漢方薬辞典-か行

 

化食養脾湯かしょくようひとう

効能効果

胃炎、胃アトニ―、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)、大棗(タイソウ)、神麹(シンキク)、麦芽(バクガ)、山楂子(サンザシ)、縮砂(シュクシャ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《証治大還》(清・陳治)にあるというが未見。この本の抄録が江戸時代、松岡如庵によって《証治大還摘抄》として残されている。

方意と構成

「六君子湯」の消化力を増強したものである。

心下部にしこりを感じ、みぞおちがつかえ、疲れやすく、手足が冷えやすいものに適用する。六君子湯に消化を助ける山楂子・麦芽・神麹・縮砂を加えると本方になる。

(管理No.02-064)

 

藿香正気散かっこうしょうきさん

効能効果

夏の感冒、暑さによる食欲不振、下痢、全身倦怠

配合生薬

白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、陳皮(チンピ)、白芷(ビャクシ)、藿香(カッコウ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、半夏(ハンゲ)、厚朴(コウボク)、桔梗(キキョウ)、蘇葉(ソヨウ)、大腹皮(ダイフクヒ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《和剤局方》の傷寒門、《万病回春》の霍亂門、中暑門に出ている。その後大観年間(1107‐1110)紹興年間(1131‐1161)宝慶年間(1241‐1251)およびそれ以後に増補が繰り返されている。本方は淳祐以後の《続添諸局経験秘方》中に収録されている。

方意と構成

藿香正気散の原方となっている「不換金正気散」は「平胃散」に藿香と半夏を加えたものである。これに気を改善する生薬の蘇葉・白芷・大腹皮・桔梗・茯苓を加え、病邪の発散や水の除去、利尿の力を増強したものが本方である。

主薬は藿香で大量に使う。風寒邪(風邪と寒邪が合わさった病邪)を除き、停滞した水湿を取り去って胃腸の消化を助ける。蘇葉も藿香を補助する。

半夏・陳皮は余分な水湿をさばき、胃の気を降ろして嘔吐や吐き気、呑酸に効く。厚朴・大腹皮は気を巡らせて水湿をさばく。これら辛味と苦味の組み合わせで、余分な水をさばく“燥湿”の働きをつよめ、下痢を止めることができる。脾胃の運化(胃腸の働き)を回復して余分な水を代謝する白朮・茯苓は下痢を止めるのを助け、生姜・大棗・炙甘草は脾胃と諸薬の調和に働く。桔梗は、諸薬の薬効を体の上焦部(体の上部)へ導く役割をするとともに、水道を巡らせて水の停滞を防ぐ。

(管理No.02-021)

 

葛根黄連黄芩湯かっこんおうれんおうごんとう

効能効果

急性胃腸炎、口内炎、舌炎、肩こり、不眠

配合生薬

葛根(カッコン)、黄芩(オウゴン)、黄連(オウレン)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》の太陽病中篇に「太陽病の桂枝湯証で、下痢を使ったらいけなかったのに、誤ってこれを下したため、下痢が止まらなくなってしまった。脉が促脈を現すのは表証がまだ解してないのである。ゼイゼイとしてが出るものは葛根黄芩黄連湯を使うべきである」とある。

方意と構成

葛根湯と瀉心湯(芩連剤)の合方といわれる。体表の病邪を取り去るとともに体内の熱も清する表裏双解剤である。

主薬は大量の葛根で、体表の病邪を散らすと同時に、脾胃の清陽(栄養物質や陽気)を上昇させることにより下痢を止める。黄芩と黄連は、腸胃の熱を抑えて下痢を止める。炙甘草は中焦部(胃腸)の保護と諸薬の調和に働く。

(管理No.02-022)

 

葛根湯かっこんとう

効能効果

感冒、鼻かぜ、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み

配合生薬

葛根(カッコン)、麻黄(マオウ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》には「太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き,項がこわばり頭痛,悪寒がするもの),項背強ばること几几(項から背中までこわばり動かしにくく)、汗無く,悪風するは,葛根湯これを主る」「太陽と陽明(病邪が体内にへの入り闘いが盛んで発熱し、胃腸に邪気が充実した状態)の合病は,必ず自ら下利す(下痢),葛根湯これを主る」とある。

方意と構成

本方は「桂枝加葛根湯」に、発汗して病邪を散らす麻黄を加えたものである。

桂枝加葛根湯の証は“毛穴が開き汗が出て悪風がするもの”に使用するのに対し、本証は“毛穴が閉じ汗がなく悪風するもの”に使用する。そのため、麻黄を加えて発汗させ、つよく散邪させるのである。

また、太陽・陽明の合病では、風寒邪(風邪と寒邪が合わさった病邪)が体表を侵して毛穴を閉じるために、正気と邪気の闘いによって生じる熱を排泄できず、大腸に降りてしまうため下痢を引き起こすようになる。葛根湯で太陽・陽明の邪を散らせば、体表から熱が発散できるため下痢が止む。

(管理No.02-023)

 

葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい

効能効果

鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎

配合生薬

葛根(カッコン)、麻黄(マオウ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、川芎(センキュウ)、辛夷(シンイ)

出典

文献的に定かではない。

方意と構成

「葛根湯」に川芎と辛夷を足したものである。

葛根湯で体表における風寒邪(風邪と寒邪が合わさった病邪)を散らしつつ、営衛(血中で全身を滋養する営気と体表で体温調整や防御をする衛気)のバランスを調和する。これに、風邪を取り除き気血を巡らせ止痛する川芎と、肺を温め体表の病邪を散らし鼻孔を通じる辛夷を組み合わせることで鼻の詰まりを解消することができる。

(管理No.02-024)

 

加味温胆湯かみうんたんとう

効能効果

神経症、神経症

配合生薬

半夏(ハンゲ)、茯苓(ブクリョウ)、陳皮(チンピ)、竹筎(チクジョ)、酸棗仁(サンソウニン)、玄参(ゲンジン)、遠志(オンジ)、人参(ニンジン)、地黄(ジオウ)、大棗(タイソウ)、枳実(キジツ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《千金方》に記載されている温胆湯が本となっている。《万病回春》の虚煩の項に加味温胆湯がある。

方意と構成

温胆湯に、養心安神剤(精神安定に働く薬)の酸棗仁・遠志や、気と陰(体液)を養い体力をつける人参・地黄・玄参を加えている。痰熱上擾(水分代謝が滞って濁り熱が生じて精神を乱している状態)による精神不安に用いられ、不眠や神経症などに適応される。

(管理No.02-025)

 

加味帰脾湯かみきひとう

効能効果

貧血、不眠症、精神不安、神経症

配合生薬

人参(ニンジン)、茯苓(ブクリョウ)、竜眼肉(リュウガンニク)、当帰(トウキ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、白朮(ビャクジュツ)、酸棗仁(サンソウニン)、黄耆(オウギ)、遠志(オンジ)、山梔子(サンシシ)、木香(モッコウ)、牡丹皮(ボタンピ)

出典

《内科摘要》(明の薜己)加味でない元の帰脾湯は《済生方》のものである。「思慮脾を傷る(思い悩んで脾を痛めるもの)を治す。血を摂するあたわず(血を血管内に保つことができず),血妄行する(血が暴れる)にいたる。あるいは健忘,怔忡(不安感・動悸)し,驚悸盗汗(驚いて動悸がしやすく寝汗がある)し,あるいは心脾痛を作し,嗜臥少食(横になりたくて食べたくない),大便不調,あるいは肢体重痛し,月経不調,赤白帯下(血が混じったおりもの)し,あるいは思慮脾を傷りて瘧痢(悪寒発熱などの症状に下痢が伴う)を患う」

方意と構成

帰脾湯に肝の疏泄(気血の巡りを伸びやかにする働き)を回復し、気を巡らせる柴胡と、三焦(全身)の熱を取り去る山梔子を加え、肝鬱化火(肝の疏泄が停滞して熱が生じた状態)を鎮める。

(管理No.02-026)

 

加味逍遙散かみしょうようさん

効能効果

冷え症、虚弱体質、血の道症、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症

配合生薬

当帰(トウキ)、白朮(ビャクジュツ)、柴胡(サイコ)、山梔子(サンシシ)、生姜(ショウキョウ)、芍薬(シャクヤク)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、甘草(カンゾウ)、薄荷(ハッカ)

出典

《和剤局方》巻九・治婦人諸疾に加味でないものが出る。加味逍遥散は明の薜己の《女科撮要》に出る。

方意と構成

逍遥散に血熱(血に熱がこもっている状態)を冷まし心肝の火を取り除く牡丹皮と、三焦(全身)の火を取り去る山梔子を加えて、熱を降ろすとともに水の停滞を除く。血の不足があり熱症がある月経不順にも適する。

逍遥散と加味逍遥散の使い分けは、のぼせ感のあるなしで見る。顔面紅潮、頭重などがあれば加味逍遥散である。

(管理No.02-027)

 

加味逍遙散加川芎地黄かみしょうようさんかせんきゅうじおう加味逍遙散合四物湯かみしょうようさんごうしもつとう

効能効果

冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、湿疹、しみ

配合生薬

当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、柴胡(サイコ)、茯苓(ブクリョウ)、白朮(ビャクジュツ)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、甘草(カンゾウ)、牡丹皮(ボタンピ)、山梔子(サンシシ)、生姜(ショウキョウ)、薄荷(ハッカ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》の加味逍遥散条に「男子婦人遍身(体中)に疥癬(皮膚の感染症)のようなものができて,かゆくてたまらず,いろんな治療を試みて効かないものに,この処方(加味逍遥散)に四物湯を合方して効くときがある」の記載がある。

方意と構成

加味逍遥散に陰血(体液と血)を養う熟地黄と気血を巡らせる川芎を加えたものである。

加味逍遥散の中にすでに当帰・芍薬があるので、地黄と川芎を足すだけで「四物湯」が加味される形となる。皮膚病に四物湯が効くことは黄連解毒湯と合している温清飲や、当帰飲子などでよく理解される。加味逍遥散もまた、地骨皮・荊芥などを加味して鵝掌風(進行性指掌角皮症)などにも応用されている。皮膚病だけでなく婦人科疾患にも多用される。

(管理No.02-028)

 

甘草瀉心湯かんぞうしゃしんとう

効能効果

胃・腸炎、口内炎、口臭、不眠症、神経症

配合生薬

半夏(ハンゲ)、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)、黄連(オウレン)

出典

《傷寒論》の太陽病下篇と《金匱要略》の百合狐惑陰陽毒病脈証篇に出る。

太陽病篇では「傷寒中風(風邪をひいて),医反って(間違って)これを下し,その人下利(下痢),日に数十行,穀化せず(消化不良),腹中雷鳴し,心下痞鞕(心下部の痞え)して満し,乾嘔し心煩(胸部がほてって落ち着かない)し安んずるを得ず,医は心下痞を見,病尽きずと謂い,復たこれを下し,その痞ますます甚だし,これ熱結するにあらず(熱ではない),ただ胃中虚する(胃の気虚)をもって,客気上逆(胃気の上逆)す,故に鞕くせしむるなり,甘草瀉心湯これを主る」とある。

方意と構成

「半夏瀉心湯」の甘草を増量した処方である。

甘草を増量することで胃の気を補い、中焦(胃腸)を鼓舞する。胃気の上逆による心下部のつかえ、未消化下痢、腹鳴を改善する。

(管理No.02-029)

 

甘麦大棗湯かんばくたいそうとう

効能効果

夜泣き、ひきつけ

配合生薬

甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、小麦(ショウバク)

出典

《金匱要略》の巻下・婦人雑病脈証治第22に「婦人の臓躁(ヒステリ―)で泣いたり笑ったりして神霊にでも取りつかれたようになり,しきりにあくびをするのは甘麦大棗湯を使うべきである」とある。

方意と構成

小麦は心陰(心の液)を養い、安神(精神安定)する。諸薬の持つ甘味の性味が発作に対して有効である。ヒステリ―、躁病、鬱状態、夜泣きなどに応用される。

(管理No.02-030)

 

甘草湯かんぞうとう

効能効果

激しい咳、咽頭痛の緩解

配合生薬

甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》少陰病に「少陰病になって2~3日,咽喉の痛む者は甘草湯を与えるとよい。それで治らない者には桔梗湯を与えよ」とある。

方意と構成

甘草一味のみの処方である。「甘草,急迫を治す」とあり、咽喉の痛みを治すだけでなく、激しい咳、痔疾、打撲痛、急性腹症の疼痛などの発作症状に頓服的に使用して効果を得ることが多い。

(管理No.02-065)

 

帰耆建中湯きぎけんちゅうとう

効能効果

虚弱体質、病後の衰弱、ねあせ

配合生薬

当帰(トウキ)、桂皮(ケイヒ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、黄耆(オウギ)

出典

華岡青州による《瘍科方筌》の処方である。

方意と構成

「桂枝加芍薬湯」に、当帰と黄耆を加え気血を補う。

(管理No.02-031)

 

桔梗湯ききょうとう

効能効果

せき、のどのはれ、のどの痛み、扁桃周囲炎、扁桃炎

配合生薬

桔梗(キキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》少陰病篇に「少陰病になって2~3日,咽喉の痛む者は甘草湯を与えるとよい。それで治らない者には桔梗湯を与えよ」とある。

《金匱要略》肺痿肺癰咳嗽上気病脈証治第七 附方 千金方に「咳して胸満し,悪寒して体が振るえ,脈は数,咽は乾燥しているが渇しているのではない。時々濁った生臭い痰を吐き,長い間には米粥のような膿を吐くようになる。この症状を肺癰(現代病では肺壊疽に相当)という。桔梗湯を使うべきである」とある。

方意と構成

桔梗と甘草の二味からなる。

桔梗は肺気を促して邪気の発散を助け、生甘草とともに咽喉の炎症を取り去る。

(管理No.02-032)

 

帰脾湯きひとう

効能効果

貧血、不眠症

配合生薬

人参(ニンジン)、茯苓(ブクリョウ)、当帰(トウキ)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、白朮(ビャクジュツ)、黄耆(オウギ)、遠志(オンジ)、木香(モッコウ)、生姜(ショウキョウ)、竜眼肉(リュウガンニク)、酸棗仁(サンソウニン)

出典

《済生方》に「思慮過度のあまり(思い悩みすぎて),心と脾を傷つけ,健忘症や怔忡(不安感・動悸)する病気になったものを治す」とある。

方意と構成

人参・黄耆・白朮・炙甘草・生姜・大棗で胃腸機能を高め、当帰で血を養い、茯神・酸棗仁・竜眼肉で精神安定をはかる。遠志は心腎を交通させることで精神不安を解消させ、木香は中焦(胃腸)における気の滞りを取り除き、気血の停滞を防ぐ。

(管理No.02-033)

 

芎帰膠艾湯きゅうききょうがいとう

効能効果

痔出血

配合生薬

川芎(センキュウ)、甘草(カンゾウ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、地黄(ジオウ)、艾葉(ガイヨウ)、阿膠(アキョウ)

出典

《金匱要略》婦人妊娠病脈篇に「婦人漏下(不正出血)のものあり,半産の後,よって続いて下血,すべて絶えざるものあり(流産後に出血が止まらないもの),妊娠下血するものあり(妊娠中に不正出血するもの)。たとえば,妊娠し腹中痛むを胞阻(妊娠中に腹痛がするもの)となす。膠艾湯これを主る」とある。

方意と構成

血を養い止血する阿膠と、温めて止血する艾葉が主薬であり、調経(月経の調整)と安胎(妊娠の維持)にも働く。熟地黄・当帰・白芍・川芎は「四物湯」であり、補血・止血・調経の効能をもつ。白芍と甘草はひきつるような痛みを取り、甘草は諸薬の調和も行う。

(管理No.02-034)

 

芎帰調血飲きゅうきちょうけついん

効能効果

産後の神経症・体力低下、月経不順

配合生薬

当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、陳皮(チンピ)、香附子(コウブシ)、牡丹皮(ボタンピ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)もしくは乾姜(かんきょう)、烏薬(ウヤク)、益母草(ヤクモソウ)

出典

《万病回春》産後門に「産後一切諸病,気血虚損(気血の不足),脾胃怯弱(胃腸虚弱),悪露行らず(悪露が出ず),去血過多(もしくは出血過多),飲食失節(飲食の不摂生),怒気相衝き(怒りやすく),もって発熱悪寒,自汗口乾,心煩喘急(胸部が落ち着かず咳がする),心腹疼痛,脇肋脹満,頭暈眼花(めまい・目のかすみ),耳鳴口噤(口を開けることができない),不語昏憒(意識不明)などの症を致すものを治す」とある。

方意と構成

産後の気血不足と残留した瘀血(血行不良)による症状に対し、血を養う当帰・熟地黄、胃腸機能を高める白朮・茯苓・甘草・大棗・生姜を配合している。気血の巡りを良くする烏薬・川芎・香附子・牡丹皮・益母草・陳皮により軽い悪露を取り去る。産後に限らず、気血不足の気滞血瘀(気が滞り血行不良がある状態)で冷えがあるものに広く使用するとよい。

(管理No.02-035)

 

芎帰調血飲第一加減きゅうきちょうけついんだいいちかげん

効能効果

血の道症、産後の体力低下、月経不順

配合生薬

当帰(トウキ)、地黄(ジオウ)、茯苓(ブクリョウ)、烏薬(ウヤク)、牡丹皮(ボタンピ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)もしくは乾姜(かんきょう)、川芎(センキュウ)、白朮(ビャクジュツ)、陳皮(チンピ)、香附子(コウブシ)、益母草(ヤクモソウ)、甘草(カンゾウ)、桃仁(トウニン)、紅花(コウカ)、枳実(キジツ)、桂皮(ケイヒ)、牛膝(ゴシツ)、木香(モッコウ)、エンゴサク(延胡索)、芍薬(シャクヤク)

出典

《万病回春》の芎帰調血飲の後に記載されている30の加減法のうちの3番目に「産後悪露尽きず(悪露が止まらず),瘀血は上衝し昏迷して醒めず(瘀血が上昇して意識不明となり),腹満硬痛するものは,当に悪血(古い血)を去るべし,依って本方に桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡索に童便、姜汁を少し許り加え、熟地黄を去る」として記載されている。これをさらに加減したものが本方である。

方意と構成

「芎帰調血飲」に桃仁・紅花・牛膝・延胡索・枳実・木香・桂皮を加えたもので、瘀血(血行不良)の傾向がより強いものに用いる。

(管理No.02-036)

 

響声破笛丸きょうせいはてきがん

効能効果

しわがれ声、咽喉不快

配合生薬

連翹(レンギョウ)、甘草(カンゾウ)、桔梗(キキョウ)、薄荷(ハッカ)、阿仙薬(アセンヤク)、縮砂(シュクシャ)、川芎(センキュウ)、大黄(ダイオウ)、訶子(カシ)

出典

《万病回春》には「謳歌によって音を失するを治す」とある。

方意と構成

桔梗湯に、炎症を鎮める連翹・大黄・薄荷、気の巡りを良くして痛みを止める縮砂・川芎を加える。阿仙薬・訶子には炎症で広がった血管を収斂する働きがある。

長期間にわたって声帯の酷使や無理な発声のための嗄声や失声に効果を発揮する。たばこの吸いすぎや、普段から喉が弱くてすぐ声が枯れる傾向があるものや、空気の汚れのための喉のむずむずや、精神的なストレスのための失声にも効果が報告されている。

(管理No.02-037)

 

玉屏風散ぎょくへいふうさん

効能効果

虚弱体質、疲労倦怠感、ねあせ

配合生薬

黄耆(オウギ)、白朮(ビャクジュツ)、防風(ボウフウ)

出典

《丹渓心法》に記載が見られる。

方意と構成

体表を守る衛気を補う“益気固表”の黄耆を大量に使い、白朮が脾胃(胃腸)を強化し気血を作ることで黄耆を補佐する。これにより病邪への抵抗力を上げ、毛穴から汗が漏れ出るのを防ぐことができる。防風は病邪を取り除く。

(管理No.02-066)

 

銀翹散ぎんぎょうさん

効能効果

かぜによるのどの痛み、口(のど)の渇き、せき、頭痛

配合生薬

金銀花(きんぎんか)、連翹(れんぎょう)、荊芥(けいがい)、牛蒡子(ごぼうし)、淡豆豉(たんとうし)、薄荷(はっか)、竹葉(ちくよう)、甘草(かんぞう)、桔梗(ききょう)、芦根(ろこん)もしくは羚羊角(れいようかく)

出典

《温病条弁》に「太陰風温・温熱・温疫・冬温・初起の悪風寒は,桂枝湯これを主る(温病の初期の風寒証には桂枝湯が用いられる),ただ熱し悪寒せずして渇するは,辛涼平剤の銀翹散これを主る(悪寒なく熱で口が渇くのには銀翹散を用いる)」とある。

方意と構成

主薬は金銀花・連翹で、風熱(風邪と熱邪が合わさった病邪)を発散し、熱毒を取り除く。荊芥・淡豆豉・薄荷がこれを助ける。牛蒡子・桔梗・甘草は解毒と利咽(のどの炎症を抑える)に働き、のどの痛みをとる。淡竹葉は上焦(上の上部)の熱をとり、芦根は清熱生津(炎症を抑え熱で失われた体液を補充する)に作用する。

風熱証にも若干の悪寒は出るが、短期間で熱感に移行する。のどの痛みや赤みなどを伴い、風寒(風邪と寒邪が合わさった病邪)による関節痛などは見られないのが特徴である。

(管理No.02-067)

 

駆風解毒散くふうげどくさん駆風解毒湯くふうげどくとう

効能効果

扁桃炎、扁桃周囲炎

配合生薬

防風(ボウフウ)、牛蒡子(ゴボウシ)、連翹(レンギョウ)、荊芥(ケイガイ)、羌活(キョウカツ)、甘草(カンゾウ)、桔梗(キキョウ)、石膏(セッコウ)

出典

《万病回春》咽喉門。原方名は「駆風解毒散」である。「痄腮は腫痛風熱なり(流行性耳下腺炎で腫れて痛むのは風熱によるものである)。駆風解毒散,痄腮痛み腫れるものを治す」とある。

方意と構成

桔梗湯に、荊芥・防風・連翹・羌活・牛蒡子・石膏を加え、風邪を取り去る“祛風”と炎症をとる“清熱”が強化されている。

(管理No.02-038)

 

清上蠲痛湯せいじょうけんつうとう駆風触痛湯くふうしょくつうとう

効能効果

頭痛、顔面痛

配合生薬

オウゴン、カンゾウ、キクカ、キョウカツ、コウホン、サイシン、ショウキョウ、センキュウ、ソウジュツ、トウキ、ドクカツ、バクモンドウ、ビャクシ、ビャクジュツ、ボウフウ、マンケイシ

(管理No.02-039)

 

荊芥連翹湯けいがいれんぎょうとう

効能効果

蓄膿症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、にきび

配合生薬

当帰(トウキ)、荊芥(ケイガイ)、芍薬(シャクヤク)、防風(ボウフウ)、川芎(センキュウ)、薄荷(ハッカ)、地黄(ジオウ)、枳実(キジツ)、黄連(オウレン)、甘草(カンゾウ)、黄芩(オウゴン)、白芷(ビャクシ)、黄柏(オウバク)、桔梗(キキョウ)、山梔子(サンシシ)、柴胡(サイコ)、連翹(レンギョウ)

出典

《万病回春》の耳病用と鼻病用に異なる配合の同名処方が載っており、一貫堂の森道伯がこれを合方して黄連と黄柏を加味した。

方意と構成

「柴胡清肝湯」から牛蒡子・天花粉を除いて、荊芥・防風・白芷・枳殻を加えたものに相当する。風邪を取り去り痒みを止める“祛風”と膿を出す“排膿”に重点がおかれているので、痒みや化膿などがやや顕著な場合に適する。

(管理No.02-040)

 

桂枝加芍薬大黄湯けいしかしゃくやくだいおうとう

効能効果

便秘、しぶり腹

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、大黄(ダイオウ)

出典

《傷寒論》太陰病篇に桂枝加大黄湯として出る。

「もと太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの)で,医師が誤って下し,これによって腹満し,時々痛むようになった。これは桂枝加芍薬湯が主る。大便が実して痛むものは桂枝加大黄湯がこれを主る」とある。

方意と構成

「桂枝加芍薬湯」に瀉下作用のある大黄を加え便を出す。桂枝加芍薬湯に少し腸に熱が帯びたもので、腹痛、腹満、あるいはしぶり腹が強く、大便の出が悪くなった状態を改善する。

(管理No.02-041)

 

桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとう

効能効果

しぶり腹、腹痛

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》太陰病篇に「本来,太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの)の治法をしなければならなかったのに,間違って下剤を使ったため,腹が張ってしくしく痛むようになった。これは太陰病になったからである。桂枝加芍薬湯を使わねばならない」とある。

方意と構成

「桂枝湯」の芍薬を倍量使うことで、桂枝湯が体表で効力を発揮するのに対し、薬効を体内に向かわせている。桂枝湯で中焦(胃腸)を温めて動きを良くし、芍薬で必要な陰血(体液や血)を補い筋肉の動きを伸びやかにして痛みを止める。

(管理No.02-042)

 

桂枝加朮附湯けいしかじゅつぶとう

効能効果

関節痛、神経痛

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、白朮(ビャクジュツ)、炮附子(ホウブシ)

出典

吉益東洞の《方機》に「湿家(普段から水分代謝が悪い患者),骨節疼痛(関節の痛み)するもの。あるいは半身不遂,口眼喎斜(顔面麻痺)するもの,あるいは頭疼重きもの(頭が重い),あるいは身体麻痺するもの,あるいは頭痛激しきもの,桂枝加朮附湯これを主る」とある。

方意と構成

「桂枝湯」に、体を温めて陽気を補う炮附子と、余分な水の滞りである水湿を除く白朮が加えられている。桂枝湯証に、寒湿(冷えと余分な水の停滞がある状態)による強い痛み、むくみ、冷えなどが加わった病態に適する。

(管理No.02-043)

 

桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとう

効能効果

神経質、不眠症、小児の夜なき、小児夜尿症、眼精疲労

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、竜骨(リュウコツ)、牡蛎(ボレイ)

出典

《金匱要略》虚労篇に「それ失精家(精液が漏れてしまう人)は少腹が弦急(下腹部が痙攣)して陰頭(陰茎先端)は寒ごえ,目眩(眩暈)して髪落つ。脈は極虚芤遅(極めて虚している脈)であれば,清穀(不消化便),亡血する。失精の脈は芤動微緊の状態である。男子なら失精,女子なら夢交(夢の中で性交)する」とある。

方意と構成

気血や陰陽(体液と陽気のバランス)を養う「桂枝湯」に、重量の重い中薬である竜骨・牡蛎を加えることで鎮静し、精神安定をはかるものである。

(管理No.02-044)

 

桂枝加苓朮附湯けいしかりょうじゅつぶとう

効能効果

関節痛、神経痛

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、白朮(ビャクジュツ)、炮附子(ホウブシ)、茯苓(ブクリョウ)

出典

吉益東洞の《方機》に「水毒のある人が眼がかすむとき,あるいは耳が聞こえないとき,あるいは筋肉が間代性痙攣でピクピク動くときは,桂枝加苓朮附湯が主る」とある。

方意と構成

「桂枝加朮附湯」に利水作用のある茯苓を加え、むくみ、めまい、筋肉がピクピクひきつるなど、余分な水が多く水湿停滞が顕著なときに使用する。

(管理No.02-045)

 

桂枝芍薬知母湯けいししゃくやくちもとう

効能効果

関節のはれや痛み、関節炎、神経痛

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、防風(ボウフウ)、白朮(ビャクジュツ)、知母(チモ)、炮附子(ホウブシ)

出典

《金匱要略》に「諸肢節疼痛(関節の痛み)し,身体魁瘰,脚腫節するが如く(体は痩せているのに関節だけ隆起して腫れている),頭眩短気(眩暈・息切れ),温温吐せん(嘔吐する)と欲するものは桂枝加芍薬知母湯之を主る」とある。

方意と構成

寒湿(冷えと余分な水の停滞がある状態)によって関節・筋肉の痛みやしびれがあり、局所の熱証が明らかなものに用いられる。

桂皮・麻黄・炮附子・防風により冷えと水の停滞を解消し、関節や筋肉の痛みを止める。白朮・生姜・甘草は脾胃(胃腸)を助け、利水を補佐する。芍薬により筋肉の痙攣をとり痛みを軽減し、局所の熱証(関節の発赤・熱感)に対して知母を配合し炎症を抑える。

(管理No.02-046)

 

桂枝湯けいしとう

効能効果

風邪の初期

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《傷寒論》太陽病上篇に「太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの),発熱し,汗出て,悪風するものは,桂枝湯これを主る」とある。

方意と構成

風邪の初期で、悪寒発熱し、じんわり汗をかいている状態に用いられる。

主薬は桂枝で、体表を温めて風寒の邪気(風邪と寒邪が合わさったもの)を発散し病邪を取り除く。生姜は軽度に発汗させることで、桂枝の作用を補助している。芍薬は毛穴を収斂して過度の発汗を止め、体液の流出を防ぐ。生姜・大棗の配合は、中焦(胃腸)の働きを高めるとともに、営気(血中で全身を滋養する気)と衛気(体表で体温調整や防御をする気)のバランスを整えて外邪を取り除く手助けをする。炙甘草は諸薬を調和すると同時に、芍薬とともに発熱や発汗による体液の消耗を防ぐ。

(管理No.02-047)

 

桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん

効能効果

子宮ならびにその付属器の炎症、子宮内膜炎、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害、冷え症、腹膜炎、打撲傷、痔疾患、睾丸炎

配合生薬

ケイヒ(桂皮)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、芍薬(シャクヤク)

出典

《金匱要略》婦人妊娠篇に「婦人がもともと腹部にしこりのある持病を持っていて,生理がなくなって2~3か月位した頃,出血が止まらないで腹に動悸がすることがある。これはもともとあった「しこり」が妊娠を阻害しているのである。(中略)そのしこりを下さなければならない。桂枝茯苓丸がその主治方である」とある。

方意と構成

血を巡らせて滞りを解消し、「しこり」を緩徐に消退させる。

桂皮は停滞している血を巡らせ、茯苓は余分な水湿を排出して桂皮の作用を補佐する。牡丹皮・赤芍・桃仁は、血の滞りを除くとともに熱を清する。

(管理No.02-048)

 

桂枝茯苓丸料加薏苡仁けいしぶくりょうがんりょうかよくいにん

効能効果

月経不順、血の道症、にきび、しみ、手足のあれ

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桃仁(トウニン)、芍薬(シャクヤク)、薏苡仁(ヨクイニン)

出典

不明

方意と構成

「桂枝茯苓丸」に薏苡仁を追加している。薏苡仁には消炎(抗炎症)、排膿(膿を出す)、水毒(水分停滞)やイボの改善が期待できる。

(管理No.02-049)

 

啓脾湯けいひとう

効能効果

胃腸虚弱、慢性胃腸炎、消化不良、下痢

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、蓮肉(レンニク)、山薬(サンヤク)、山査子(サンザシ)、陳皮(チンピ)、沢瀉(タクシャ)、甘草(カンゾウ)

出典

《万病回春》卷七・小児泄瀉

原方は啓脾丸という。「食を消し(消化を助け),瀉を止め,吐を止め,疳(夜泣きや癇癪)を消し,黄(黄疸)を消し,脹(お腹の張り)を消し,腹痛を定め,脾を益し,胃を健やかにす。小児常に傷食を患えば,之を服したらたちどころに愈ゆ」とある。ハチミツで丸剤とし,重湯で服用することになっている。

方意と構成

「四君子湯」に、消化を助ける山査子・陳皮・山薬、下痢を止める蓮肉・沢瀉が配合されている。

(管理No.02-050)

 

荊防敗毒散けいぼうはいどくさん

効能効果

急性化膿性皮膚疾患の初期

配合生薬

茯苓(ブクリョウ)、荊芥(ケイガイ)、防風(ボウフウ)、柴胡(サイコ)、連翹(レンギョウ)、薄荷(ハッカ)、桔梗(キキョウ)、枳殻(キコク)、川芎(センキュウ)、甘草(’カンゾウ)、羌活(キョウカツ)、独活(ドクカツ)、前胡(ゼンコ)、金銀花(キンギンカ)

出典

《万病回春》卷八・癰疽に「癰疽(急性化膿性炎症),疔腫(腫れもの),発背(背中のできもの),乳癰(乳腺炎)などの症を治す。憎寒,壮熱甚だしきは頭痛,拘急し,状,傷寒に似たり(悪寒発熱、頭痛、筋肉の引きつりは傷寒の病に似ている)。1,2日より4,5日に至るは1,2剤にしてすなわちその毒衰う。軽きは内に消散す」とある。

方意と構成

体表で病気の原因となる外邪を追い出し、風邪症状や皮膚の急性化膿症を改善する。

荊芥・防風・独活・羌活は、体表における風湿(風邪と湿邪が合わさったもの)の病邪を取り去る。枳殻・桔梗・前胡・茯苓は余分な水の停滞を取り除くことで、これを補佐する。川芎は血を巡らせ、痛みを止める。金銀花・連翹・薄荷・柴胡は風熱の邪気を外に追い出し、消炎解毒に働く。

(管理No.02-051)

 

桂麻各半湯けいまかくはんとう

効能効果

感冒、咳、かゆみ

配合生薬

桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、麻黄(マオウ)、大棗(タイソウ)、杏仁(キョウニン)

出典

《傷寒論》太陽病上篇に「太陽病(病邪が体表や体の上部を侵す病で、項がこわばり脈が浮き、頭痛,悪寒がするもの)になって8~9日経ち,マラリアのように発熱する。この発熱は発熱の方が多くて悪寒の方が少ない。その病人は吐かず,大便も自然に整っている様子である。1日2~3回発作を起こすが,脈が緩微の者は治ろうとしているのである。脈が微で悪寒するのは陰陽ともに虚しているためだから,その上,発汗したり吐かせたりしてはならない。虚しているのに反って顔に熱色を帯びているのはまだ緩解しようとせぬものである。少し汗が出れば緩解するのだが,出すことができないために、煩して体が必ずかゆくなる。桂麻各半湯の類を使うがよい」とある。

方意と構成

「桂枝湯」と「麻黄湯」の各1/2~1/3量を合わせたものである。

体表に風寒邪(風邪と寒邪が合わさった病邪)がまだ残っているが軽くなっている状態で、毛穴が閉じて熱がこもってしまうために顔色は赤い。邪が体表から外に出ようとしているが、うまく発散できず全身にかゆみが生じている状態であり、これを発汗して発散させる。桂枝湯では発汗させられず、麻黄湯では発汗させすぎるので、両方を合わせて少し発汗させるのがよい。

(管理No.02-052)

 

香砂養胃湯こうしゃよういとう

効能効果

胃弱、胃腸虚弱、慢性胃腸炎、食欲不振

配合生薬

白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(ソウジュツ)、厚朴(コウボク)、陳皮(チンピ)、香附子(コウブシ)、白豆蔲(ビャクズク)、人参(ニンジン)、木香(モッコウ)、縮砂(シュクシャ)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《万病回春》に「脾胃和せず(胃腸の働きが悪く),飲食を思わず(食べたくなく),口味を知らず(味覚がなく),痞悶して舒びざる(胃腸が痞えてのびやかにできず苦しいもの)を治す」とある。

方意と構成

胃腸虚弱で消化がうまくいかず、余分な水飲(水分停滞)と気滞(気の滞り)があり、食欲がないものに用いる。

脾胃(胃腸)の気を補う「四君子湯」と、体内の余分な水をさばいて消化機能を回復する「香砂平胃散」の合方に、気を巡らせ消化を促す“行気消食”の白豆蔲・木香を加えた処方である。

(管理No.02-053)

 

香砂六君子湯こうしゃりっくんしとう

効能効果

胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐

配合生薬

人参(ニンジン)、白朮(ビャクジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、半夏(ハンゲ)、陳皮(チンピ)、香附子(コウブシ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)、甘草(カンゾウ)、縮砂(シュクシャ)、藿香(カッコウ)

出典

《勿誤薬室方函口訣》には、「脾胃虚弱にして宿食(消化不良)短気(息切れ)を兼ね,飲食進まず,嘔吐,悪心,あるいは泄瀉後,脾胃整わず,あるいは風寒病(風寒の病邪による病)の後,余熱退かず,咳嗽やまず,気力弱き者を治す」とある。

方意と構成

胃腸虚弱で気力が衰え、手足倦怠、食後眠くなるような人で、特にみぞおちの痞えが強く嘔気悪心があるものが目標になる。気分の塞がりを開く働きがあり、気力も弱く、意気消沈している精神状態に適用される。

胃腸を強化して水や痰が停滞した状態を改善する“健脾化痰”の「六君子湯」に、気を巡らせる木香・縮砂・藿香を配合し、嘔吐・腹痛・お腹の張り・下痢を解消する。

(管理No.02-054)

 

香蘇散こうそさん

効能効果

風邪の初期、血の道症

配合生薬

香附子(コウブシ)、蘇葉(ソヨウ)、陳皮(チンピ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《和剤局方》に「四時の瘟疫傷寒を治す(季節関係なく感染症や疫病を治す)」とある。

方意と構成

普段から胃腸が弱く、みぞおちが痞え、気分がすぐれないような人の、風寒感冒(風寒の病邪による風邪(かぜ)の初期に用いる。また、感冒でなくても、気の鬱滞があり心下部の痞えや痛み・頭痛・頭重・耳鳴り・眩暈など神経症状を訴える場合にも適用される。

蘇葉と香附子が主薬であり、風寒の邪気(風邪と寒邪が合わさった病邪)を発散するとともに、気を巡らせて胃腸や精神神経の不快な症状を緩和させ、陳皮・甘草・生姜はこれを補佐する。

(管理No.02-055)

 

杞菊地黄丸こぎくじおうがん

効能効果

かすみ目、つかれ目、のぼせ、頭重、めまい、排尿困難、頻尿、むくみ、視力低下

配合生薬

菊花(キクカ)、枸杞子(クコシ)、地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)

出典

《医級》に「肝腎不足にて花を生じ(かすみ目)岐視(物が二重に見える),或いは乾渋眼痛等(病後の栄養不良で精気が衰え目が痛む)を治す」とある。

方意と構成

腎陰(腎の陰液)を補う「六味地黄丸」に、肝血を養い目の症状を改善する“養肝明目”の枸杞子と、肝気を抑え目の症状を改善する“平肝明目”の菊花を加えている。

(管理No.02-056)

 

五虎湯ごことう

効能効果

咳、気管支喘息

配合生薬

麻黄(マオウ)、杏仁(キョウニン)、石膏(セッコウ)、甘草(カンゾウ)、桑白皮(ソウハクヒ)

出典

《万病回春》喘息に「傷寒(急性熱性病にかかって),喘急するもの(呼吸困難になるもの)は,よろしく発表(邪を発散)すべきなり」とある。

方意と構成

肺の炎症をとる“清肺熱”の「麻杏甘石湯」に、肺の炎症をとり咳を止め呼吸状態を改善する桑白皮を加えて効力をつよめている。

(管理No.02-057)

 

牛膝散ごしつさん

効能効果

月経困難、月経不順、月経痛

配合生薬

牛膝(ゴシツ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、桃仁(トウニン)、当帰(トウキ)、牡丹皮(ボタンピ)、延胡索(エンゴサク)、木香(モッコウ)

出典

《婦人良方》に「月経が不順で,臍の周りが痛んだり,あるいは下腹部が腰にひきつれ,苦しさが胸脇へこみ上げてくるのを治す」とある。

方意と構成

血行不良を改善する“活血化瘀”の「桂枝茯苓丸」に、主薬である牛膝を加え、下焦(体の下部)の血行不良を解消する。気血を補い巡りを良くし痛みを止める木香・延胡索・当帰を足し、腹部を中心に痛みがひどく、下腹部や腰にまで痛みが差し込むものによい。

(管理No.02-058)

 

五積散ごしゃくさん

効能効果

胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、冷え症、更年期障害、感冒

配合生薬

茯苓(ブクリョウ)、蒼朮(そうじゅつ)もしくは白朮(ビャクジュツ)、陳皮(チンピ)、半夏(ハンゲ)、当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、厚朴(コウボク)、白芷(ビャクシ)、枳実(キジツ)、桔梗(キキョウ)、生姜(ショウキョウ)、桂皮(ケイヒ)、麻黄(マオウ)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)

出典

《和剤局方》「中(胃腸)を調えて気を順らし,風冷(冷気)を除き,痰飲(水や痰の停滞)を化し,消化系の宿冷(飲食物の停滞や冷え)や,腹や脇腹が張って痛むのや,胸膈に痰が停滞しているのやら,むかむかして嘔気があるものを治す。あるいは外(体表)は風寒(風邪と寒邪が合わさった病邪)に感じ,内(体内)は生冷に傷られ(生ものや冷たいもので内臓が傷つき),心腹痞悶し(心下部が痞え),目がくらんで頭が痛く,肩背がこって強ばり,体はだるく,熱はさしひきし,食欲は不振な症状を治す。また婦人の生理が不調で,心腹につまむような痛みがあり,月経不順,無月経などがある時は本方を服むがよい」とある。

方意と構成

外感風寒(風邪と寒邪による病)と同時に、生ものや冷えたものの過食で胃腸が冷え、消化機能が低下し、気血の巡りが滞った状態に適用する。「寒・湿・気・血・痰」の五つの積(毒)に対処するもので、五積散と名付けられている。

本方はいくつかの方剤が合わさったものとされ、体表の病邪を発散する“発汗解表”の「桂枝湯」、痰や水を除去する“燥湿化痰”の「二陳湯」、胃内の飲食の滞りを解消する“燥湿運脾”の「平胃散」、血を補い停滞を防ぐ“養血活血”の「四物湯」などにより、寒・湿・気・血・痰の滞りを除く。全身の気の滞りを枳実・桔梗が調整し、余分な痰も取り除く。

(管理No.02-059)

 

牛車腎気丸ごしゃじんきがん

効能効果

下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ

配合生薬

地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、サンヤク(山薬)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)、牡丹皮(ボタンピ)、桂皮(ケイヒ)、牛膝(ゴシツ)、車前子(シャゼンシ)、炮附子(ホウブシ)、

出典

《済生方》「腎虚(腎の機能が低下している状態)で腰重く,脚が腫れ,小便不利(小便が出ない)するのを治す」とある

方意と構成

体を温める腎の陽気が不足しており、冷えて水の停滞がつよく、下半身の浮腫、尿量減少が顕著になっているものに適用する。「八味地黄丸」に牛膝・車前子を加え、腎を強化し、利水して浮腫や腫れを解消する。

(管理No.02-060)

 

呉茱萸湯ごしゅゆとう

効能効果

頭痛、頭痛に伴う吐き気、嘔吐、しゃっくり

配合生薬

呉茱萸(ゴシュユ)、人参(ニンジン)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)

出典

《傷寒論》「穀物を食べれば吐きたくなるのは病気が陽明位(病邪が体内に入り闘いが盛んで発熱し、胃腸に邪気が充実した状態)になっているのである。呉茱萸湯の主治である」「少陰病(全身が衰え、冷えがある状態)で吐いて下利(下痢)し,手足が先の方から冷たくなり,手足をバタバタさせて今にも死ぬかという姿をする人は呉茱萸湯の主治である」

《金匱要略》「嘔いて胸満するのは呉茱萸湯の主治である」「声だけでゲエゲエして,生唾を吐いて頭痛するものは呉茱萸湯の主治である」

方意と構成

体内に寒飲(冷えと余分な水の停滞)がある人に用いる。

主薬の呉茱萸が胃の冷えを温め、吐き気や嘔吐を止める。呉茱萸には肝を温める働きもあり、寒飲による肝の疏泄失調(気血の巡りを伸びやかにする働きの低下)を回復させ、気の滞りをとることで頭頂部から側頭部の頭痛を改善する。生姜は呉茱萸の働きを助けて吐き気を止める。人参・大棗は中焦(胃腸)を補い、脾の清陽(栄養物質や陽気)を昇らせて肝の気を助ける。

(管理No.02-061)

 

五淋散ごりんさん

効能効果

頻尿、排尿痛、残尿感

配合生薬

茯苓(ブクリョウ)、当帰(トウキ)、黄芩(オウゴン)、甘草(カンゾウ)、芍薬(シャクヤク)、山梔子(サンシシ)、地黄(ジオウ)、沢瀉(タクシャ)、木通(モクツウ)、滑石(カッセキ)、車前子(シャゼンシ)

出典

《和剤局方》卷六積熱,または《万病回春》淋症に記載がある。

「肺気不足して膀胱に熱あり,水道通ぜず淋瀝(尿路感染症)して出ざるを治す。あるいは尿豆汁のごとく(豆汁のように赤いもの),あるいは沙石のごとく(砂が混じるもの),あるいは淋冷(冷えによるもの),膏のごとく(クリーム状のもの),あるいは熱淋尿血(炎症によるもので血尿が出る)皆効す」とある。

方意と構成

尿道炎、膀胱炎、尿路結石など膀胱に熱があり血尿を伴うものに用いられる。

炎症をとる赤茯苓・山梔子・赤芍・生甘草、黄芩および利尿作用のある車前子・沢瀉・木通・滑石からなる。陰血(体液と血)を養う当帰・生地黄の配合もあり、炎症や利尿による体液の消耗を防止できる。

(管理No.02-062)

 

五苓散ごれいさん

効能効果

尿利減少し、口渇、めまい、頭痛、浮腫などを伴うもの、腎炎、ネフローゼの浮腫

配合生薬

猪苓(チョレイ)、茯苓(ブクリョウ)、沢瀉(タクシャ)、桂皮(ケイヒ)、白朮(ビャクジュツ)

出典

《傷寒論》「急性熱性病の初期に,汗を出させた後大汗が出たので,胃中が乾いて煩躁し,眠れなくなった。この場合,水を飲みたがるものには少し水を与えると胃気が和してよくなる。もしこの時,脈が浮で小便不利,微熱してのどが渇くのなら五苓散の主治である」

《金匱要略・痰飲》「渇して水を飲み,飲めば吐いてしまうものを水逆という。五苓散の主治である」「例えば,やせた人で,臍の下でどうきがあり唾や泡を吐いて,激しいめまいを起こすのは水毒のせいである。五苓散の主治である」

《金匱要略・消渇》「脈が浮で,小便の出が悪く,微熱してのどが渇くものは小便を出させ,発汗すべきである。五苓散の主治である」

方意と構成

小便を出し、余分な水の停滞を除去する。

主薬の沢瀉は膀胱に作用して利水に働き、茯苓・猪苓はこれを助ける。白朮は脾の水湿の運化(水分代謝)を促進し、他生薬と共同して全身の水の巡りを改善する。桂枝は、体表における病邪を取り去るとともに、経脈を温め、血脈を通じ、水を巡らせ、水の気化(尿への転化)を促して利水を順調にさせる。

(管理No.02-063)