゆったり入浴して全身を温めましょう。

 

 

 

中医学で対策 「冷え性・冷え症」

中医学に基づいた漢方や鍼灸では、冷え性の体質改善のための方法があります。先ほど冷え性の体質として「陽虚(気虚)」「血虚」「気滞」「瘀血」「痰湿」の5つを紹介しました。実際にお悩みの方では、一つだけの体質ではなく、複数の体質をお持ちの方が多くいらっしゃいます。さらに、胃腸機能である「脾」、自律神経を調整する「肝」、睡眠や精神を司る「心」、水分代謝を調整する「肺」、加齢や代謝に関与する「腎」という五臓六腑が弱っていることもあります。このように一口に冷えと言っても、その原因は人によって異なり、体質も異なります。そのため、自己判断ではなく、ご自分の体質を専門家に見てもらい対策を選択しましょう。

 

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鍼灸師からのアドバイス

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鍼灸治療では、冷えの原因となる体質に基づいた施術に加え、お灸を多用します。鍼の頭にお灸をつける灸頭鍼(きゅうとうしん)をすることで、さらに鍼とお灸の相乗効果が期待できるのです。ほかにもお腹や腰にカゴに入れたお灸を置いたり、背骨の上に艾(もぐさ)に火をつけたお灸を置いて全身を温めたり、手足の末端が冷える方には手先や足先に小さくちぎった艾のお灸を行います。

 

~今日からできるセルフケア~

・ストレッチやマッサージ、適度な運動をして血行をよくしましょう

・入浴により血行をよくし、心も身体もリラックスさせましょう ストレスを上手に発散しましょう

・入浴はシャワーですまさずに、湯船に浸かることが大切です

 

~おすすめのツボ~

・温める力不足タイプ(陽虚)に、「関元」「気海」など

・栄養物質不足タイプ(血虚)に、「三陰交」「足三里」など

・ストレス過剰タイプ(気滞)に、「内関」「太衝」など

・血行不良タイプ(瘀血)に、「血海」「三陰交」など

・水分ためこみタイプ(痰湿)に、「陰陵泉」「豊隆」など

 

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漢方専門家からのアドバイス

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冷えは、自覚症状のあるものから、自覚症状のない「隠れ冷え症(性)」もあります。

「寒くないから大丈夫」と思っていても身体の芯が冷えていたり、手足が温かいのにお腹に触ると冷たかったりと、知らず知らずに冷えを溜め込んでいることも多いものです。また、眠りの質が良くないために冷えを招くことも、逆に冷えのために睡眠の質が落ちることもあります。

 

~冷え性でよく用いられる漢方薬~

・温める力不足タイプ(陽虚):人参湯、八味地黄丸など

・栄養物質不足タイプ(血虚):十全大補湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯など

・ストレス過剰タイプ(気滞):逍遥散、四逆散など

・血行不良タイプ(瘀血):温経湯、桂枝茯苓丸など

・水分ためこみタイプ(痰湿):苓桂朮甘湯、真武湯など

 

 

 

冷えを進行させないために

「冷え」は、程度にも軽度から重度まであり、それが部分なのか全体的なのかも人によってさまざまです。

残念ながらこの冷えは、自然によくなるものではありません。けれども、きちんと対処すれば冷えは緩和、あるいは治るものです。

冷えは中医学では「未病」と呼ばれ、「病気」になるまえの症状です。

「手足が冷える」「冷え性なのかもしれない・・」

少しでも自覚がある場合は、早め早めが肝心です。

重度の「冷え症」や本格的な病気にならないためにも、軽度の「冷え性」の内に、一度ご自分のタイプを知って、早めに対策するのが良いでしょう。

そんな時こそ中医学の漢方や鍼灸が頼りになります。

 

 

 

 

 

 

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杉本 雅樹

監修 杉本 雅樹

医師

医療法人社団 マザー・キー 理事長


筑波大学医学群卒

筑波大学附属病院などの勤務を経て、平成17年9月、千葉県館山市にファミール産院を開院

現在は千葉県内にて複数の産婦人科診療所を運営

大谷孝枝

監修 大谷孝枝

薬剤師・鍼灸師・国際中医専門員・中医薬膳師

中国漢方普及協会 学術委員

株式会社 誠心堂薬局 営業部課長


北里大学薬学部薬科卒

東京医療福祉専門学校鍼灸科卒